エピローグ
ハッピーエンドのその後を物語にしました。
エンドを迎えるまでのゲーム主人公リツカと、物語主人公エイリーナのやりとりやその後の話を面白く描けたらと思います。
読んで頂けたら嬉しいです。
~1 消えた花嫁~
「やった。コンプリート」
そう言い残し、笑顔と共に王太子妃となるはずだった花嫁は誓いのキスを終えて、祝福の鐘が鳴り響くなか消えた。
消えた。そう、消えたのだ。
花嫁の意見を取り入れ通例よりもふんだんに宝石をあしらった豪華なドレス、王太子と先ほど交わしたばかりの『約束の指輪』ごときれいさっぱりと。
ざわめく聖堂の中、事情を知らない外からは祝福の声が聞こえている。
爽やかな青空が広がる今日、19歳になるブレイス王国王太子ジェインの結婚式が執り行われていた。
ブレイス王国は古くから続く歴史ある大国で、特に近年は国王の手腕でさらなる発展を遂げている豊かな国である。
国民から慕われる国王の王太子の結婚式ということもあり、聖堂の周りには国民が詰めかけ、中には近隣国の王族や、ブレイス王国の重鎮達が顔を並べていた。
混乱が続く中、エイリーナはそっと外にでた。
「ふふふ、ふふっ・・・。くすくすくす。
ふふ、あは、っははは。ふふふ、やだ、止まらないわ。」
聖堂の後ろにある大樹の下まできたら、こらえていた笑いがこみ上げてきた。
王子の無様な姿を見て、渦巻く感情を押さえきれなかったのだ。
「・・・。可笑しいわ。本当に。」
そうつぶやきながら、エイリーナは頬をつたう一滴の涙を手でぬぐい、建国よりそびえ立つ大樹を見上げていた。
幸せが当たり前だと思ってた。そう、あの娘が現れるまで。
エイリーナ・ガル・オクトプルズは、オクトプルズ公爵家の令嬢で、王家より降嫁した叔母、そして何代にもわたり度々王家との婚姻を結んできた歴史ある由緒正しい家柄である。
エイリーナは艶やかなシルクのような金の巻き毛とぱっちりとした印象を与える長い睫毛の奥に晴れやかな空のような瞳を持つ金の薔薇と称される美少女だ。
「悪役令嬢の貴方には渡さないから。」
学園内の中庭にある聖女の噴水の前でそう宣言したのは、半年ほど前に王立学園に現れた黒髪に薄茶の瞳の「リツカ」と名乗る印象的な美少女で、リツカはマードラス侯爵の養女だ。
独身だったマードラス侯爵がどのような経緯でリツカを養女にしたのかは知られていなかった。
「聞いてるの?」
リツカは苛立ちながら自身の肩より少し長めの髪を手で払いながらエイリーナを睨んでいる。
「あっ悪役令嬢?」
エイリーナは聞いたことのないフレーズと、悪意あるリツカの物言いに驚き戸惑いを隠せない。
リツカはエイリーナのそんな反応を見て、つまらなそうに去っていった。
それが彼女との出会いだった。
王立学園は身分に関係なく貴族の10~18才の子供たちが集められている。
しかし、いずれ王太子妃になると決まっている生まれながらの王太子の婚約者、エイリーナにそんな敵意を向けてくる者など今までいなかった。
「どうかしましたか?」
振り向くとそこには王太子の実弟、第2王子のシオンが立っている。
シオンはエイリーナと同じ17歳になる。いつも明るく気さくで、生徒からも高い人気を持つ青年だ。
「いえ・・・。何だったのかしら。」
エイリーナは首を傾げながら、リツカが去っていった方を見つめる。
「ところで、相変わらず聖女のような美しさですね。エイリーナ。兄上にはもったいない。」
シオンはエイリーナを眩しそうに見つめる。
「し、シオン様も相変わらずですわね。もったいないお言葉ですわ。」
幾度となく繰り返されてきた挨拶代わりのやり取りだが、エイリーナはそれに伴うシオンの眼差しに未だ慣れることはない。
シオンに初めて会ったのは物心がついた幼い頃、王太子の婚約者として王宮を訪れたときだ。その頃からシオンがエイリーナに向ける眼差しは変わってはいない。
「エイリーナ。待たせたな。」
「ジェイン様。」
エイリーナはジェインが来た事で表情を引き締める。幼い頃から婚約者として恥じないように振る舞ううちにジェインの前では気を抜く事が出来なくなった。
「シオンもいたのか。エイリーナ、何もされておらぬか?」
「兄上の婚約者に手など出しませんよ。」
シオンはエイリーナが何か言う前に、いつものようにおどけながら答え、ジェインも、いつものようにならばよい。とエイリーナの肩を見せつけるように引き寄せた。
エイリーナはこのいつものやり取りが大変いたたまれない。
「シオンもくるか?これから建国祭の衣装を決めるのだ。私が学園の生徒として参加するのは最後になるのだから今年くらいは参加しろ。」
建国祭は半年は先だが、準備はもうすでに始まっている。パートナーのいる者は衣装を合わせ建国祭フィナーレの夜会に出席する。シオンは今まで一度も出たことがない。婚約者がいなくとも夜会の為のパートナーがいれば出席できるのだが、女性からの誘いは全て断っている。
「いえいえ、俺にはそばに寄り添う女神はおりませんから。いつも通り余った男たちと街で羽を伸ばしますよ。」
では、とシオンは立ち去った。
シオンの姿が見えなくなると、ジェインはエイリーナの肩から手を外し歩き出した。エイリーナはそっと息を吐きジェインの後ろについていく。ジェインはシオンの前でしかエイリーナに触れることはないのだ。
まだエイリーナとジェイン、シオンのそれぞれの思いが交錯する微妙な関係です。
これからリツカがぐいぐいくる予定です。