儚き乙女の章9
「・・・・ルージュ・・・・愛しいルージュ
私に微笑んでくれないのか?
私を愛してくれないのか?」
(ごめんなさい・・・ごめんなさい)
ルージュは眠りながら何度も謝った。
(ごめんなさい、お父様。
ごめんなさい、お母様。
皆々ごめんなさい・・・・許して・・・許して)
皆を殺した人の弟を愛してしまった。
その伴侶を愛してしまった。
ルージュは、エーフィルを愛してしまった自分を責めた。
全てを知ってしまってなお、
それでもエーフィルが愛しいと思ってしまう自分自身を責め
幾度となく心の中で謝った。
「・・・・・・ルージュ・・・・・・」
気遣わしげな声にルージュは目覚めた。
(・・・・い・・・・いや・・・・・!
私に触れないで!)
ルージュに触れようとするエーフィルの手さえ
払いのけて
寝台の横から心配そうに
ルージュの顔を覗き込んでいる
エーフィルに顔を背けた。
「済まない・・・・ルージュ、
隠していて、もっと早くに言うべきだったのかも知れないが
結局言い出せなかった。」
かたくななルージュの背中に向けて
エーフィルの声が響いてくる。
「我が名は、巫子王、シルク・フィエル=サフラ・・・
神の力を与えられたと言われている者だ。」
(どうして・・・?私に話してくれなかったのはどうして?)
何もかも聞くまいと耳を塞ぎ瞳を閉じ
布団を頭の上から被って
エーフィルいや、シルクを拒絶する。
溢れ出した涙が枕を濡らし
嗚咽が止まらない。
(貴方の顔をもう見ることが出来ない
触れる事も出来ない)
「・・・・・私は、本当に君を愛している。
今は信じられないかも知れないけど・・・
神の子、姉上の弟、国王の伴侶、巫子王、
そういう私に付けられた肩書きではない
私自身を君が愛してくれたと思って嬉しかった。」
(もうエーフィル様に会いません
エーフィル様を愛しません・・・・・だから・・・
だから、お父様、お母様、私をお許しください。)
「・・・ねぇ・・・・・君の声を聞かせて・・・
君に触れさせてくれないか」
シルクの声に、
嫌だと良いたげに
ルージュは、身を硬くして逃れようとする。
(・・・・お父様とお母様と死んでいった一族達
ずっとそれだけを見つめているからもう、他を見ないから
私を一人にしないで)
「・・・・・もう・・・私に・・・」
耳を塞いでいるのに
シルクの声が耳に、否、心に直接届いてくる。
私の心を侵さないで
貴方の声を聞きたくないのに
私の心を知られたくないのに
心をかき乱されたくないのに
「・・・・ルージュ・・・・愛しいルージュ
私に微笑んでくれないのか?
私を愛してくれないのか?」
( !!)
ルージュは自分の心に耐え切れずに
悲鳴をあげた。




