草原の狼の章1
どうしても気になるあの者は・・・・・・
炎に包まれた剣を消す事も無くカルーは
その剣で自分の肩を叩く
「誰か私の相手になる者は居ないのか?・・・つまらん」
その足元には数多くの蹲って呻いている男達がいて
皆一様に掌や足や肩を押さえている。
「・・・・・・シルク!・・・シルク!」
しばらく呻く男達を見下ろしていたが
身を翻して双子の弟である夫を探す。
「やはりここに居たか。」
「カルー・・・・・・
・・・・・また・・・将軍達と手合わせしてきたのか?
・・・可哀相に・・」
将軍達に対して同情するシルクの表情に
少しバツの悪い顔をしたカルーはけれどすぐに
慌てて言う。
「・・・・・奴らが弱いのが悪いのだ!
・・・・私達を守る立場だと言うのに・・・・
将軍という地位を与えてやっているのに
一向に私に勝てない奴らが悪いのだ・・・・・
お前は少しは手加減してやれ・・と言うが・・・。」
カルーの言葉にシルクは苦笑いで返す。
姉であり、妻でありそして父カルフォス王が残した
広大な領土を治める女王であるカルーは
戦の愛し子
《紅の貴公子》と呼ばれた父王の才能をどうやら
色濃く受け継いだらしい。
更にそれだけではなく生まれた時に与えられた
月の女神に祝福された神の力を持っているのだから
けして弱いわけではないのだけれど
将軍といえども勝てなくても
仕方が無いものがあるのかもしれない。
「お前も剣の相手をしてくれないし・・・・つまらん・・・
出てくる!」
「・・・・・カルー・・・また一人で城壁の外に出るのか?
魔族征伐に・・・。
誰か連れて行ったほうが・・・
出て行こうとするカルーを呼び止めシルクがそう言うが
カルーは振り返ると小さく鼻で笑い
「・・・・この私が?この私が一人で危ないだと?
誰か連れて行く方が良いと?
邪魔になるだけだ!」
と言って今度こそ言ってしまった。
ギャーギャー
カルーが愛馬にまたがり、魔族から領民を守る為に
都市都市に築かれた城壁を出て少し行くとすぐに
鳥の様な魔獣が現れたのを見つけて
舌なめずりをする。
「おろかにも私を獲物と思って襲いに来たか」
弓矢も持ってきては居たが
射落とすのでは面白くないとカルーは笑みを深めて
スラリと腰の剣を抜く。
「・・・・・さあ来るが良い
逃げてはならないぞ」
魔鳥の大きな羽から発せられる爆風が
カルーの髪を服を弄り
風で到底目も開けては居られない。
カルーは呻く馬と自分の目だけを守る小さな結界を張って
受けてやるつもりで魔鳥の一撃目を待った。
ワクワクした気持ちで
握り締める剣の柄に汗が滲む
ギューン!
ところがカルーが何もしていないのに
魔鳥の真後ろから一本の強弓が飛んできて
魔鳥の脳天につき刺さった。
目の前で魔鳥が断末魔の声をあげてドウッと地面に倒れ付した。
近くに人影さえ見えない遠くから
たった一本の矢で城の塔の半分の大きさ程もある魔鳥を倒したのに
カルーは驚き、そして獲物を取られた怒りで矢が来た方向に馬を疾駆させた。
「・・・・・・私の獲物を取った矢の主は誰だ!」
その先で弓を手に立っていた見たこともない形の
青いたて襟の衣に短い青いマントを付けた男にそう問い詰めた。
「・・・・俺は・・・・いや・・・私は、遥か東の草原の戦士」
カルーを真っ直ぐに見上げたその顔は存外に若かった。
幼さを残していると言っても良いくらいの
自分と同じくらいの年齢のその顔に
カルーは再び驚いた。