儚き乙女の章1
寂しくて、悲しくて私は、
毎日泣いてばかりいたけれど少しだけこれからは
強く生きていける気がする。
「あれは?」
サフラ国巫子王シルク・フィエル=サフラは
妻にして姉であるカルーがいつもの様に出て行くのを
見送ってから
日課の女神への祈りに神殿に向かっていた。
「は!?・・・・なんでございますか?」
渡り廊下の途中でふと中庭に瞳を落としている
シルクに対して後ろに付いて居た神官が問いかける。
「何をしている?」
シルクの視線を追って中庭にへと視線を落とした神官は
慌てて
「お目汚しでございました
すぐにやめさせるように言います。・・・・誰か!」
中庭では、割れた壷と倒れた手押し車と
零れているワインらしい赤い色の液体と
折檻が行われていて
その様子がシルクの気に障ったのだと神官は思った。
「・・・・・・・いや・・・・良い・・・
後でこれをあの娘に」
一瞬無言で眉根を寄せていたが
ふと思ってシルクは自分のハンカチを神官に渡した。
「怪我をしているようだ
血の穢れを感じる。」
「もうしわけございません!・・・・・
ですが、あの、巫子王様のハンカチをあの娘にですか?」
神官の視線に慌てて
「・・・・・深い意味は無い・・・・ただ・・・」
常に身に着けているものを渡すと言うのは
心を渡すと見なされても仕方が無い
しかし、シルクは彼女を哀れに思ったのだ。
風の精シルフが伝えてくれた
壷の破片で切ったらしい彼女の怪我の血の匂い
と
『お前はもう姫君でも何でも無いんだよ・・・・・忌々しい
どうして私があんな男の娘なんかの面倒を・・
さあ、ぐずぐずして無いで此処を片付けたら次は一階の床を
全部お前に磨いてもらうからね』
という声
詳しい事は分からないでもその声は憎しみに満ちていた
女も辛いのだろう
しかし、その憎しみを浴びせられる
彼女はどんなに辛いだろうと思った。
父上と姉上の戦いの影には
幾人も、国を追われた者や罪を問われた者達が居た。
その中には本人にはなんの咎もないものの
立場を落とされて不遇の目に会う者が多く居るらしい。
(済まない・・・・・巫子王の地位に居ながら
無力な私で本当に済まない)
シルクは心を残しながらその場を去った。
「・・・・・・・・フフ・・」
ルージュは、数日前に誰かから貰ったハンカチを
懐から出して微笑んだ。
誰だかわからないけれど
私を見ていて下さった方が居るのだ
そう思うと少しだけ元気になれる気がする。
いつものように言いつけられる山のような仕事も
辛い折檻も耐えられる気がする。
「・・・・・・・??・・」
でも誰なのだろう
ハンカチを渡してくれたのは神殿の神官見習いだった。
あるお方が不憫に思われてこれを渡すように
仰ったのだと
その言いようと、綺麗な刺繍の入った
真っ白なハンカチを見ると
ずいぶん身分の高い方だと思うけれど
(何で香り付けしているのか
ハンカチから仄かに香る匂いも優しく落ち着く格調の高いもの)
家を追われて
きょうだいも親類もバラバラになってしまい
父と母は、目の前で処刑されて
私は声さえ失ってしまったけど
寂しくて、悲しくて私は、
毎日泣いてばかりいたけれど少しだけこれからは
強く生きていける気がする。
ルージュは籠いっぱいの洗濯物を抱えて
軽い足取りで水場へと向かった。




