草原の狼の章5
誰よりも大切・・・
「カルーどうしたの?」
シルクがカルーの様子を見かねて聞いてきた。
カルーはケーナズが去って数日溜息ばかりをしていた。
「・・・・・・何だか闘ってもつまらぬのだ・・・・・
私が強くなりすぎてしまったせいか?」
カルーの言葉にシルクはクスクス笑って
珍しくカルーの頭をそっと撫ぜる
「・・・・ん?」
「・・・・・この間会った、ケーナズとかいう者に
約束したのでしょ?
強くなってるって・・・・それで又、手合わせするって」
カルーの後ろばかり付いている物静かなシルクは
今日は何だか大人っぽい
「・・・・・何だか妙に今日は・・・
兄のような態度・・・なのかな?・・・だな・・。」
「私だってカルーと双子なんだから
兄だって弟だってなれるよ」
サラリとシルクのカルーと同じ朱金の髪が
流れ落ちて
カルーの頬に触れる。
「・・・・・・美しいな・・・・・シルク
・・・私の双子の片割れにして
我が夫よ・・・。」
気が付けばカルーはシルクに
ギュッと抱き寄せられていた。
至近距離にある自分とよく似た
でも性格が表面に出て違う表情の
繊細なシルクの顔と落ち着いた赤茶の瞳を見つめていた。
激しい性格の自分の瞳と髪として見ているときは
まるで血に染まっているような
周りを燃やし尽くしそうだと思っていたが
シルクの瞳と髪の場合は色も質もそっくり同じなのに
なんとも不思議で綺麗で
夕焼けを映した川の水面のように静かで安らかで
月の女神の芸術を感じさせた。
「・・・・何時になったらまた闘えるのだろう
誰と手合わせしても奴ならどう返してくるのだろうか
と考えてしまう。」
「・・・・・何だか・・・・・カルーの心が
私から離れてケーナズに向かってしまったようで
寂しいな・・・・・・・」
カルーの言葉にシルクが寂しそうに笑う。
二人にとって生まれた時から唯一大切で
愛するものはお互いだけだったのだから
余計に一人残されるようで
寂しい気持ちがした。
「・・・・・まるで月の女神と太陽の神のようだね
・・・君が行ってしまうのではないかと
不安を感じてしまう・・・
溜息は、ケーナズを想ってだね?」
「・・・・何を言う!・・・
お前より大切なモノがこの世にあるものか!
愛しているぞ我が弟よ」
強くカルーはシルクを抱きしめた。
シルクは少し俯いてゆっくりと嬉しそうにうなずいて
カルーの頬に小鳥が啄ばむような口付けを落とした。
カルーもお返しにとシルクの唇に口付ける。
「・・・・それに・・・どちらかと言うと
私は月の女神と言う雰囲気ではないな・・・
お前の方が月の女神のように綺麗だ。
・・・・私の愛する唯一の肉親。
大切なシルクよ」
カルーの言葉にシルクは、瞬いてゆっくりと
かみ締めるように長い睫毛を伏せると
「・・・・・ありがとう、私の愛する唯一の人
たった一人の片割れカルー・・・
確かに君は静かに眠り続けて夜だけに姿をお見せくださる
月ではないね・・・月の女神の後をりっぱに継がれて
今、輝き続けている太陽の大神だね
暁の女王。」
想いを籠めて互いに抱きあう
「私達は、今まで、
親の愛情や恋というものも知らなければ、
互い以外に親愛の情を持ったこともない。
でも・・・・・大丈夫。分かっているよ私は、カルーが私を
愛してくれていること。
他に大切なものをカルーが持っても
それでも私は、カルーを愛している。」