後編
我が高校のアイドル、と言うかフジサワはすごくモテた。
靴箱や机の中にラブレターが入ってたりとか。放課後に女子に呼び出されたりとか。
バレンタインには山のようなチョコを貰ってたりとか。
私がマンガの中だけだろうと思っていたことを、次々と実現させていった。
見てくれが良いだけじゃなくてとても優しいようだ。性格が良くて、男女に関わらず人気がある。
ミーハーなイチコが、『本当にアイドルみたい!』と熱弁していたのを覚えている。
そんな完璧な人間はいないと思っていた。
でも、やっぱり、そんな完璧な人間なんていないのだ。
初対面でフジサワが放った一言で、私たちはすぐに喧嘩になってしまった。
『お前って、絶対に俺の嫌いなタイプだろ?』
******
―なら、アンタは私のこと好きなの?
そんなの『NO!』と言うのは分かりきっていたし、だからこそ敢えて言ってやった。
フジサワがそう答えてくれれば、私が勝ったことになる。
なのに…。
「それで勝ったつもりかよ?」
意外にも、フジサワの方が余裕の顔をしていた。
「残念だけど、お前のこと好きにならねぇ方が無理なんだよ」
……………え?
スイマセン、今、何て言いましたか?
「あ~あ、何で今言わなきゃならねぇだよ。ムードも何も無ぇじゃん」
文句を言いながら、頭をガシガシと掻いているフジサワはまるで普段通りだ。
でも、確かに、さっき私に『好き』って言ったよね?
好き?
誰が? フジサワが?
誰を? 私を?
いやいやいやいや、無い。それは断じて無いっ。てか有り得ないっ。だって、あのフジサワだ。
私に毎日のように暴言を吐いて、『ムカつく』とか『嫌い』とか言っていたフジサワだ。
「ちょ…っ、冗談とか止めて、よね」
そう思っているのに、口から出た言葉は妙に震えてる。
人生初の告白に、やっぱり動揺しないワケがなかった。さっきまでの怒気なんか一瞬で消えてしまった。
顔が火照ったみたいに熱くて、たぶん真っ赤になってるのが分かる。
心臓の音だって、フジサワにまで聞こえてしまいそうだった。
冗談相手にここまで反応して、かなり情けない…。
「なんでだよ。そんな笑えねぇ冗談言わねぇよ」
フジサワが、また私を睨んでいた。でも今までみたいに、それを怖いとは思えなくて。
―なんだか、妙に恥ずかしかった。
睨んでるはずなのに、その目はいつもと何か違ってるみたいだ。
ただじっと見詰められてるみたいで、思わず目を逸らしてしまう。
私って、いつもこんな目でフジサワから見られてたの?
「…お前、やっぱり気付いてなかったんだろ」
返事なんてできなくて、ただ口をパクパクさせるだけになってしまう。
「だから嫌いなんだよ、お前のそういう鈍くて妙に頑固なとこ」
「…なっ!」
一応馬鹿にされたのは間違い無いのに、以前みたいに反撃に出れない。
もうどう考えても、告白を冗談だとは思えなかった。
「…だ、だって! 今だって嫌いって、言った!」
フジサワの『好き』って言葉が、ずっと頭の中をぐるぐる回ってて。
それでも『嫌い』と言われると、過剰に反応してしまう。
「好きなのか、嫌いなのか、はっきりしてよ!」
…これじゃ、逆ギレ以外の何物でもない。
「だから、好きだって言ってんじゃねぇか」
「……!」
「鈍いところとかマジでムカつくけど、そういうとこも含めて」
そう言って、椅子から立ち上がったフジサワが私を見下ろしていた。
怒ってたはずなのに、その顔は笑顔で、言ってしまえばキレイな顔なのかもしれない。
その顔が、ぐっと私の目の前まで寄ってきた。
「それで、お前は?」
「………え?」
間近な顔に耐えられなくて、椅子ごと後ろに下がるとフジサワはさらに寄ってくる。
「朝みたいに、『嫌い』とか言わねぇよな?」
何となく、脅されてる気分になってきた。
私に『嫌い』言われたことを、きっとかなり根に持っていたのだろう。
フジサワの笑顔が、何だか睨まれてる以上に怖く感じた。
「で、どうなんだよ?」
「――!」
いくらでも詰め寄ってくるフジサワで、もう頭の中が真っ白だった。
何が何か分からず、ただ、思いっきりに叫んだ。
「フジサワなんて、大っ嫌い!!」
フジサワがこれ以上とない笑顔で、私を見詰めていた。
What I Like About U
キミのきらいなとこ=キミのすきなとこ??




