aeon
駄目だったのに。駄目だったのに。開けてしまった。扉。
ずっとずっと、見て見ぬふりをしていた。だって見たら、開けてしまいそうだったから。
でも、この扉は開いた。開いてしまった。たった今、私の手によって。
分かってたのに。開けてはいけないこと。何度も言い聞かされたのに。
ああ、やっぱり私は駄目な子だ。だから虐められるんだ。あんな目で見られるんだ。叩かれるんだ。
―――『開けてはいけない』扉を開けてしまったら最後、村は滅ぶ。
★
『う、うぁ、ぁぁぁ……!』
『ごめんなさい、ごめんなさい。わたしのせいなの。だから許して、ゆる―――』
私の中に誰かの意思が入ってくる。
手で覆った真っ暗闇の中に、一つの記憶。
誰かが、この開けてはいけない扉の前で今の私のように這い蹲っている。
その線の細い人影は、女性のもので。
女性は、白装束で懺悔するように扉に向かって泣き喚いていた。
扉の中は、暗闇が広がっている。何も見えない。
村の中央部にあるその扉は、開いたら忽ち村に黒い霧のようなものが押し寄せ、最終的に村が滅ぶとされている。
この記憶がいつのものかは知らないが、きっと今私がいるこの村であることは間違いない。
だとしたら、この村が一度何も無いただの大地になったことは確実だ。どうやって再興したのかは知らないが。
記憶の中の女性は、がたがたと震えながら真っ青になって手を合わせている。
しかし―――。
祈りは届くことなく、村は真っ黒の霧に覆われた。
★
この記憶は、自分のものだった。
記憶の中の女性は、間違いなく前世の自分だったのだ。
だから私は、二度目の禁忌を犯したことになる。
私の喉から、掠れた声が漏れ出る。
こうなったらもう、自分の身で償うしかない。
どうせ村が滅ぶならば、せめて私の身だけはこの扉に捧げなければ。
もう既に黒い霧が、私の背後で滞っている。黒い霧。全てを滅ぼす腐蝕の霧。
村人の悲鳴を聞きながら、私は扉の中へ飛び込んだ。
aeon=永遠




