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明日は桃香の風が吹く  作者: うきわ
日常編
3/43

親孝行でお金を




アフタヌーンティーには父のイギリス土産のスコーンがあった。

それをもそもそと食べて紅茶で流し込むと、なんとも言えない微妙な味だった。

口直しにチョコレートを放りこんで、また紅茶を飲んだ。


「どうだ、本場のスコーンは」


なんて聞いてくるので、思わず眉をぎゅっと寄せて首を振ってしまう。

たしかにスコーンは好きだけれど、本場の物がこんなに変な味だと思わなかったのだ。


「おいしくない」

「なんだよ。せっかく買ってきてやったのに.........」

「でもチョコレートは良かった」

「そらお前、フランスの店のロンドン支店から買ってきたヤツだ」

「.............」

「ハハハ!!」


ハハハじゃない。


なぜこうも微妙な味が生み出せるんだってくらい、イギリス土産の菓子はイマイチだった。カラフル過ぎる砂糖菓子は甘過ぎだし、スコーンは何か香水みたいな匂いがした。

買う店は選んだ方がいい、と父に言いたかったが、センスの良い父が買って来てもこうなのだ。きっと街中不味い物だらけなのだろう。なんて残念な街なんだ。


しかし、後で聞いた話によると飛行機に乗るギリギリになって買ったらしく、スコーンなどは本来焼きたてで食べる物なのだが、それを土産用に加工された物を買ってしまったらしい。

というか、料理はともかくアフタヌーンティー関係の焼き菓子などはやたら気合いが入っていると観光ガイドのパンフレットにあったので、単に運が悪かっただけのようだ。


父はロンドンで個展を開いたそうだ。

父がどの位有名なのかなんてどうでも良いが、一緒に来るか?と言われた時に断っておいて良かったと心から思う。

外国の食事でいい思い出があるのはせいぜい3ヶ国だ。

だから長い間行く場合は別にして、今回のような4日で帰ってくる旅は行かない事にしている。女中が居ればこそだが。



「いやあ、春うららだなあ」


テラスに庭から桜の花が吹き込んできた時、父がそう言った。

アフタヌーンティーが冷めかけている。

確かに、暖かくて空気が何処と無くほんわりとしている。そんなことを無表情に考えていたら、つまんないヤツ、と父が言うのでわざといかにも儚げな美少年の笑みを作ってやった。


「うわ、お前それはヤバイよ。怖えなあ」

「そんな、父さん........」


うるるん、と効果音が付くぶりっ子ボイスは父の口を引きつらせるのに充分なようだ。多分、自分も気分が良いからこんな真似をしているのだろう。


一通りふざけてから、女中の冬子が紅茶を入れ直してくれたのでまたカップを持つ。


「そういえば......」


父が突然思い出したように明日香を見た。


「なに?」

「ロンドンの個展で一番高く売れたやつ、お前がモデルのだったぞ」

「.......へえー」


ニヤリと父が笑う時は、絶対自分にとって良い事がないのだ。思い切り顔をしかめる。


「親孝行、してくれよ?モデル料は出してやる」


やはり、余り歓迎すべき事ではなかった。

モデルはじっとしているだけだが、これが案外辛い。


「明日香、そうじゃない。腕をもっと上げて。さっきみたいに」


腕を上げる。


「違うな.....もう少しあっちの角度に」


あっちとは、どっちなのだか分からなくなる。


「ああ、うん、それそれ。早く仕上げるから動くなよ」


そのセリフは先程から何度も聞いた。この父の言うことを信用はしてないけれど、一刻も早く終わって欲しい。



出来上がった絵はしばらく父のアトリエに飾られていたが、その後いつの間にか無くなっていた。買い手がついたのだろうか。


自分の不機嫌そうな顔の絵が他人の家に飾られていると思うと複雑だった。そもそも、赤の他人を描いた絵を高値で欲しがるとは、この世は変わった人間が多いようだ。



「明日香、こんどは紫陽花と一緒に描こうと思うんだ」

「モデル料.......」

「ハイハイっと」









主人公は黒髪ですが、顔は洋風な美少年です。一応母親がハーフの設定なので。肌の色素と華やかな顔は白人そのもの。

父は純和風な渋い中年です。

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