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軍服少女は45口径がお好き

 遅くなりました。最新話です。今回は前半部分が既存の書き換え版、後半が新規になっております。

 王国の街を出た先に広がる大平原では五人の少年少女が己の戦闘経験を積むのと目に見える強さの証であるレベル上げに勤しんでいる。後ろには万が一のために護衛の騎士が控えているものの、今の彼らを見ている限りその出番は限りなくないように思えた。


「はぁああああぁぁっ!!光翼斬!!」


 五人の中でもリーダー的な立ち位置にいる光輝が叫び声と共に技の名前を叫ぶと手に持った聖剣から光が解き放たれ、光を纏った刃を振るい、一刀の元に彼へ襲いかかろうとしたモンスターを斬り捨てる。後ろから近付いてきた敵に視線を移すと、攻撃をぎりぎりのところで回避し、首の部分へ刃を振り下ろした。首を落とされた黒い体表が特徴的なそのモンスターはつんのめるように地面へ倒れると黒い霧となって霧散した。その後ろでは朱音が両腕に装備している黒い篭手でモンスターを殴り飛ばしているところだった。蹴りでモンスターの動きを封じ、連続して繰り出される剛拳がモンスターを動けないようにしていく。鼬型のモンスターを五匹連続で倒すと、彼女はその後ろにいた猪型のモンスターへ狙いを定めた。


「行くわよ。スターライトダスター!!」


 彼女の叫びにあわせて右の拳が紅蓮の炎に包まれる。同時に溜めの動作をしながら彼女の威力を溜めた拳が炸裂する。炎と彼女の溜めが合わさった一撃は竜の頭へと形を変え、猪型のモンスターの牙を圧し折りそのまま絶命させた。モンスターを倒し、大きく息を吐いた彼女の後ろではバスターソードを持った龍之介が朱音に狙いを定めて襲い掛かろうとしていた熊型のモンスターの攻撃を分厚い剣身で受け止める。爪と金属の剣身のこすれあう音が響き、暫く双方の鍔迫り合い攻防は続いてたが、やがて龍之介が一瞬だけ緩んだ隙を突いて熊の攻撃を押し返した。


「うぉおおおおぉぉおっ!!アース・インパクト!!」


 押し返され、後ずさった熊に龍之介が体勢を立て直す暇を与えずに大剣を振り下ろす。重量と威力の二つが合体した大剣の重い一撃は熊を縦に引き裂き、地面に地割れを作る。両断された熊は瞬く間に霧となって消え去った。


「参るわ、蒼双刃牙!!」

 龍之介と入れ替わるようにして志乃が前に出ると鞘から刀を抜き放つ。一刀で敵を両断し、帰す刃で別の敵を仕留める。青い残光を残して彼女へ迫っていたサーベルタイガー型のモンスターは二匹とも彼女に牙を立てることなく霧散していった。


「い、行って。アクアスラッシュ!!」


 朱音、龍之介、志乃の三人に守られた晶が水で精製された二つの球を持っている杖で敵を指し示す。それと同時に水で作られた球が刃の形へと形状を変えた。同時に杖が指し示した敵へ真っ直ぐ飛翔する。相手も狙われている事に気付き、必死に回避しようとするが努力の甲斐空しく水の刃は相手を綺麗に切断する。

 晶が最後の敵を倒したところで戦闘は終了。異世界に到着してから数日、五人は驚くべき速度でレベルを上げ、戦闘経験を積んでいた。既に服装も召喚された時に着ていた学生服ではなく城で支給された高級品の防具や装備一式に身を包んでいた。強さの指針となるステータスと言う魔法を使いこなしレベルも順調に上がってきている。


光輝は王家に代々伝わる聖剣。グラムブレイズ


朱音は今まで誰も使いこなせなかった篭手。王国試製88式魔導手甲


龍之介は嘗て勇者と共に戦ったこの世界で英雄と崇め奉られる探索者が使っていたバスタードソード。ブランヴァール


志乃はこの国が出来る前に作られ、彼女のために鍛冶師が打ち直した紅い刀身が特徴の刀。アラハバキ


晶はこの国の大魔導士が遺した杖。バルグレン。


 全員が聖剣や宝剣、もしくはそれに類する業物を難なく使いこなしている。そして召喚された初日に分かったことなのだが全員が高い魔力容量を持っていることも分かった。晶に至っては魔力容量が二万を超えるという凄まじい数値を叩き出し、集まっていた国王以下王族や貴族を驚嘆せしめた。

 現在彼らがしていることは戦闘の経験を積み、レベルを上昇させることだった。魔族と戦えるようになるのは最低レベル五十。そのために連携の練習や自分の使える『技』の確認をしている段階だ。他のクラスメイト達もそれぞれ戦闘系職業に適性があったためにそれぞれグループを組み、ランドバルク王国各地で様々な訓練を受けている。


「流石ですわ!」


全員が聖剣や宝剣、もしくはそれに類する業物を難なく使いこなしている。そして召喚された初日に分かったことなのだが全員が高い魔力容量を持っていることも分かった。晶に至っては魔力容量が二万を超えるという凄まじい数値を叩き出し、集まっていた国王以下王族や貴族を驚嘆せしめた。

 現在彼らがしていることは戦闘の経験を積み、レベルを上昇させることだった。魔族と戦えるようになるのは最低レベル五十。そのために連携の練習や自分の使える『技』の確認をしている段階だ。他のクラスメイト達もそれぞれ戦闘系職業に適性があったためにそれぞれグループを組み、アステル皇国各地で様々な訓練を受けている。



 騎士団に護衛される形で彼らの戦いを見守っていた姫が光輝達五人のところへ駆け寄っていく。彼女はアステル皇国第二王女であり、光輝達クラスメイトを召喚した張本人でもあるクラエス・ディ・アステル。現在は王子である弟、エルデス・ヴィ・アステルの補佐を行っている。護衛の騎士が慌てて駆け寄り、クラエスを護れるような位置に立つ。勇者が粗方倒したとはいえ、完全に脅威が去ったわけではないのだ。


「ありがとう、姫」


「だから、私のことはクラエスと呼んでくださって構いませんと、あれほど言っているでしょう!」


 少し怒りながらもクラエスは光輝と楽しそうに会話している。その後ろにいる四人も互いに健闘を称えあっていた。騎士達も全員が誇らしげな視線で前にいる五人を見る。彼ら勇者がいれば何れ自分達が戦うことになる魔王や魔族など恐れることは無い。そんな期待のまなざしを彼らは勇者へ向けていた。

 そこへ一人の兵士が駆け寄ってきた。息を切らせながら走ってきた彼は数回深呼吸をして息を整えると隊長とクラエスに聞こえるような声で伝令を告げる。


「報告いたします!先日、常夜の森に送り込んだ王国特務遊撃隊第二中隊が壊滅した模様。それとあわせて、ランクネンで大規模な戦闘が発生しています!!」


 その言葉に勇者へ期待の眼差しを送っていた彼らの表情が一転、全員が険しい表情となる。何のことか分からない光輝達は首を傾げるが、重苦しい表情となったクラエスの表情を見てある程度察したような表情になる。


「……第一中隊はどうなりましたか?」


「第一中隊は六割の被害を受けましたが、帰還しています。報告をお聞きになられますか?」


「……ええ、報告の準備をする用に伝えてください。それと、光輝様。貴方方も私と一緒に来てください」


 先程まで見せていた穏やかで歳相応のクラエスの表情は今、一国の(まつりごと)を担う王女のそれへと代わっている。その状態の彼女言葉から発される只ならぬ雰囲気に勇者五人は全員が黙って首を縦に振った。




 将成の持つ大剣が醜悪な顔つきのコボルトを一撃で仕留める。膝をつき、受身を取ることも泣く地面に倒れたコボルドには目もくれず、彼は大鉈を振りかぶったコボルトへ視線を向けた。

 頭の中で明確に使いたいスキルをイメージしながらMP……魔力を武器へと送り込むことでスキルを発動することが出来る。最初の頃は技名を一々口に出していたが、戦闘を数回こなす内に段々と慣れてきた。それに二十歳にもなってスキルの名前を叫びながら戦うのはどこか恥かしい。

 彼がイメージし、発動させたのはエリュシオンのスキルである〈ソードインフェルノ〉。戦闘開始直後に使用したスキルによって炎属性の威力を倍にしている。ゲーム中でも良く使っていた武器と職業の持つスキルの倍掛けは現実世界となった今でも健在だった。ソードインフェルノは名前の通り火属性の攻撃で、一定確率で出血効果を相手に付与するスキル。〈アドベント・イフリート〉は一定時間中武器に火炎属性を付与するというスキルだった。勿論これ以外にもアドベント系統の支援スキルは存在している。これ以外にも将成は大剣の威力、攻撃速度が上昇する常時発動型スキル〈大剣修練Lv10〉が発動している。本来ならば、〈アドベント・イフリート〉を発動させていなくともコボルト程度の敵を屠るのは造作もないのだが、そこはシステムを確かめるという意味合いも含めて様々なスキルを使って戦闘を行っていた。

 ゲームだった頃〈ソードインフェルノ〉発動時に画面に映るエフェクトは真紅だったが、今では蒼い炎を纏った刀身がコボルドの肩口から入って鎧を斜めに引き裂き、脇腹から出て行く。それだけで既に斬られたオークは足取りが覚束なくなって前のめりに倒れた。

 蒼い炎が消え、コボルドが燐光を放ちながら消滅すると、彼は新たな敵を探す。次の敵が叫び声を上げて飛び掛る直前に将成は大剣で飛び掛ってきたコボルドの身体を貫いた。飛び掛ってきたコボルドの死骸を振り払うと彼は群れのリーダーらしきコボルドに視線を向ける。刀身がこぼれた刀に盾、身体には鎧を纏っている。


「ギャゥァァァアアアァッ!!」

 己を鼓舞するような雄叫びを上げてコボルトリーダーが突進する。刀を片手剣の類と考えて使用しているためなのか、構え方も片手剣のそれに近いものになっている。だが、コボルトリーダーは将成へ近付く前に動けなくなった。振り上げた右手が力なく垂れ下がり、刀と盾をまともに持つことが出来ず、コボルトリーダーは自分に何が起きたのか理解する前に絶命した。将成が何をしたかといえば、大剣を前に突き出して相手の獲物のリーチに入る前に始末したのだ。ボロボロだったとはいえ金属製の胸当ては布のように大剣の切っ先を通し、コボルドを貫いている。

 そこへリーダーが倒されたことで激昂したのか別の方向から銀色の兜と鎧に身を包んだコボルトが迫っている。物言わぬ死体となったコボルトリーダーから大剣を抜くと、正面から敵に向かい合う。相手の武器よりも将成の持つ大剣のほうが数倍長い。だからこそ先程と同じように構えてから将成は大剣を前に突き出した。勢い良くは知っていたコボルトが、後ろへがくん、と戻されたかのような動きを見せる。リーダーを倒したときとは異なり、大剣の剣先は鎧と兜の隙間を貫き、反対側のうなじからコボルドの血に濡れた大剣の先端が顔を覗かせていた。誰が見ても一撃で死んでいることが分かる。

 戦闘が終わりを迎えると将成は討伐部位の回収を行う。冒険者の言って違反にないに散らばったアイテムは自動的に回収することが出来る。それ以外にもコボルトがドロップした装備を拾い集める。素材であり売却アイテムでもあるコボルトの鎧や簡素な片手剣、低級ポーションや金貨など今の彼にとっては必要の無いものだが武器や鎧関連は街で売ればそれなりのゴールドを手に入れることが出来る。幸いアイテムバッグにはまだ余裕があったのでその中へぽいぽいと放り込んでいく。

 将成の相棒であるキリカがランクネンにいることを知ってから十数時間。彼は拠点であるセントレアを出て、彼女が最後に寄ったとされ、今現在足止めを食らっていると思われる街、ランクネンへ向かっていた。馬と飛行生物召喚を行いながら、休む時間も惜しんで移動を続ける。本来であれば街と街を繋ぐ都市間移動用の施設があるのだが、美影と確認しにいった時にはポータルが置かれた建物はなく、代わりに小さな店が出来ていた。

 ゲーム時代だった頃も将成はこうして大陸から大陸へ移動した記憶がある。本当にその時のテンションに任せて大陸を越えた旅をしたのだ。切っ掛けはとあるロードムービーなのだが、実際にやるような気力も体力も無かったので、「せめてゲームの中だけでも」と思った結果だ。

 道をひたすら歩き、どこからともなく出現するモンスターを倒し、宿屋のある村や町を見つけて泊まりといった生活をひたすら繰り返した。途中で特殊なモンスターに襲われたり、追い剥ぎを生業とするPKと殺し合いを演じたり、別の街へ向かっているギルドの護衛をしたりとそれこそ大小様々な思い出がある。そんな中で彼はある集団の存在を知り、やがて『ギルド』という看板に縛られた集まりではなく、ただふらりと集まってきた冒険者達と共に様々な場所を、様々な戦場を渡り歩いた。


 レイドボスをたった数十人で倒し、レア装備の杖をメンバーである真面目青年にプレゼントしたこと。


 海外サーバーのある大陸へ出掛けて、そこで出現するモンスターからレア装備を拾ったこと。


 小規模ギルドに傭兵として雇われ、大手ギルド相手に大立ち回りを演じ、何度も死に戻りしたこと。


 伝説の勇者パーティーと行動を共にする『最強の二刀流』と『閃光の突剣使い』相手に戦いを挑み、盛大に敗北したこと。


 思い出せるだけでもざっとこれだけある。そして招集が掛かった時の集合場所はいつもばらばらだった。同じ場所に留まらないという、根無し草のような集団らしく、時には星が今にも降りそうな遺跡で集合したかと思えば、今度は画面から寒さが伝わってきそうな氷の上に集合したり、大手酒場をチームだけで貸切にし、そこで集まったこともあった。


(もうすぐ日が暮れる、今日はこの辺りで宿を取った方がいいかもしれない……な)


 過去の回想に耽っていると道の端に看板が立てられていた。近くにある街か村の距離を案内する看板を確認しながら将成は西の空を見る。既に太陽は大分傾き、自分の愛用する魔大剣と同じ時間帯に差し掛かっていた。オレンジ色と藍色の空がマーブル模様を描き、地平の彼方へ太陽が沈もうとしている。

 現実世界では当たり前のように繰り返されていた光景だが将成はそれを見ていて改めてここが異世界だということを理解すると同時に感動に包まれていた。普通に東から太陽が昇り、西へと沈んでいくのは変わらない。だが感じる澄んだ空気や自然の雄大さは紛れもなくここが異世界であるということ。そして今の彼らにとっての現実であるということを明確に証明していた。

 太陽が山の陰に隠れるのと時を同じくして、彼は今晩止まる宿がある街に到着した。七メートルほどの壁に覆われた街の門前にいる槍を持った衛兵に自分の身分証を提示すると門番は黙って行くように目配せする。

 門番に手を上げて謝意を示すと将成は先ず今夜泊まる宿を決めにかかった。所持金は『銀行』と呼ばれる施設に預けている以外に手持ちに余裕があるので多少いい宿に泊まることにする。ゲーム内で私用できる通貨はモンスターがドロップしたり、宝箱の会場に成功した際に手に入れることが出来るゴルト。MFOの世界で使用する基本的な消耗品を始めとする各種アイテムや武器関連はこのゴールドで購入することが可能だった。それ以外には課金専用通貨で従騎士召喚の際に使用するオーブと呼ばれる通貨が存在する。課金専用通貨で購入できるものは従騎士召喚と武器に様々な効果を付与する特殊アビリティ購入以外の二つだけ。将成も武器に付与した武器専用アビリティ〈武器耐久度自動回復〉と従騎士召喚に使用しただけだった。基本的にMFOの武器や防具の類はプレイヤーの運に掛かっている。課金ユーザーと無課金ユーザーの差が開き、やがてサービス停止に追い込まれたオンラインゲームが多い中でMFOが未だに人気を博しているのは金を積めば積むほどいい装備が手に入るという一般的なオンラインゲームやソーシャルゲームと異なり、ゲームを遊んでいる全てのプレイヤー全てに平等なチャンスがあるからなのかもしれない。


「……基本はゴルトで足りるみたいだな」


 こういったトリップものにありがちな今まで使っていた通貨がこの時代では凄い価値を持っているということはなく、基本的に金貨を中心とした貨幣体制が成り立っていた。彼が宿の部屋に最低限求めるのは『鍵を掛けることが出来る』という条件だけ。後は夕食がサービスの一環として出されるということもあってか『夏の向日葵亭』という木で出来た向日葵の看板が特徴的な宿を選んだ。この宿は一階部分がカウンターになっているのではなく、酒場と併設して宿泊の受付を行っていた。正式な宿泊用の受付の場所もあるのだが、客は専らここで酒を一杯引っ掛けてから部屋へ戻る。もしくはここで呑んでから宿泊手続きを行う。酒場と一緒にすることで帰れないようにして客を捕まえる、上手く出来ているものだと思いながら将成はカウンター席に座った。新しく座った客に店主がすぐさま反応する。


「いらっしゃい。酒かい、それとも宿泊かな?」


「一泊。一人部屋に空きはあるか?」


「一人部屋ね……お、兄ちゃんツイてるね。最後の一部屋だ」


 店主がクリアオレンジ棒に細い鎖で繋がれた鍵を渡す。現実世界のホテルでも使っているような形式の鍵を受け取ると、将成は棒に白文字で刻まれていた202と言う部屋の前に立つ。開錠して中に入ると木の匂いが鼻に入ってきた。ドアを閉めてキーチェーンでロックすると、彼はコートを脱がずに部屋に備え付けのベッドへ背中から寝転んだ。天井にあるランプが柔らかいオレンジ色の光を放って部屋の中を明るくしている。


「……目撃証言を探しながら移動か……ランクネンまでは遠いな…………」


 今日一日の疲れが出たのか、視界がだんだんとぼやけてくる。明日の予定を声に出して確認したのを最後に、将成は眠りに落ちた。



 議会庁舎正面を防衛する重装備の騎士の格好をした冒険者が膝をつく。その合間を縫うようにして刃先が下を向いた独特の形をしたナイフを持つ男が突っ込んでくる。黒を基調に、最低限の金属防具が特徴的なアサシンの男が次に狙うのは暗紅色と黒の派手な服に身を包んだ銀髪の女性だった。彼が目を凝らして彼女の頭上に浮かぶカーソルを見る。MFOにはプレイヤーを始めとする存在に必ずカーソルが付く。一般的なプレイヤーは青。PKを行ったり、ゲーム内でペナルティ扱いの行為を行ったプレイヤーはオレンジ、敵は赤、NPCはライトグリーン、従騎士はアイスブルーといったふうに分けられている。

 銀髪の女性の頭に浮かんだカーソルはアイスブルー、つまり従騎士だ。レベル二百越えのアサシンの手に掛かれば彼女の首を落とすことなど造作もない。

彼は従騎士に自分のアイテムや装備を注ぎ込んで溺愛するプレイヤーを嫌悪する立場だった。ツールにはツールとしての領分がある。それを越えて単なるプログラム上の霊魂(ゴースト)のない存在を仲間や相棒といった一人の人間として扱うプレイヤーは彼にとって理解の範囲外にあった。


(へっ、見るからにのろそうだ。カモだぜ)


 アサシンの男が長らく使っている相棒のナイフを構えて、隠密系スキル〈影踏み〉を使う。戦闘時、非戦闘時の両方で使える優秀なスキルで、これを使えば効果時間内の間は敵に気付かれないという効果を持っている。だが、攻撃後はステルス状態が解除されるために再度使用しなければならないというデメリットもあった。

影踏みの効果は問題なく発動しているために、彼は銀髪の女性の背後に回りこむ。気配を可能な限り遮断し、相手の意識の外に自分を置くという能力だけあって、議会庁舎前で戦っている冒険者には気付かれることなく彼は進入に成功していた。

彼の右手にあるナイフはクエストの報酬で手に入れたもので威力、固有アビリティ、その他含めて彼はこのナイフを愛用していた。何よりも一見すると片手剣にしか見えないほどの大きさを持っている。リーチの短い短剣を今まで使ってきた彼にとって、この武器は理想の武器の一つでもあった。

 MFOの世界が現実になり、彼の所属するギルドは大手の傘下に加わった。今までゲームの中でしか振るうことの許されなかった力。変身願望、超人願望、破壊願望、その他諸々が混ぜ合わさり、暴力を振るうことの快感に彼は酔いしれていた。既に『死』に関する事柄も把握済みだ。だからこそ命を無視した、ともすれば自爆テロを起こすテロリストのような生命を省みない戦い方をしている。

 今日一人目の獲物だと舌なめずりをして銀髪の少女の上からアサシンの必殺スキルの一つでもある〈エリミネイト〉を発動準備に入る。頭の中でスキルの名前をイメージする。動きではなく名前、それだけで身体が最初から知識として入っていた形をとる。

 だが、スキルが発動し、瞬間、彼の全身を言いようのない悪寒が通り過ぎた。気の迷いか、それともまだかすかに残った良心か、とも考えるが、既にスキルは発動し、相手は明らかに自分の存在に気付いていないように見える

気のせいだと自分に言い聞かせて彼はナイフを振りかぶる。そして女性の首筋にナイフを付きたてようとした時……

 彼女が身体を動かしてその一撃を回避する。必殺と思われていた一撃は空を切り、渾身の〈エリミネイト〉は不発に終わった。なるべく驚愕を顔に浮かべないよう務めるが、それでも男は内心で大きく動揺していた。外す筈のない攻撃が外れたのだ。気配遮断で気付かれずに接近したにも拘らず彼女は難なく避けた。アサシンの男は目の前に立つ銀髪の女性を見る。暗紅色と金色の軍服にウエストエプロンとヘッドドレス。メイドと軍人を足したような出で立ちの彼女は漆黒の剣を持ったまま彼を見て小さく笑った。


「どうして自分の攻撃が避けられたのか…………まだ理解が追いついてないみたいな顔をしていますね」


 内心まで的確に言い当てられた。だが、目の前の軍服メイドが次の言葉を発して揺さぶられる前に〈影踏み〉を発動させてしまえば問題ない。再び気配を遮断して攻撃の機会をうかがえばいい。気配が薄れる感覚と共に、彼は再び議会庁舎を防衛する側の冒険者の意識から消え……


(消え切れてないだと……!!)


 先程狙った軍服メイドが迷うことなくこちらへ突っ込んでくる。見間違いかとも思ったが、そうではない、相手は明らかに彼を知覚している。


(ちぃっ、フレイムバレット!!)


 緊急用武器である小型拳銃『デリンジャーVX』を抜くと男は炎に包まれた弾丸を撃つ。命中と同時に火炎属性のダメージ。稀に火傷を負わせる弾丸はメイドに命中しなかった。変わりに軍服メイドがその手に持っている漆黒の大刀を振るう。その一撃で彼のHPは大きく減少した。アサシンという職業の構成上、敏捷を優先すると必然的に移動速度が遅くなる鎧を装備しようとせず、耐久関連がお粗末になる。それでなくともアサシン専用装備は敏捷を高める代わりに防御力が犠牲になっていることが多い。まさしく高機動高火力紙装甲。それがアサシンという職業でもあった。やられっ放しは性に合わない彼は何とか最後に一矢報いようと愛用の得物を振るう。だが、振るった先に、軍服メイドは居なかった。そして背中側に感じる誰かの気配。その気配を感じて首を動かした先に確かめた彼の目には大刀を振り上げ、今正に振り下ろさんと構える少女の姿だった。


 振り下ろされた大刀がアサシンの男のHPを完全に削り取る。青白い粒子となって消えた男には目もくれず、軍服メイドことキリカ・シフォンフィールドは右手に持つ武器である大刀、サマーを見た。MFOの武器には幾つかの武器カテゴリを持つものが存在する。サマーのカテゴリーは〈刀・大剣〉の二重属性(ダブルファクター)と呼ばれる武器で、大剣と刀、両方の攻撃を使うことが出来る。また武器の中には元の形そのものが変形し、様々な武器へ変形することが可能な〈シェイプシフト〉という固有能力を持った武器もある。この場合は武器カテゴリから変わってしまうために様々なスキルを使うことが出来るが、同時にスキルそのものも多様化してしまうためにスキルそのもののレベルアップに多大な労力を使うため獲得しても戦闘毎に様々な形状に変形させて使う者は余り存在していなかった。

 閑話休題。キリカの職業はメインこそ刀を始めとした和風武器を扱う〈侍〉……のようにも見えるが違う。そもそも彼女のメインの職業自体、刀が使える武器として存在しているのだ。残る一つのサブ職業枠にはガンスリンガーを選択している。サマーを鞘に戻すとキリカは手に銃をイメージする。選択している職業の内、ガンスリンガーはその名が示すとおり銃火器の扱いに長けた遠距離系職業で、主な装備は拳銃から対物狙撃銃まで、それ以外にもロケットランチャーや爆弾も使えるほか、ナイフと拳銃を併せた装備や二挺拳銃や二挺SMGといったロマン溢れる装備をすることも出来る。主に銃火器による攻撃が主体となっているが、支援弾丸で前面に立って戦う味方に各種バフ、デバフの付与を行うことも出来るほか、回復弾丸と呼ばれる弾丸を使えばヒーラー同様の働きも可能だ。

 ガンスリンガーで選択できるスキルの中には戦闘、支援、衛生、索敵といったどれかの技能に特化しているスキルを伸ばすことも出来るが、彼女はその全てを満遍なく上げていた。器用貧乏といわれることも想定しているが、彼女はこの選択に異論はない。

 そして勿論彼女専用の武器は近接戦闘武器だけに留まらない、勿論銃火器に関しても一級品が揃っている。サマーを格納し、彼女は左手に減音器(サプレッサー)の付いた拳銃、右手に鋭利なナイフを持つ。議会庁舎の中に敵が入ったという声が聞こえてくるので、そちらの方へ行くことにする。MFOでは基本的に銃火器の性能はこの世界オリジナルの方が強い。あくまで現実世界に存在する銃器はおまけ的な立ち位置らしいがそれでも作りこみはレベルが高かった。銃によっては明らかに射撃音まで異なるという拘りからも、開発スタッフの中に相当なガンマニアがいたことは想像に難くない。

それ故にファンタジーな世界で軍服や現代の兵士に通じるような装備をしてWW2時代の突撃銃や銃剣つきの木製ライフルから最新鋭ポリマーフレームの自動小銃を持って敵陣へ突撃しては魔法や範囲攻撃で吹き飛ばされる冒険者も一定数存在している。

 彼女の主人である彼のセンスは彼自身が着る服意外最高だと思っている彼女はとりあえずこの無駄を一切省いた黒や砂色……TANカラーといった銃のデザインが好きだった。この世界独自の銃はどこか装飾過多だったり、機能よりも武器の美しさを求めている方が多い。装飾ゆえに性能が低下している武器もあるために彼女はこの世界独自の従をあまり好きにはなれなかった。

 彼女が取り出した拳銃は現実世界では比較的知名度の高い銃、コルトM1911A1ガバメントをベースにした拳銃だった。映画やドラマ、小説や漫画、ゲームなどで登場するために名前や形状だけは知っているという者も多いコルト社製のベストセラー商品でもある。彼女が使用するモデルはそんなガバメント拳銃に高精度、高耐久のカスタムを施したナイトホーク1911と呼ばれる銃を使用していた。銃口には減音器をつけるための溝が切られているアタッチメントが装着されている。

 こんな一部のガンマニアが知らないようなマニアックな銃火器がこのゲームに存在しているのには理由がある。MFOはユーザーが自発的に作り出した銃火器や防具の外装をゲーム内でも使用できるようシステムを整えていることでも有名で、定期的に防具のデザインコンテストも行っていた。主な理由は会社の中では出て来ないような案を外部から取り入れることで、会社側のデザイナーもそれに触発されて新たなデザインの武器防具を生み出す。それ故に公式のイラストサイトには様々な防具のデザインが公開、配布されていた。彼女の使って居るナイトホーク1911もそういった自発的なユーザーが製作したモデルに店で施すことの出来るカスタムを行っている。

 議会庁舎内に戻るとそこでは施設の職員が緊急事態用に庁舎に常備されていた片手剣やフリントロック式の拳銃で応戦しているところだった。ふと気配を感じて振り返ってみれば、碌に手入れのされていないライフル銃を持った男が二人、傷病者を銃床で殴りつけているところだった。キリカは躊躇うことなく後ろから忍び寄ると背中を見せている男の喉笛に逆手で持ったナイフを突き刺す。

 何が起きたのかを理解する前に死んだ男と、相方が何の前触れもなく死んだことに驚愕の表情を浮かべるもう一人の男。彼女はナイフを刺した男の身体を盾にもう一人の男にナイトホーク1911の銃弾を叩き込んだ。抑制された射撃音が響き、後には二つの男の死体だけが残っていた。キリカが撃ったのは二発。頭と心臓に一発ずつ、相手に確実に死を与える一撃だ。

二人の死体を確認しながらキリカは彼ら素性を推測する。この程度の装備から考えるに相当な初心者冒険者を使っているのだろう。現に二人の身体は青白い粒子となって消えていく。死に戻りを前提とした退路なき戦法……『鉄砲玉』と呼ばれる戦い方だ。武器も替えが効く初期武装かそれに近い類の武器だと考えていい。


(……あのギルド紋章には見覚えがあります。サウザント・ファングスですか)


 この動乱が始まる前、主人であるウォルフとあちこちの戦場を巡っていたときの知識を思い出す。比較的冒険者の中でも余り評判の宜しくないギルドだったと記憶している。事実、主が居ない時に粘着質に勧誘してきたことは忘れない。最終的には爆弾作成スキルで人間爆弾を作って適当なモンスターへ特攻させたのも今では笑い話の一つだ。


(正直真剣に私のことを狙ってきている方も居ましたからね)


 何より苦手意識を持っているのは彼女が嫌がろうと本気で連れて行こうとしていた点にある。装備類が整っていなかった序盤ならいざ知らず、今の装備の彼女に一対一、もしくは一対二の決闘を挑んだとしても、そうそう勝てる冒険者は居ない。NPCは一部の例外……この世界に元から存在しているとある存在以外は基本的に冒険者よりも弱い存在になっている。NPCが強いとそもそも冒険者の存在意義がなくなってしまう。従騎士に関してもそれは例外ではないのだが、一部の冒険者……特に従騎士育成に力を入れるとあるギルドを始め、一部のマニアックな冒険者が契約する従騎士は時に高レベル冒険者すら下す存在だった。そして鞘音もその数少ない例外に入る。高火力、高機動、並装甲、魔法系統、杖などの武器以外ならばどんな武器でも扱うことの出来る高いスペック。それがキリカ・シフォンフィールドという存在だった。

 議会庁舎の中に入り込んだ敵を確認しながら一人ずつ、確実に掃討していく。敵の構成は新人の冒険者に簡素な装備をさせたうえで無謀極まりない特攻作戦を行わせている。事実彼女が倒した中には十二、十三ほどの顔立ちをした者もいたからだ。彼らも負傷者や防衛を行っている冒険者を倒さなければいけないのだが、防衛側も攻撃側に負傷者を攻撃されたり、議会庁舎を壊させるわけにはいかない。そうなると必然的に双方の攻撃は苛烈なものとなる。

 襤褸切れに近いような初期防具を着た少年の背後から忍び寄り、一歩、履いている軍用ブーツで大きく踏み込むと容赦なくサマーの袈裟切りを放つ。白い斬光を残して少年は消滅した。次、ソードブレイカーに似たナイフを持った少女。彼女がソードブレイカーを小脇に構えて突っ込む動作に合わせて無防備になった首筋に強烈な突きを打ち込む。ラリアットを食らった時のように足が空を蹴り、頭から地面に叩きつけられる。HPが完全に消え去ったことを確認するとキリカは次の敵を求めへ悠々と歩き始めた。



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