儚き乙女の章10
ルージュの心をシルクは知らず
シルクの心をルージュは知らず
ルージュは全てが一途過ぎて
シルクは全てが優しすぎた
(私はルージュを傷つけてしまった。)
シルクは苦悩した。
如何すればよかったのか
早くルージュに真実を話せばよかったのだろうと思う。
しかし、シルクは直接ルージュの心に触れていた為に
ルージュの中の両親や家族や一族に対する深い愛情も
直接感じ取っていた。
(きっと私は恐ろしかったんだ・・・話す事によって
ルージュが離れてゆくのが)
今まさにその状態になってしまったけれど
シルクは苦笑が零れた。
(愛さなければよかった、出会わなければよかったとは
私は思えない。
ルージュの笑顔が私の癒しだった。
ルージュの<声>が<心>が私を孤独から救い上げてくれた。
ただのシルクとして愛している
ただのシルクを愛してくれた
けれど、ルージュにとっては・・・・)
(エーフィル様と出会わなければ
こんな事はなかったのだろうか?)
ルージュにとってはエーフィルは・・・シルクは、救いの神だった
そして、愛しい人だった。
(エーフィル様の前で私は
お父様とお母様を奪われた哀しみと苦しみを思い出してしまう
憎んでしまいそうになるそれはエーフィル様を汚してしまう・・・
私は、浅はかで、汚い)
いつまでも哀しみと苦しみと憎しみを抱えていられる事で
死んでいった皆と一緒に居られる気がした。
でも、やはり心の奥底ではエーフィル<シルク>が愛しかった。
清らかなエーフィル<シルク>が恋しくて堪らなかった。
(私は、清らかなエーフィル様と一緒に居る為に
自分も清らかで居たい。
そうなりたいと思っていたけれどもう駄目
憎しみを抑えられない。
エーフィル様が信じられないと思ってしまう
自分が抑えられない)
エーフィル様ごめんなさい
貴方の傍に居れなくて
貴方を綺麗な心で愛し続けられなくて
お父様、お母様、皆、ごめんなさい
エーフィル様を愛しているんです。
心と心で触れ合っていた二人は今、
ルージュの心をシルクは知らず
シルクの心をルージュは知らず
ルージュは全てが一途過ぎて
シルクは全てが優しすぎた
シルクは、刹那ルージュの心の叫びが聞こえた。
次いで風の精霊の叫びを聞いて飛び出した。
青い青い空に白い衣が翻る。
「ルージュ!!」
あの人をあの人を救って早く!早く!
めいいっぱい手を伸ばす。
私の愛する大事な人
吸い込まれそうな青い空に
身を投げた純粋で哀しい人
生きていてくれるだけで良いから
もう、これ以上傷つけないから
哀しい事は全部消してあげる。
シルクは、ルージュを風の力を借りて受け止めた。
「辛い事がいっぱいあったね・・・
最後まで君に辛い想いさせたね・・・・・
もう、悲しまなくて良いよ・・・もう・・。」
意識を失っているルージュの涙の跡で赤くなった頬を撫ぜながら
シルクは
言葉を発した。
禁じられた古の言葉を
『・・・・我、月の女神に祝福を受けし者シルク・フィエル=サフラの名において
我が愛する人、ルージュの記憶を奪う。
心に刻まれし哀しい想いも全て消え去れ
そして・・・・・・・ルージュの名を持つこの人に
幸せが訪れるように、もう哀しみがやってこないように
我、シルク・フィエル=サフラの全てをかけて祝福を送る。』
記憶を失い、心から哀しみを消されたルージュは、
シルクの命によって守られながら遠き地へと去っていった。
その身にシルクの子を宿しているとは
ルージュもシルクも知らないままに
無垢な赤子のようになった
彼女に人は尋ねた。
「・・・・名前は?」
彼女は答えた。
「・・・・エー・・フィル・・・?」
「え?・・・エーティル?」
彼の地で英雄となり国を興した彼女の息子は
彼女の名を国に付けた。
すなわち
『エーティル』
今の
『エーティル皇国』が
それであると言う伝説である。




