With you forever
ある日、私は行きつけのカフェで親友を見つけた。
声を掛けたが彼女はぼーっとしながら窓の向こう側の行き交う人々を眺めている。私に気付く様子はない。
悲しくなったが、私は彼女の席から少し離れた禁煙の席に座った。
折角カフェに入ったが何も頼む気がなく、そのまま時間だけが過ぎていった。
小一時間ほど経った時だった。
親友が席を立ち、会計を済ませ店を出る。私も親友を追いかけ店を出た。
後ろから声を掛けたが、昼間で人が多いこの通りでは声が通るはずもなく、やはり気付いてもらえなかった。
むっとしながら彼女の背中を追いかけ、そして……
遂に、彼女の家まで辿りついてしまった。
そこで私は、もう一度彼女に声を掛けた。周りは静かで発した声は大きく、必ず気付いて貰えると思っていた。
しかし、親友は一度足を止めただけで再び歩き出し、家の中にさっさと入ってしまった。
……無視された?
幼稚園のときからの付き合いで、かれこれ二十年ほどになる。
近所の小母さん達には「いつも一緒にいるわねえ」とか「まるで双子みたい」とまで言われていた私達なのに。
私は何か、彼女の機嫌を悪くするようなことをしてしまったのだろうか。
それとも、本当に気付かなかっただけなのか?いや、そんなはずはない。こんな静かな場所で大きな声を出せば、誰だって気付く。親友は確かに聞こえていたはずなのだ。
だって、それならば立ち止まったりなんて……。
このモヤモヤした気持ちをはっきりさせるために、私は親友の家に乗り込んだ。立派な不法侵入だが、鍵は掛かっていなかった。親友は昔からこうだ。全く無用心である。
すぐそこの扉を開けば、見慣れたリビングが顔を出した。
真ん中にあるローテーブルに突っ伏しているのは、親友。ローテーブルの上には、彼女の物である携帯と度数の高い酒の缶。
顔を真っ赤にして目を閉じている親友は、周りに言われているとおり黙っていれば美人なのだ。
口を開けば下ネタや芸人の物真似が飛び出してくる彼女は、付き合う男性はいたものの結婚はしていない。つまりそういうことだ。
ふと、彼女の携帯についているストラップが目に留まった。
それは高校生の時に遠出して遊んだ先で買ったお揃いのストラップだった。
小さな鈴がついた黒猫のストラップは、じっと虚空を見詰めている。
当時は私だけが携帯につけていた。折角のお揃いなのだからつければいいのにと言ったのに、結局つけてくれなかったストラップ。
……まだ、持ってたんだ。
私のはとっくのとうに壊れてしまった。懐かしくて、ストラップに軽く触れた。
チリ、と羽虫程度に鳴った鈴に、親友がバッと起き上がる。
勝手に家に入ってごめん、でも、と弁解しようとしたが、彼女の目は私を素通りした。
そのまま俯いた親友は、携帯のストラップを弄ってぐいと酒を呷った。
「鍵を開けてれば、来てくれるかと思ったのに……やっぱり、思い通りにはいかないのね」
目を閉じて、涙を流す親友。
「あんたが死んで、もう一年経つ。……ずっと一緒にいたのに、」
―――なんで、人間は死んでしまうのかしら。
私は、自分の身体が透けていることに気付いた。
With you forever
(あなたとずっと一緒)
死んでいることに気付いていなかった主人公