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明日は桃香の風が吹く  作者: うきわ
日常編
8/43

変な所ばかり

短いです

読みにくいかもです



自分の個展で、顔を出すほど面倒くさい事はない。

ここにいる誰もが自分の絵を目当てに来ているのだから、作者の自分が注目されない訳はまずないだろう。

たとえ自分に話しかけることができるのは、友人やある程度親交のある画家仲間という暗黙の了解があっても、視線だけで煩わしい。

それなら個展など開かなければいい、そう言われるだろうが、そうもいかないのが現実だ。



個展が始まって既に二週間。


会場のすぐ横の広間は朝日の絵のオークションで連日賑わい、制作に何ヶ月もかけた絵は飛ぶように売れていく。

それに伴い、恐ろしい程の金が入って来るのだ。

売れた絵は、個展が終わるまでは会場に飾られているが、それを過ぎれば他人の所有物と成り果てる。

それがどうしても許せないような絵は自宅のアトリエに眠っていて、家に居ると朝日は時々それを眺めて過ごすのが好きだった。


朝日は存外、息子の事を大事に思っているのだろう。

家で誰に見せるでもなくアトリエにある絵は、ほとんどが明日香を描いたものだった。

毎年、一番良い出来で完成した息子の絵を一枚だけ手元に残しておくのだ。後は、気に入った風景画や花の絵を、少しだけ。



やはりというべきか、明日香を描いた絵は全てに買い手がついた。それも、法外な値で。

もはや、七原朝日の代表作となっているそれらの他にも、得意とする静止画、または風景画は、高い評価を得て、様々な所で紹介されたようであった。

前からよく描いていたのに「七原朝日の新天地!」のように書かれるのはさすがに呆れてしまう。一般に名が知られるというのはこういった不本意な事も多々あると前から実感していた。



個展も残りあと三日となった頃、朝日はまた新たに絵を個展に飾った。

元から描きためていたもので、今度は人物画は一枚もない。

新発表された絵を楽しみに再び足を運んだ客──この時期になると画家や画家志望、外国人、専門家、批評家が多かった──は少なからず残念そうだが、しかし、それさえもすぐに忘れ去ってしまうような絵画を選んで持ってきたのだ。


いつまでも同じような評価を受けているわけにはいかないのが画家である。その点で、朝日は自分自身でしっかりと堅い戦略を考えていた。



個展が終わるのもあと二日。絵には全て太い買い手がついた。

そんな時、明日香が急に言い出した。ホテルの高級ソファーで寛ぎながら。相変わらず、何様だと言いたくなる様な体勢が似合う奴だ。


「僕、自分の絵を見たいな」


困ったのは朝日である。

今だに客が途絶えない個展に噂のモデルを連れて行くのは大騒ぎになる、と容易に予想できた。最悪の状況ではないか。元々騒ぎなど大嫌いなのだ。

息子の顔も知られ──もともと絵で知られているが──、街だって歩き辛くなる。

酷ければ写真だって出回るかもしれない。

それに、父親として幼い子供に危険が及ぶのは避けたかった。


「駄目だな。状況が許さない」


そう言うと、明日香は少し顔を歪める。だが、聞き分けのある性格だ。ある意味冷めていて諦めは早い。今まで、駄々をこねたことなど無かったし、今回もそうだ。

思わずのため息が出つつ、再び口を開く。


「閉館直前に来い。最終日で人は多いだろうが、閉まる前ならマシになる」


ああ、自分はなんて息子に甘いんだろうか。もう少し待てば、興味が無くなり、またトランプで遊び始めるだろうに。

甘く態度になんか絶対出してやりはしないが。そんなことをしても気持ち悪がられるのが関の山である。



この個展が終わったら、時間を取って絶対に常夏の島に行ってやる。

夏休みのシーズンが過ぎれば、観光客も減るだろう。

稼いだ金でいつも通り、五つ星ホテルのスイートに泊まるのだ。

今度は明日香も連れて行こうか。

きっと面倒くさがるだろう。変な所ばかり自分に似てしまって困る。







不定期で申し訳ない


後々編集を重ねます

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