幼子の章1
私達に温かさを下さい・・・・・・
「カルフォス様は・・・・神に愛されたお方」
カルフォスが亡くなり、住んでいた所を追われた
民達は心の拠り所を求めていた。
「神に愛されたカルフォス様のお子様は・・・・
カルー様とシルク様は神の神子だ・・・」
カルフォス王の臣下達は残された小さな大陸に
遷都し、まだ乳児でしかないカルーとシルクを
異例の同時立太子した。
「要らない!・・・付いて来るな!・・来いシルク」
「・・・カルー!」
朱金の髪の幼子が二人謁見の間を出て行く。
「お待ち下さい御子様方!」
王太子の地位についている
成人前の主君達を支える宰相が
慌てて止めるものの
姉姫カルーはちっとも気にせずに出てゆく
弟王子シルクは気遣わしげに後ろを振り返りはするものの
姉のカルーを一人にするわけには行かず
付いて出て行ってしまった。
パタパタと侍従が二人の行く手の扉を次々と
空けて行く音が遠ざかって聞こえなくなった。
「・・・・あれが・・・・あの方がたが
神の御子達・・・・」
二つの王座の前に跪いていた男は、
感心したように小さく呟く。
「・・・お子様方はまだ、5歳を数えたばかり
人の世の政治などはお分かりにならないのでしょう・・・」
宰相は苦笑しつつ答えた。
声が届く、何かあったときにすぐに対応できる
位置に数多くの従者が取り巻いている
その場所でいかにもうっとおしげに
カルーがシルクに話しかける。
「あいつらは、煩いな・・・シルク。」
「駄目だよシルク・・・宰相困ってたじゃないか・・
あの人だって・・」
カルーの言葉に諭すようにシルクが言うのに
ムスッとしたままカルーはそっぽを向いて
もう良いとばかりに耳を押さえてしまう。
「カルー・・・・。」
ため息さえ付きかけてどう言ったものかと
シルクは戸惑ってじっと見つめるが
「煩い!煩い!・・・・・
うっとおしいばかりだ皆!」
首を振って苛立ちを見せるカルーを周りの者は
困った顔をするだけで近寄ろうともしない。
二人は、周りの誰とも違う存在
神の御子なのだから
気軽に声を掛けたり触れたり出来る存在ではないのだから・・
「シルク・・・・・つまらないんだ・・・
何もかもがつまらなくて寂しい・・・・」
「カルー」
そっとカルーは、抱きしめてくれるシルクの背中に手を伸ばして
お互いにギュッとしがみ付いて温かさを分け合う。
「・・・・・献上の品なんていらない・・・・・
私達が国を治めているのではない・・・
私達は座っているだけ・・・」
「・・・・うん・・・・」
「そんなもの・・・・いらない・・・
いらないんだ・・・」
「うん・・・」
じゃあ何が欲しいのか・・・・
何故こんなにギュッと強く強く抱きしめあっていないと
寒いような
寂しいような気持ちになるのか
二人には少しも分からなかった・・・
只・・・どうして自分たちには
お互い以外に温かい手が胸が無いのだろうとそう思っていた。