草原の狼の章9
ケーナズ、お前の事が好きなんだ
「好きなんだ」
カルーは恋というものを自覚した。
「私はケーナズのことが諦められないほど
私だけを見て欲しいと思うほど好きなんだ」
簡単に諦められないもの
独占したくなるもの
離れていってしまうと考えると気が狂うかと思う気持ち
弟のシルクを想うのとは
全く違う気持ち
これが恋なんだとカルーは知った。
自分は、このサフラ国の王、
巫子王である双子の片割れシルクを夫としている身、
二人の間に世継ぎとなる王子をすでに儲けていた。
「シルクどうしたら良い・・・」
大切なシルクを裏切りたくない
それにケーナズを愛人になんて
中途半端な立場に置きたくない。
たった一人ケーナズだけを愛したい
ケーナズにも自分だけを愛して欲しい。
シルクにもケーナズにも真剣な気持ちで
向か合いたい。
「カルー、俺の・・私の暁の女王
私の心は貴方のものだ」
「駄目だ!私はお前と共に
生きる事は出来ぬ
お前の心を貰うわけにはいかない・・」
何度も心をくれようとする
ケーナズにカルーはそう答える。
「貴方を奪い去り
私だけのものにしてしまいたい
戦士の愛は激しくも諦められぬもの
欲しいものは奪えと教えられる。」
狂おしく掻き抱かれながら
カルーの心はケーナズの愛と
自分の気持ちで揺らめく。
しかし
「・・・ならぬ・・・ならぬのだ
そんなことは不可能なのだ
どうかケーナズ・・・・・他の女と・・・」
砂を噛む様な気持ちで搾り出す。
国への責任とシルクとケーナズへの想い
ケーナズと共に逃げたいと想いながらも
ケーナズを縛り付けてはいけないと思う。
このままで良い筈が無い
私がケーナズと共に居れないのなら
他に愛する女を作って
ケーナズは、幸せにならなければいけないのだ。
ケーナズは、その言葉に怒りの表情になると
激しくカルーの唇を奪った。
口付けを受けながらカルーの胸は、張り裂けそうだった。
(誰も見ないでくれ
私だけを愛してくれ
他の女など他の誰かのものにならないで
ずっと私の傍に居て愛して・・)
「・・・・・貴方を殺してしまいたい
私を愛さないと言うその口を塞いで
私だけを瞳に映させながら
息を止めてしまいたい。」
「・・・・・死んでも良い
お前になら殺されても良い・・お前を見つめながら
お前の腕の中で息を引き取れたらどんなに幸せかと思う」
カルーの言葉に、ケーナズの瞳が揺れて
苦しい表情になる。
(そんな顔をさせたい訳じゃないのに)
カルーはケーナズの瞳の中に映っている自分を見つめながら
そっとケーナズの首の後ろに両手を伸ばす。
抱いてくれるケーナズにカルーの方もしがみ付きながら
「けれど、他の誰かを・・・ケーナズ」
と言葉を絞り出す。
ケーナズの瞳に映った
カルーの顔は今にも泣きそうに崩れていた。
(ケーナズ、お前の事が好きなんだ)




