嘆き苦しむこの心
少女は沢山とは言えない愛の中、育った。
母は子供のときから病弱だった。それは少女を産んでから急速に悪化する。
少女が小学一年生になる頃には、母は病院に入院するようになり、家にいる時間も少なくなった。
父は仕事に追われる日々。朝の四時半に出て行き、夜の八時ごろに帰ってくる。触れ合う時間もない。交わす言葉は一言二言。
この歳になって思い返せば、頭を撫でられたのも抱きしめられたのも、数えられるほどだ。
それでも少女は、幸せだった。
家は貧乏だが食事をとることが出来るし、学校にも通わせて貰っている。娯楽だって少なからず買ってもらえた。
捨て子よりはマシだと思ったし、水と砂糖と塩の生活よりは全然よかったからだ。
学校では友達とうまくいかない時もあった。けれど数人の友人はいたし、十分満足していたのだ。
そのまま幸せな生活が続くなんてことはなかった。
中学校では虐められたし、友達は一人もいない。
それから母は片足を切断し、車椅子の生活となってしまった。
それも少女が丁度高校生になろうとしている年頃に、だ。
少女はまだ、甘えたかった。
齢十五でまだそんなことを言っているのかと言われてしまえば言い返す言葉もないが、少女はずっと甘えることを我慢してきた。
だから、まだ甘えたかった。
けれど母がそんな状態になってしまっては、やはり甘えることなど出来ない。
少女は泣いた。
誰かと一緒にいたかった。傍にいて、励まして欲しかった。
独りになるのは耐え切れなかった。父母はまだ死んでいない。しかし―――。
そんなとき、少女は縋る相手を見つけた。
それはたった最近通い始めた高校の、クラスメイトだった。
沢山の友達ができた。それはとても嬉しい出来事。男女関係なく抱きついても、ふざけた風に笑ってみせればそれも許される。
少女は分かっている。これはとても迷惑なことなのだと。誰彼構わずちょっかいをかければ、その人にとっては迷惑だろう。
けれど少女は、人に触れることをやめることができなかった。
やっと手に入れた温もりだった。父母に縋れなかった。父母の温もりを与えられることなど、そうそうなかった。
だから、クラスメイトの誰かから感じられる温もりを感じるその『迷惑行為』を、やめることができなかった。
少女の縋る相手は何故か大人ではなく、大抵が同級生か少し上の人間だった。
温もりを求めるのも、何かを相談するのも、真っ先に縋るのは同級生だった。
父母はまだ、死んでいない。
ノンフィクションだと思った?残念、フィクションでした!多分!