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俺の婚約者が

作者: 某公爵

ある晴れた日。


婚約者と劇を見に行く約束をしていた俺は、彼女を公爵家の客間で待っていた。

彼女の事を考えると顔から自然と笑みがこぼれ落ちる。


俺の婚約者マリアンヌはかなりの変わり者だ。


始めて会ったあの驚きは今でも忘れない。


いや、遭遇したと言った方があっているか。



仕事で公爵家に足を運んだ時、庭の木に登ったはいいが降りられなくなっている少年を見つけて下ろしてやった。

色白の少年は頬をピンク色に染め、もじもじしながら蚊の鳴くような声で「ありがとうございます……」とつぶやいた。

そこにメイドがやって来て、少年を叱り俺が客だと言う事を伝えた。

すると少年は慌ててズボンに着いている土を払い俺に向かって礼をとった。


少年は流れるように完璧な令嬢の礼をした、ドレスの裾をつまむかわりにズボンをつまんでいなければもっと良かったが。


少年だと思っていたが、彼女はれっきとした公爵令嬢だと後で分かった。


彼女、マリアンヌは実に面白かった。

今までに出会ったどの系統でもない、変わった少女。


だからだろうか、うるうるの目をした彼女の事が頭から離れなくなった。


虐めてみたい泣かせてみたい、一度みたら飽きる、ただその程度の興味だろう。


しかし公爵令嬢を泣かせたら後でとんでもない事になる。


あの時、俺が微笑んで許したのでマリアンヌの中では優しい人になっているようだ。

だったら徹底的に良い人間を演じよう。

結婚して逃げられないようにして本性を出して好きなだけ虐めたら、マリアンヌはどんな顔をするだろう。


きっと俺の事が嫌いになるだろう。

他の誰かの所に言ってしまうかもしれない。


それは少し嫌だと気づいたのは、最近の事だ。





紅茶を飲んでいるとメイドが入って来た。

マリアンヌはドレスを着ているので時間がかかると言う事だ。

彼女はいつもズボンをはいているから足を取られ転けるかもしれないな。


妙にリアルにその映像が頭に浮かんだ。


俺は心配になりマリアンヌの部屋へ向かう事にした。


階段を上がろうとするとメイドの悲鳴が聞こえたので上を向くと、今まさにマリアンヌが落ちてくる所だった。



「まったく、貴方は何処までお転婆なんですか」


ため息を附き、本来攻撃用の風魔法を使って傷一つつかないようマリアンヌを受け止める。

慌てて二階から降りて来たメイドに正座をさせられて、マリアンヌが涙目になるのを見るとどうしようもなく顔がにやけてくる。


ああ、俺は歪んでいる。


マリアンヌが楽しそうに笑うよりも、泣いていてほしい。


だってその方が楽しいじゃないか。


そう思っていると突然マリナンヌが固まった。

どうしたのだろうか。


「マリアンヌ?」


声を掛けても反応がない。

いつもならはにかみながら俺の名前を呼んでくれるのに。



「どうしたのですか?」


紳士的にマリアンヌへと手を伸ばすと、一瞬俺の方をみて。


手を払いのけられた。


……え?


そのまま二階へ駆け上がってしまうマリアンヌをメイドが呼び止めているがそんな事はどうでもいい。

拒絶しただと?

睨んだだと?


嫌われた?


……マリアンヌに?



「申し訳ありません!!」


「いいんですよ」


そんなはずは無いあのマリアンヌだぞ、と言い聞かせ紳士的に振る舞った。


何かの間違いだ。

多分さっき笑ったから拗ねてるんだろう。

俺は謝るメイドに笑いかけ自分が説得すると言い、二階へ上がり彼女の部屋をノックする。



「マリアンヌごめんなさい、何か気に触りましたか?」


謝るなど屈辱的だが、これで彼女の機嫌が直るはずだ。

いつだって謝れば彼女は許してくれた。


しかし返事が無い。


控えめに扉を叩くが反応がない、少し強めに叩いても反応がない。


なぁ嘘だろ?


コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン、バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン……




君のに側にいると安心するんだ、令嬢らしくない君の側では息がしやすいんだ。

俺を愛してくれる君の隣がほしいんだ。


他の誰かと幸せになるよりも、俺の隣で絶望していてほしい。

俺を求めてくれなくても、俺が求める。


マリアンヌが嗤って俺を蔑んだとしても。


綺麗な恋とも言えない淀んだ執着心が、愛だと気づいたのは何時だろう。





マリアンヌ、許してくれるなら俺は土下座しても良い。

お願いだから嫌いになった訳じゃないよな?


だからどうか、手遅れなんかじゃないよね?



そう言えば僕は彼女に愛しているとはっきり言った事があっただろうか。


……マリアンヌはいつも伝えてくれたのに。


ああそうか、言葉で伝えてほしかったのか。


俺はノックをするのを辞め、彼女に気持ちを伝える。


「マリー? ああ、僕のお姫様、どうか扉を開けて下さい」


次の瞬間、部屋の中から「ひぃっ!」と言う音が聞こえて来たけど、彼女は大丈夫なのだろうか。


「まりぃ? ボクのお姫様」


俺が声をかけると扉の向こう側から悲鳴が聞こえて来た。


マリアンヌに何かが起こってる、彼女を助けなくては!!


ベキャ


俺は風魔法を使って邪魔な扉を破壊。

幸いな事に彼女以外部屋には誰もいなかったが、恐怖を味わったであろう真っ青な顔のマリアンヌを見ると愛しさがこみ上げてくる。


このままだと世界一可愛い可愛い可愛いマリアンヌが誰かに攫われてしまうかもしれない。

それは絶対にあってはならないことだ。

そうだ! ここで既成事実を作ってさっさと嫁に来てもらおう。

家に閉じ込めて周りを風の結界で覆ってしまえばいい。


ああ、マリアンヌ貴女を一生愛する事を誓いましょう。


「愛してます私だけのマリー」


「こっちくんなぁぁぁぁぁあぁぁあ!!!」



すぐに結婚しましょう。

貴方に枷をつけましょう。

マリアンヌを縛るのはボクだけです。


ですから……ヒロインなんて必要ありません。

マリアンヌは『ヒロイン』とやらを募集しているようですが応募したら……分かってますよね?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 途中から最高すぎて泣けた。
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