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森の中で

 お待たせしました。最新話です。

 針葉樹林が生い茂る森の中を馬に乗った十数人の少年少女が駆け抜ける。先頭を駆けるのは白い略鎧に身を包んだ光輝だった。腰には王家に代々伝わる聖剣を差している。その姿は彼を見る者に勇者という存在を強く印象付ける姿だった。

 光輝、龍之介、朱音、志乃、晶を始めとしたクラスメイト達が領内にある独立自治の自由都市ランクネンが襲撃されていることを知ったのが数日前。居ても立ってもいられなくなった彼らは護衛の教会騎士団の目を盗んで馬を調達し、一路ランクネンへ馬を走らせている最中だった。幸いなことに彼らがレベルアップしていたダンジョンとその近くにある街、エリオネからは数時間でランクネンへ行くことが出来る。だからこそ彼らはこうして馬を飛ばしていたのだった。自分達のレベルはこの数日間で四十というこの世界ではそれなりに戦っていける部類になった。だが、彼らの教官であるヴィルヘルム・グラヴィスの話によれば、この世界には勇者のような力こそ持たないものの、レベルが百を越えている者がいるという。この世界の住人が選択することの出来る『探索者』という職業のモデルとなった存在。それが『冒険者』だった。そしてランクネンの街ではその冒険者同士の争いが激化し、いまの状態に陥っているという。


「光輝!あと数十キロでランクネンだって!!」


「ありがとう朱音!……皆!俺についてきてくれてありがとう!!これから俺たちはランクネンに突入し、この争いを止めさせる!!」


 光輝の声に、彼に就いてきたクラスメイト達が応えた。女子は黄色い声で、男子は雄叫びと共に彼に賛意を示す。光輝自身もこの行為の意味は良く理解しているつもりだ。

 今回、レベルが一定に達したことと、同時に起きていた案件を解決するために光輝達勇者は移動していた。案件とは勿論ランクネンで発生している一連の事件で、既に彼らも王国側の連絡員から情報を受け取っている。

 クラエスを始めとした王国の目論見は勇者達に実戦経験を積ませ、戦歴に箔をつけることと制御不能の勢力である冒険者を従わせることが出来るかどうかという実験的な側面もあった。冒険者連盟によって監督、管理されている冒険者は基本的に何処の国家にも属しない。いや、正しくは所属することがある。あくまでそれは冒険者側の意志によるもので、国家がそれを強制することは出来ない。

 今回の勇者達には、表向き強制はしていないものの、可能な限り勇者であることをアピールし、冒険者をその指揮下に加えて動乱を収めて欲しい。という指示があった。

 そこにあるのは純粋に勇者としての義務。強気を挫き、弱きを助ける。非力な市民を助け、横暴の限りを尽くす権力者を倒す。今回はヴェグニアに居るか弱き民衆を助け、魔族との戦争が近付きつつあるにも拘らず内輪揉めしている冒険者という存在を倒す。

 光輝自身は性善説……人間の本質は善であり、仁や義を生まれた時から持っているという孟子の説なのだが、彼はそれを信じていた。人は争い、憎しみ合うために生まれてきたのではない、分かり合い、手を取り合って生きていくことが出来るのだということを本気で思っていた。彼曰く、人間はそう悪いことはしない。悪に走ったということはそれ相応の理由があるもしかすれば被害者の側にも問題があったのではないか、という思考回路をしていた。

 だからこそ彼はランクネンで先ず、説得を試みることにしていた。悪に走る冒険者と言葉を交わすことで理解できるかもしれない。そんな理想主義に近い思いを抱きながら彼らは馬を走らせ続けていた。



 朝五時、まだ夜も開け切らない頃。薄闇の中でチェックアウトすると将成は目的の街へ出る馬車に何とか乗り込んだ。昨晩泊まった宿屋の近くに張られていた依頼掲示板に行商人が道中の護衛を求めていたのだ。数は一人、目的地はランクネン。渡りに船だと思いながら彼はその依頼を出した商人のところへ行った。

 道中のいかなる障害も排除し、ランクネンまで行くと言うことを確認する。相手側も冒険者に護衛してもらえるのなら一安心、ということで直ぐに契約成立となった。ただ、彼らにランクネンの内情を教えると予定を変更したためにこの街を出て、ランクネンとの中継地点にあるポリオスという街まで彼らを護衛するという契約に切り替わった。

 街の外れにいる馬車の一台に乗り込むと直ぐに馬車が街を離れ、街道を南へと進んでいく。今回護衛する馬車には商品である果物や工芸品などが所狭しと乗せられている。馬車は二台の車列で将成が乗っている一台目は商品や工芸品を載せた車輌。後ろから着いて来るもう一台は商隊が野営する際に必要な装備一式や簡単な護身用の武器が積み込まれている。

 二台目に積まれている武器は店売りの片手剣の中でも初期武器であるショートソードよりワンランク上のブロートソードが積まれていた。一台目の御者でありこの商隊のリーダーでもある男はそれなりに使い込まれたことが伺えるアイアンブレードを持っている。恐らくは元探索者だったのだろう。


(ま、そう簡単には()られないだろうな)


 そんなことを考えながら、将成は外を見る。飛ぶように過ぎていく景色、青い空と白い雲に地の果てまで広がっていそうな大草原。電車に乗っている時にも感じる心地よい振動。がたがたと揺れながらも走る馬車から見える景色を眺めながら彼は木箱にもたれかかる。暫くすると彼はやがて眠りの世界へと落ちていった。


 黒と紅い空に黄色い太陽が輝き、地面には大小様々な剣や槍、旗、杖、その他様々な武器が墓標のように突き立っている。嘗てその武器を使っていた人々が散っていったことを示す存在証明であり、墓標のようでもある一部では火の明かりが戦場を染めていた。幻想的でありながらも戦場の生々しさを感じさせる光景そして一人で大剣の柄に手を掛けている自分の前には五つの影があった。

 逆光なのか、それともまだ出会っていないために顔が分からないからか、相対する五つの人は黒い影になって見えない。だが、それでもシルエットと手に持っている武器の形状から考えると凡その役割は想像が付く。片手剣、ナックル、大剣、刀、前衛風の男女が二人ずつと二メートル近い杖を持った後衛が一人。五対一、片方はバランスの取れたパーティーであるのに対し、相対する青年の側は隣に立つ者もおらず、青年は大剣を引き抜くと一歩、前に出た。その足取りは絶望的な戦いへ赴くにしてはしっかりとした足取りだった。青年が歩き出したのに呼応する形で相手の五人もそれぞれの武器を構えて青年へそれぞれが持つ得物を向ける。そして――


 はっとして将成が目を覚ますと馬車はまだ走り続けていた。草原を抜け、その先にある針葉樹林が生い茂る森へ馬車は差し掛かっていた。針葉樹林の森といっても鬱蒼とした雰囲気の森ではなく、ところどころに木漏れ日が差す暖かな森だった。まだぼんやりとする意識を覚醒させながら将成は思わず呟いた。

「……本当に、何の暗示なんだろうな?」

 将成が一瞬だけ見た夢はそれこそゲームのプロモーションビデオのようだった。地面から見上げるようなアングルで後姿が映し出されているのは紛れも無く自分だった。漆黒の衣装に身を固めているのならば、とある二刀流剣士の物真似だと思うのだが、自分だと思う理由は腰にある特徴的な大剣の鞘だった。黒と紅い空に黄色い太陽が輝き、地面には大小様々な剣や槍、旗、杖、その他様々な武器が墓標のように突き立っている。幻想的でありながらも戦場が持つ生々しさを感じさせる光景。そして一人で大剣の柄に手を掛けている自分の前には五つの影。夢、というよりは幽体離脱した状態で、否応なく映像を見せている……そんな感じの夢だった。


「不安になるような夢だ……」


 幸い、彼の言葉は誰かに聞かれることなく青い空へと消えていった。流石にあの悪夢の後で眠る気にもなれず、彼は今朝方読んだ新聞の内容を思い出すことにした。ランクネンの動乱に関しては王国側も手を拱いている……というわけではなく、『王国民の安全を保護する』という名目の元、既に王国軍が動き始めているという。上手い理由だ。自由都市とはいえ、アステル皇国内にあるのだからアステル国籍を持つ国民が居てもおかしくはない。むしろ自然な状態だろう。その国民を動乱から保護すると言う大義名分ならば独立自治都市に軍を送り込んだとしても国の内外から批判は受けない。むしろ同情的な意見が出てくるかもしれなかった。


(おまけに国境線じゃ帝国軍が動き始めたって話だからな。……しっかし葬儀屋……ストライフか…………)


 将成が美影から貰った情報によれば、街で『花火』を打ち上げたギルドはサウザント・ファングスやペイルクランといったそれなりに有名なPK(プレイヤーキラー)ギルドだという。葬儀屋はその名前とは裏腹にPK行為には積極的ではなく、普通のギルド同様大規模レイド戦闘やイベントにも積極的に参加し、上位に食い込む猛者ばかりだった筈だ。入団条件は最低でもレベル九十以上、それ以外にも一週間のログイン率も加入条件にあったということを思い出す。そんな廃人の上を行く『廃神』の巣窟。それが葬儀屋というギルドだった。

 そしてそんな一癖も二癖もある廃神達を纏め上げているのがストライフという男だ。メイン職業は前衛の中でも屈指の人気職であるガーディアンで使用武器は将成と同じ両手用大剣。能力構成も如何に大剣を効率よく使うか、ということを念頭に置いた構成(ビルド)だった。将成自身はその辺にいる凡庸なエリュシオンの一人だと思っていたのだが、どうも彼からすれば違ったらしい。


(さて、そろそろ目的の村に……)


 到着するか、という直前で馬車が止まった。そして将成も森の匂いにまぎれてある臭いを嗅ぎ取った。冒険者の身体はどうも普通の人間とつくりが変わっているらしく視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚の五感全てが大幅に発展している。確かに現実世界の物理法則を無視したような形状の武器や本来ならば動けなくなるような重装備を装着したまま軽快に野山を駆け回ったり、現実には存在しない概念である魔法を使うのだから普通の人体の構造ではなく、身体に合った構造変化をしているために当然とも言える。

 閑話休題、彼の嗅ぎ取った臭いは物の燃える臭い。それも硝煙や爆薬などの類も使われていると考えていい。彼は腰の剣をいつでも抜けるよう準備すると彼は商隊に話しかける。彼らも異変に気付いていたらしく、商隊のリーダーである男は馬車を停めると将成に目的の村の偵察を依頼した。以上がなければ青緑の発煙弾、注意が必要なものは黄色の発煙弾、危険が存在している場合は赤の発煙弾、予想以上の緊急事態だった際は黒の発煙弾を打ち上げるということを決めると将成は静かに歩き始めた。森の木々を盾に森の中を進んでいくこと数分。不意に木々が途絶え、開けた場所に出た。


「……分かりやすいな」


 この場所にある村は複数の道の中継地点なだけあってそれなりの規模を誇っていた。木造の家々が立ち並び、堀や柵も張り巡らされている。だがその柵は壊され、堀には村人の死体と思しき亡骸が転がっていた。

 荒事の気配を明確に感じ取ると将成はサイコムのアイテム部分に触れると[武器・防具]と分類された部分から一挺の短機関銃を取り出す。上部が黒、下部がTANカラーの二色に分かれた近未来的な形状を持つクリスベクター短機関銃を持つ。真っ直ぐなマガジンを差し込んで作動桿を引いた。彼が持つのは赤い照準が表示されるホログラフィックサイトにグリップ。銃口の上部にはライトを装着したカスタムモデルを持っていた。角から敵が飛び出してこないかを警戒しながら一歩ずつと村の中に入っていく。

 一言で言うのであれば、村の中は凄惨の一言に尽きた。あちこちに倒れた村人の死体が転がり、家屋の多くは無残に破壊されていた。パチパチと火が爆ぜる音も聞こえている。自警団的な存在もいたのか、若い男を中心に武器を持った人々の姿もあった。


(銃声っ!)


 彼の耳に飛び込んできたのは銃声だった。それも一つや二つではなく、複数。単発式の銃とそれに反応する形で連続的な銃火器の音が聞こえてきた。音のする方へ彼は走る。近付くにつれて音は次第に大きくなっていった。そして最後の角を曲がると彼の目に飛び込んできたのは二挺の自動拳銃で兵士を打ち倒していく二人がいた。襲撃者側はライトグリーン、この世界に元々から住んでいる住人だろう。そして彼らが囲む二人のカーソルは青とアイスブルー、つまり冒険者と従騎士だ。・その数は二対十、数的に不利な方を援護するべく、将成もすかさず援護に入る。ベクター短機関銃のホロサイトを覗き込み、赤い照星を襲撃者の背中に照準。人に対して引き金を引く行為は現実世界でもこの世界でも初めてだった。だが、躊躇っている時間はない。引き金に掛けた指が引き金を引く。射撃音と銃口炎が瞬き、襲撃者側が倒れた。一人目が倒れる前に将成は二人目に照準を付ける。射撃、弾丸は胸に命中した。

 それが終わる頃には住人の襲撃者に囲まれていた二人の方が反撃を開始し、残った敵を一気に殲滅する。二人の振るう武器が残す銀閃が止むと、その場所で立っているのは将成を除いて二人だけだった。残っていたのは濡れ羽色の髪に狐耳と狐尻尾の少女。もう片方は左目に黒髪がかかった青年が立っていた。ネクタイのない真紅のカッターシャツにスラックスとブーツ。その上に漆黒の軍用ロングコートを羽織っている。その姿はファンタジー的な世界観に恐ろしくマッチしていない。むしろ現代系のFPSゲームに登場しそうな風体の青年は助けに入った将成を見る。


「久しぶりだなウォルフ……いや。将成か」


「そっちこそ相変わらずだな、クッキー……じゃないお前か、一存(かずまさ)


 将成が言葉を交わすと相手の青年も目元が柔らかくなった。彼は高校時代の将成の数少ない友人であり、将成と共に大陸各地を回った冒険者の一人、九鬼一存(くき かずまさ)がそこにいた。


 今回の話の戦闘シーンはもしかすると後々変更するかもしれません。それでは皆様の感想、批評等をお待ちしております。

 いつも読んでくださる方、ポイントやお気に入り登録をしてくださる方、ありがとうございます。

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