儚き乙女の章3
(私に口付けしたのは、エーフィル様?)
「こんにちはルージュ」
シルク――エーフィルの声にルージュは微笑を返した。
あれから時々思い出したように
エーフィルが会いに来てくれる事が
ルージュの楽しみになった。
いつも不思議な人
思えば、言葉が話せないと
ルージュは教えた事は無かったと思うのに
いつの間にかエーフィルは知っていた。
でもそれだけではなく
いつもこの人の周りには
温かくて、優しくて、
清浄な空気が取り巻いていた。
いつものように
ルージュが洗濯をしたり
掃除をしたりするのを邪魔する事も無く
エーフィルは、静かに見ている。
どうやって知るのか
周りに人が居ないときにしか
来てくれないけれど
辛い筈の仕事が、
エーフィルが見ていると思うだけで
楽しい気がした。
「お疲れ様、ルージュ」
一つの仕事が終わるたびに
エーフィルはそう言って微笑んでくれる。
どうしてエーフィル様は、
私なんかを構ってくださるのだろう?
ルージュは疑問に思う
けれど、今はそんな事を考えずに
温かいこの雰囲気を味わいたかった。
エーフィル様の笑顔が
増えて
私の笑顔も増えて
なんて幸せなんだろう
そう思った。
ある日、ルージュが仕事に疲れて
(今日はエーフィル様は来て下さるだろうか?)
と思いながら少しウトウトとしながら待っていると
ふいに顔に影を感じた。
(エーフィル様来て下さったのかしら?)
目を開けようとするもののどうしても
重たくて開く事が出来ない、
心の中だけで焦っているうちに
唇に何か柔らかい感触が当たった。
慌てて目を開けた時には誰も居なくて
夢かと思ったが、
妙に触れられた唇の感触だけリアルで
ルージュは思わず赤面してしまった。
(私に口付けしたのは、エーフィル様?)
その日はそのまま
エーフィルが来る事はなかった。




