草原の狼の章6(再会)
お前と私、確かに共鳴している・・・
「誰だ!」
夜、眠ろうとしたカルーは、ふと人の気配を感じて
窓のカーテンを思い切り引いた。
コンコン
と窓を叩く人影、青い衣を身にまとった褐色の髪の
青年になりきれて居ない少年のシルエット
「・・・・・ケー・・・ナズ・・・?」
暗闇の中淡い月の光を後ろにして
立っている為に顔が見えないけれど
カルーは思わずそう言って
窓の傍に訳が分からないながらもそっと近づいてみる。
コンコン
再び窓を叩いて
開けて欲しいと間近に近づき、やはりケーナズだと分かった
人影は訴えかけた。
手を出しかけてカルーは手を引っ込めた。
「・・・・急に、しかもこんな夜に・・・・
よりによって寝室に何の用で来たのだ
・・・・無礼なやつめ・・・・開けないぞ」
「出直して来い」
と続ける言葉とほぼ同時にバリンと窓の木枠ごと叩き斬って
ケーナズが入ってきた。
あまりのことにカルーは対応さえ忘れて立ち尽くす。
「カルー!」
「女王陛下!」
物音に慌ててシルク達が来るがそんな事さえ無視して
ケーナズはカルーに手を伸ばして抱きすくめる。
さすがにカルーが反射的に抵抗するが
カルーもまったくこの状況が読めないので
たいした抵抗も出来ずにいつのまにやら
ケーナズに横抱きにされてベランダから飛び降りさせられてしまった。
「・・・な・・な・・な・・な・・・
なんなんだ!・・
いったい!ケーナズ!
どういうつもりで私にこんなことをしているのだ!」
ケーナズは急に立ち止まってそう言って叫ぶ
カルーをじっと静かに見つめた。
「・・・理由があるのだろう?
・・・なんだ?」
止まってくれたことに少し安心してカルーがそう言うと
無言でケーナズはカルーに口付けした。
「黙って」
頭が真っ白になったカルーを再び抱き直してケーナズは
再び走り出した。
「・・・・女王を、攫って行く
女王を、俺のモノにする」
「な・・・・なんだと!?」
訳が分からないながらも大変なことになりつつあると思った
カルーは、逃れる為に
ケーナズの腕に炎の熱を放ち
怯んだ隙に抜け出した。
「ケーナズお前!」
「・・・・・どうやら俺はお前が好きらしい
お前が欲しいらしい・・・・・」
ケーナズの顔をしげしげと見る。
「・・・・初めは、強いから又、闘いたいと
思って気になっているのだと思っていた。
でも、・・・・・お前を俺の妻にしたいようだ。
俺は・・。
女王カルー・・・いやカルー
俺のモノになってくれ」
ケーナズの真剣な瞳に初めて向けられた熱を帯びた瞳に
カルーは、激しく胸が鼓動を刻むのを感じながら
「・・・ちょ・・・ちょっと待て・・・付いていけない
えっと、お前、私が好きだって!?・・何を言う!
第一私は、この大国、サフラの王だ
シルクを夫とし、次代をすでに育んでいる身だ
お前の妻にはなれない」
「戦士の愛はあきらめられぬ物
そして戦士は欲しいものは奪う」
カルーは首を振って否定する
ケーナズがカルーを愛していることも
ケーナズと共に行くことも
「お前の心など信じない。
・・・私はけしてお前と共に行ったりなどしない
私の全力を持って抵抗する」
「・・・・かならず奪う・・・・」
燃えるような瞳でカルーを見るケーナズに
カルーは思わず微笑み
けして私は行きはしない
自由なお前が、
いつまで共に生きようとはしない妻にならぬ私に
執着していられるかな
そう思って少し悲しくなった。
「・・・・・分かった・・・
ならば・・・俺は、いや・・私はこの国に
サフラ国女王、カルー・ルミエラ=サフラに仕えよう
そして隙を狙っていることにしましょう。」
いつまで居られるかな
カルーは苦笑した。
お前と私、確かに魂が共鳴している。
私もきっとお前が愛しい・・・のだと分かってしまった。
でも、自由な、とらわれないケーナズと、
とらわれてがんじがらめな私。
恋したお前へと飛び込んで行くことが出来ない私は
決してお前と共に生きることは出来ない。