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明日は桃香の風が吹く  作者: うきわ
日常編
6/43

夏と個展と美少年

編集したので前より少し長くなりました

グダグダですね


一話目との差が....





夏。画家、七原朝日の個展が開かれた。


場所は都心の有名ビル8階だ。



若き天才としてすでに日本のみならず海外で名を上げている有名画家の個展とあって、猛暑のビル群の中、人々は大汗をかいてまでわざわざやって来る。


世間は夏休みというやつで、中流階級以上の家は子供に本物の芸術を見せようと家族で訪れたりするため、客足は一時たりとも途絶えることはない。

国際色豊かな顔ぶれも珍しくない。彼らは各国の美術関係者だ。

身なりの良い紳士淑女の姿も見える。



この個展、実は展示してある絵の全てが未発表の物であった。そのため、人は新作やら描き溜めてあったものやらに注目し、集まっていたのだ。

さらに、この個展に出品している全ての作品は、その場で買い取ることができる。それも集客の理由だ。

何せ、後世その価値が何百倍にもなり得るのだから。



そんな今回の個展の目玉は何と言っても「少年シリーズ」であろう。


七原朝日を一躍、一流画家と印象付けた作品達だ。


名前の通り、少年の様々な様子を感情豊かに描いた多数の作品である。

世に出回っている数が他の風景画などと比べても少ないので希少価値も高く、法外な値段が付けられることが多い。


しかし、七原朝日の人物画のモデルはある一人の少年に限られており、他の人物は誰一人として登場しない。

その少年シリーズに限らず、七原朝日は彼以外の人物画を描いていないのだ。


始め、世間の人々は彼の絵の少年は彼自身の空想の人物であると考えていた。

絵の少年は、あまりにも美しく、完璧に見えたからだ。

描かれた様子や表情はそれぞれ違いがあり、その含まれた裏の意味まで深く表現しているというのに、人物としてはあまりに整い過ぎた容姿は人形の様だ。


だが、それは作者の七原朝日が直ぐに否定した。

「モデルは実在の少年だ。絵と共に成長している」と。


それはつまり、絵のモデルの少年は現在進行形で少年であり、この世界のどこかで生きているということに違いなかった。


そのあまりの美貌に、世界中の絵に少しでも興味のある人々の間でまで、キッズモデルの写真を集め絵と比べることがネットで流行ったが、ついに見つからなかった。


それもそのはず、少年はキッズモデルなどした事がないのだ。さらに、滅多に家から出ない。

何より、作者の実の息子なのだから。




さて、そんな噂の美少年明日香は父に連れられ、郊外の家から都内のホテルへ生活を移していた。

もっとも、個展の開催されている一週間だけだが。


海沿いの町にある彼ら親子の家と、個展の会場がある都心まではやや距離がある。しかし、個展の開催者が現場を見ない訳にはいかない。


個展の開催地が海外であるなら、食べ物の好き嫌いやその土地でのトラブルを防ぐために、明日香は着いて来たがらないのだが、国内の、しかも以前住んでいた街であれば別だ。


珍しく喜んで着いて来た明日香である。



そんな明日香は一人、都内ホテルのスイートルームで留守番だ。

当然、父の描いた肖像画のせいで顔が売れているので個展の会場まで着いて行くことはしない。街中では普段から目立つが、個展の広告が大々的に広まっている今の時期は特に気付かれやすい。


それに、一人だからといって明日香少年が「寂しい」などと思うはずもない。


ルームサービスですっかりリラックスモードである。良い身分な訳だが、流石に8歳そこそこの美少年を一人で過ごさせる訳にもいかず、一応目付け役という世話係が来ることになっている。

いつも屋敷で明日香の面倒を見ている三人の女中は、契約に含まれていない出先までは出張出来ない事になっている為、今回は違う人間が任せられた。


東京に居る間の明日香の世話係は、父の旧友で、今は東南アジアへ冷凍食品を輸出している会社の社長だ。

ヤクザだったらしいが、生まれは由緒正しい家なので有り余る財産を保有している。

小路政武(しょうじまさたけ)という男で、なかなかの男前だ。その見た目の通り、男らしい性格をしている。いわゆる兄貴肌と言われる部類だろう。


この小路政武は仕事の合間を縫っては明日香にプレゼントを渡したり、外に連れ出そうとする。

そのため、明日香も嫌いではないし、他人からはよく懐いている様に見えるらしい。それについては否定する気は無い。

父に内緒で明日香の耳にピアスを開けるのを手伝ってくれたせいでもあるだろう。

「男なら冒険した方がいいんだよ」という口癖で、明日香をピアス専門のクリニックに連れて行った張本人だ。



個展が始まって一週間のこの日、明日香はまた小路政武の来訪を受けた。


ホテルのソファーにて寝転がっていると、ドアの呼び鈴が鳴ったので、起き上がってモニターで外の様子を見る。

涼しげな色合いのシャツとカーキのズボンが目に入った。


「マサおじさんか......」


いつもの愛称を呟き、ドアの鍵を開けに行く。

ドアが開いてすぐに、明日香はこの男に抱き付いたのだった。


「おじさん、いらっしゃい!」

「おお、明日香〜!!会いたかったぜ〜!!元気か?」

「うん、元気だよ」

「あれからピアスは?痛くないか?」

「まったく気にならないよ」

「お前は耳たぶが薄いからなあ」


明日香をぎゅっと抱きしめ、男子小学生のにしては長い髪を撫でる。

明日香は政武の煙草臭さに安心感を覚えるようでしばらくシャツの匂いを嗅いでいた。

ふと、明日香が離れ、部屋に入りながら尋ねた。


「ねえ、昨日は父さんと飲みに行ったんでしょう?怒られなかったの?」


ピアスを無断で明けに行ったことだろう。

政武はソファーの上にカーディガンを投げた。


「いんや、まったく。もう諦めたみたいだぜ。それにお前は外国の血が入ってるからなあ。向こうだと小さい頃から開けてるんだろ?

お前の母さんもそうだったらしいから」


ふうん、と興味無さげに呟いた明日香は、先程遊んでいたトランプの向きを揃えている。


朝食はルームサービスで済ませたのだろうが、12時を過ぎた今でも空腹を訴えないので、遅い時間に食事を取りでもしたのか。










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