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死神の執行猶予  作者: 久遠夏目
第一章 死神と残念な目玉焼き
3/38

01

 わたし、つまり死神に感情などいらない。そんなものに惑わされては困るから。そんなものがあっても何の意味もないから。人は死にゆく運命には抗えない。

 そうして、わたしは今日も命を迎えにゆく。


       * * *


「こんばんは」


 真夜中に近い時刻に、とある家の窓辺にふわりと降り立つ。そして、静かにあいさつをすれば、ゆるりとこちらを向いたこの部屋の主と目が合った。

 それは、わたしが視えているという証拠であり、この部屋の主の死期が近いという証拠でもあった。まあ、そもそもわたしがここに来た目的は、この部屋の主――高校生くらいの少女を迎えにくること、つまり死なせることなのだから、当然なのだけれど。


「あなたは、死神?」


 わたしを真っ直ぐに見据えたまま、少女は問う。その黒く鋭い眼差しは、彼女の凜とした雰囲気をよく表していた。


「ええ、そうよ。あなたのお迎えにきたの」


 にこり、と微笑んで答えると、彼女もキレイに笑った。


「ああ、やっと来てくれたのね。待ちわびたわ」


 うっとりとしたカオで予想外のことを言った彼女は、確かに笑っている。しかし、その手がかすかに震えていたのを、わたしは見逃さなかった。


「あなた、強がっているのね」

「え?」

「本当は、まだ死にたくなんてないんでしょう?」

「そ、んなわけ……」

「ウソはよくないわ。手が震えているわよ?」

「――っ!」


 くすり、と笑って目で手を示してやれば、彼女ははっとしたようにぎゅっと拳を握りしめた。


「ねえあなた、本当は死ぬのがこわいんでしょう?」

「そんなわけないでしょう? これは歓喜の震えよ。わたしは死ぬことなんて、ちっともこわくない」

「ホントウ、に?」

「当たり前でしょう? わたしはむしろ死を切望しているくらいだもの。早く連れていってよ」


 冷静さを取り戻したのか、上から目線の物言いに、わたしは「ふぅん」とつぶやく。彼女は、どうしてそんな見えすいたウソを頑なに主張するのだろうか。

 わたしにはその理由がわからなかったけれど、逆に興味が湧いてしまった。それが自分の「悪いクセ」だと自覚していながら――ああ、死にたいとウソをつく彼女もバカだけれど、わたしも十分バカな女なのかもしれない。

 わたしは一瞬浮かべた自嘲の笑みをすぐに消し、彼女に向かって口を開いた。


「いいわ」


 その瞬間、彼女の心は歓喜に躍ったことだろう。けれど、


「あなたには、一週間の執行猶予をあげる。最後の日までに、そのごちゃついた思考を整理しておきなさい」

「なっ……どうしてよ!? あなた、わたしを迎えにきたんでしょう? だったら今すぐわたしを殺しなさいよ!」


 むなしく響く悲痛な叫び。だけど、わたしはそれを受け入れてあげるほどやさしくないの。にやり、と自然に口角が上がるのが自分でわかった。


「だって、死にたい人間を生かしておいて、生きたくなったときに迎えに来るほうが、面白いじゃない?」


 淡々と述べられる無慈悲な宣告。それを聞いた彼女の顔が絶望に染まっていく。ああ、わたしはそのカオが見たかったのよ。

 しかし、次の瞬間、彼女は蔑むようにふっと笑い、


「最悪ね、死神さん」


 と吐き捨てた。ふふ、かわいくない女。

 わたしはそれに対抗するようにしてにこり、と作り笑いを浮かべ、


「ありがとう、最高の誉め言葉よ」


 と返す。すると、彼女は忌々しそうにちっ、と舌打ちをしてそっぽを向いてしまった。どうやらこれが本性らしい。


「あなた、そっちのほうがいいわよ?」

「余計なお世話よ、使えない死神さん」

「ふふ、じゃあ今日はこのへんでおいとまするわ。またね」

「サヨウナラ。もう二度と来ないでよね、使えない死神さん」

「あら、でもあなたの担当はわたしなの。わたしが来ないとあなた、死ねないわよ?」


 そこでぐっと押し黙ってしまった彼女にくすり、と嫌味な笑みを残し、わたしはその部屋をあとにしたのだった。

 どれだけ最悪だと言われようと、一向に構わない。人間にとっては、自分のところに死神が来たというだけで最悪だろう。それに、どんなに蔑まれようと、死神には――わたしには、感情なんてないのだから、傷つくことなんて、あるわけないわ。




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