前編
どこの学校にも、見てくれだけが良くって周りにアイドルみたいに思われてるヤツが、大概一人はいる。
まだ高校生で10代の私たちには、恋愛と見た目は切り離せないものかもしれない。
でもだからって、見てくれだけが良いからって、それだけで「いい人」と決め付けるのは、何か違う気がする。
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実際に、私の“学校のアイドル”は、いいヤツ、とは、断じて言えないっ。
「…何か言うことは?」
フジサワの見下すような視線が横顔に突き刺さる。
すうごくムカつくんだけど、私はソレをぐっと耐えた。
「………」
「無視? 何それ。助けてもらっといてその態度?」
フジサワは逐一、嫌味っぽく話す。
いつもはそれですぐに喧嘩になるんだけど、さすがに今日は出来そうにない。
悔しくも、フジサワに助けられたのは事実なのだ。
「まぁ、課題も全部自分でやらずに写してるもんな。この前の期末だって赤点だったみたいだし」
―ちょっと、待て。
なんで、アンタがそれをしってるの? 誰にも、親にだって話してないのに…っ!
「そんなじゃあ、答えられなくて当然だよな」
確かに、私の古文の知識は皆無に等しい。
「本当なら、あのお局先生に干されるとこを助けてやったのは誰だよ、ん?」
それでも、私はただぐっと耐える。
フジサワにお礼なんて、死んでもゴメンだ。だけど、助けられた手前、何も言い返せない。
腸が煮え返りそうなのを、ただただ耐えた。
「…別に、頼んでないし」
「あ? それじゃお前、あの問題わかったのかよ?」
今、すっごくムカつく顔で睨まれた。
その顔を思いっきり蹴り飛ばしてやりたいけど。
ここは、ぐっと我慢して。口だけに、した。
「ソウデスネ、アリガトウゴザイマシタ。」
「………」
「………」
「…お前、ほんっとに可愛くねぇな」
フジサワの声のトーンが、明らかに変わった。
「素直に、ゴメンも言えないのかよ」
いつもと違うこの雰囲気は、かなり怒ってるのかもしれない。
冗談とかとは違って、本気で私に腹を立ててるみたい。
だけど、私もそれが気に食わなくて、さらにムカついた。
「俺さぁ…」
「………」
「お前のそういうとこ、マジで嫌い」
いくつのガキだよ、と言うフジサワの目がすごく冷たかった。
本気で嫌われているのだと、少し悲しくなる。
悲しくて、余計にムカつく。わざわざ、言われなくても。
私だって―。
「私だって、フジサワなんか大っ嫌い!」




