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短編集  作者: 黒澤 由亜
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locus solus


赤い糸に櫛を通す。

濃い赤―――血のように真っ赤な髪の毛は、よく手入れが施されするすると櫛を流していく。

少年は、少女のこの真っ赤な髪の毛が好きだった。

血の色に似て不気味だと彼女の両親も周囲の者も皆言うが、少年だけは不思議と『不気味』だとは思わなかった。

むしろ、光に当たってきらきらと輝く糸はどんなものよりも綺麗だと思えた。

少年は、赤毛の少女が好きだった。





この世界には必ずしも、綺麗なものばかりではないのを知っている。

勿論綺麗なものもあるが、どちらかというと世界は汚いものの方が多く見て取れた。

だから赤毛の少女がその『穢いモノ』に汚染されないようにずっと守ってきたのだ。

彼女の両親は彼女を棄てた。ここら一帯には赤毛の子や白子が生まれると、『鬼』と称して『隠す』という昔からの決まりごとがあった。

そのせいで赤毛の少女は周りから疎まれ、毎日毎日厳しい目を向けられてきたのだ。

何度も書を読んで、解っていたつもりだった。

実際にこういう風習があると、やはり世界は穢いのだと実感する。ぞっとしない話だ。

自分はこの周辺の生まれではない。だから余計にこの風習が歪に思えてしまうのだろう。

ここだけではなく、どこにでもある話。もっと視野を広くすれば、人身御供となって犠牲になった人々は何十、何百といるだろう。

―――それについては、『鬼』として生まれてしまった赤毛の少女も今この瞬間を生きている時点で幸運だと思っていいのかもしれない。



指を通しても、一度も引っかからない真っ直ぐと伸びた髪の毛。

血の色。されどただの濃い赤である。

少年は不思議で仕方なかった。何故こんなにも綺麗で美しいのにこの少女は虐げられなくてはいけないのか。

分からなかった。解らなかった。……理解する努力もしなかった。

何故なら少年は赤毛の少女が好きだったから。

だから自分と彼女が幸福でさえいれば、もうなんでもよかったのだ。

少女は少年と共にいることを選んだ。それは彼女自身の選択。誰にも曲げることは、覆すことはできない。

少年は微かに口角を引き上げた。

今、確かに少年は幸せを感じているからである。


locus solus=人里離れた場所

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