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ラストライン

 今回は六千文字ほどです。いつも読んでくださる方、評価してくださる方、ありがとうございます。

 ムニンが出航準備を進める。既に限界まで人員を収容したフギンはランクネンを出港、皇国海軍の包囲が完成する前に公海へ出た。街で抵抗していた冒険者が八割以上のフギンとは異なり、ムニンに乗っているのは殆どが救出部隊か士気の高い冒険者達のために、限界まで捜索と時間稼ぎを行っていた。包囲殲滅を目論んだ皇国海軍は図らずも味方であり勇者でもある朱音の攻撃によって指揮艦が撃沈というよりも消滅。指揮を失った艦隊は三々五々港へ向けて突撃している。


「……あの両腕のあれをどうにかしないと私達が沈められるな」

「正直キリカを休ませたかったんですけどね……これは無理そうです」


 ゆっくりと……確実に港の方へ歩みを進める朱音を見ながら将成はアンジェと言葉を交わす。破軍剛拳自体は一見すると単なる巨大な腕のようにも見えるが、その実多目的兵装腕……つまりあの列車一両分はありそうな腕には拳以外にも武器が内蔵されている対城攻略兵器なのだ。事実、先刻発射した極太ビームがそれを如実に物語っている。

 そこでアンジェがロートスネイヴェを掲げると周囲にいる全員に聞こえるよう声を張り上げた。


「はあ、やるしかないか……バッドカンパニー全員傾注、アステル皇国勇者を撃滅せよ!!」


 凛とした声で伝えられたのは敵の撃滅、その言葉に、全員が武器を手に取る。ムニンからも銃火器を持った冒険者がそれぞれ援護射撃を始めていた。尋常ではない数の火線の支援を受けながらバッドカンパニーの面々が突撃を開始する。先頭を行くのは最も機動力の高い、一存の従騎士である氷雨、近接戦闘を得意とする彼女だが、今回は刀を抜かずに一気呵成に朱音へ向けて跳躍する。だが、そこで破軍剛拳の上部装甲の一部がスライドし、アルミ缶サイズの赤い弾頭が特徴的なマイクロミサイル発射器が姿をあらわした。この世界でいうところの神代の技術……将成達の世界でもSFチックな兵装が現れた白煙を引き、マイクロミサイルが氷雨に殺到する、逃げ場のない空中へ逃げたことに対し、朱音は唇の端を歪めて嘲笑するが、彼女は空中に足場でもあるかのようにそれを回避し、舞うように一回転。アサシン特有の機動性と彼女の種族特性が融合したバレルロールのように立体的な軌道を描きながら彼女は背中側のベルトに吊っているホルスターからドライヤーのような外見のアイテムだがこれはドライヤーではない。引き金を引いた瞬間にフィルムケース大の黒い塊とそこから伸びた鋼色のワイヤーが飛翔、破軍剛拳の装甲の表面に黒いフィルムケースが命中すると同時に四つの小さな爪が食い込んだ。彼女が渡されたのはワイヤーガン。弾丸ではなくワイヤーを射出する用途で使われ、主に戦闘ではなく移動や強襲作戦で使用される。即座に氷雨はワイヤー巻き取りを開始。彼女の足が破軍剛拳の表面をとらえた。左手でワイヤーガンを持ちながら彼女は準備していた行動に移る。背中に背負っているケースから伸びる取っ手を引っ張ると、ケースの固定が解除され、中からワイヤーとそれに繋がれた十二個の円盤状の物体が接続された物体が現れた。氷雨が勢い良く右手を振ると円盤状の物体が装甲表面に張りつく。一つが続くと残る全てがくっついた。それを確認すると氷雨はワイヤーガンを操作してアンカー部分を巻き取ると、後方宙返りで破軍剛拳から離れた。転瞬、破軍剛拳の表面で連鎖爆発が起きる。

 氷雨が使用したのはチェーンマインと呼ばれる武器で。本来の用途としては攻城戦時に城門などにくっつけて起爆させるという粘着爆弾の親戚の様な一品だ。取っ手とワイヤーで繋ぐことにより連続起爆させることが可能になったこの武器はその使い勝手から攻城戦以外にも多くの戦闘で使用されている。閑話休題、これで片側のミサイル発射機は破壊することに成功。内部の機構も剥き出しになっていた。

 続く仕手は礼の従騎士であるコーデリア。彼女の服装は白と黒、ライトグリーンを中心にしたワンピースタイプの服装に身を包んだ彼女はブーツで地面を踏みしめながら全力疾走する。制服のような襟に金色の飾りにライトブルーのリボン、そして黒と金のコルセットが巻かれたことで胸の部分をより強調しているデザインになっている。動きやすさを重視して膝上丈しかないスカートの下にはスパッツを装備済み、髪形もサイドテールになり、テール部分をリボンで巻いているという変わった髪形になっている。

 彼女の本来の職業はグラップラー。将成とキリカのタッグ同様に双方が前線に突っ込むタイプの編成だ。ナイフや弓に関する適性を生かすために、サブ職業には特殊部隊員(オペレーター)とトラップ等の仕掛けを主体とする特殊工作兵という職業が選択されていた。

 彼女が今回装備するのは楯に攻撃機能を追加できないかという理由で考案されたスパイクシールド。直角に配された盾の打撃面にスパイクをつけたという簡素な格闘武器。防御と格闘攻撃を両立させた武器でもあるのだが、盾として使うにはガードできる面積が狭い、打撃武器として使うにしては与えるダメージが貧弱すぎるという中途半端な武器。それがスパイクシールドだった。

 朱音に突撃するコーデリアの前に一人、退路を断つように一人、鎧に身を包んだ少年少女が立ちはだかる。顔立ちからして朱音を始めとした勇者達のクラスメイトだということをコーデリアは察した。だが、彼女は一切手加減をするつもりはない。彼らの指揮艦である光輝と名乗った少年は自分の友人であるキリカを勝手な理論で連れて行こうとした。彼女の主である将成によって彼女は無事に帰ってきた。主である将成の装備品や武器の摩耗具合からいかに激しい戦いだったか理解できる。そしてその激しさは自分の従騎士に対する想いの表れでもあった。だが、その二人が無事に帰ってきたところで彼女の怒りが収まったわけではない。勝手な理由で友人を連れて行こうとした落し前はきっちりと払ってもらう。敵対する二人の武器はオーソドックスな片手剣であることを確かめると彼女は退路を断った少年から撃破しに掛る。

 振り下ろされた片手剣を左手のスパイクシールドで防ぎ、がら空きになった胴体に右のスパイクシールドによる一撃。腹を押さえて後ろへ下がる少年に追撃を叩き込んでから彼女はふらつくように数歩下がる……ように見せかけて、襲い掛かってきた少女に右の後ろ回し蹴りを叩きこむ。盾で防ぐ間もなく踵が少女の腹部に命中。地面に叩きつけられ、痛みの余りに意識を手放す。少女が倒れたことを確かめるとコーデリアも背中に背負っていたケースからチェーンマインを取り出す。ワイヤーに接続された吸着地雷が今度は左手の破軍剛拳に張り付いたかと思うと彼女も高速で離脱。右腕と同様に地雷が爆発した。

 そこで船側からの援護射撃に対し、朱音が行動を起こす、左腕の指先が真っすぐに伸び、五指全ての関節が固定され、指全てが真っすぐに伸びたかと思うと第一関節先端のカバーがスライドし、中から射撃が始まった。五指全ての関節を固定したのは砲身を形成するため、そして指の一本一本には六本の砲身を束ねたガトリング砲が内蔵されていた。小口径のものではなく、戦闘機に搭載されているような大口径のガトリング砲が援護射撃を行っているムニンに殺到する。だが、飛来した砲弾はその前で見えない壁にでも当たったかのように動きを止めた。


「おっとぅ、ここはそう簡単に通せないぜ」


 そう言いながら白いコートの裾を揺らして歩くのは一人の眼鏡をかけた渋い男だった。彼の手に握られているのは槍、十文字の穂先を持つ和槍。だがその形状はファンタジックでありながらもどこかSFチックな外見をもっていた。それを肩に担ぎ、ゆっくりと歩くのは縁。メイン職は回復三職の内の一つで、キリカのサブ職の一つでもある神道武官。一般的な神道武官は錫杖を主体とした戦闘スタイルだが、彼の場合は身の丈以上の大槍を持っていた。腰のベルトには銀色に輝くリボルバー拳銃と小太刀がある。凡そ回復職業に見えない出で立ちをしているが、数秒前の障壁は勿論彼が張ったものだ。

 ガンブレード、連結剣に次ぐ複合武器の成功例の一つ『槍杖(そうじょう)』槍としての機能と杖としての機能を両立するその武器の使い手として彼は有名だった。朱音が彼に向けて右手の指関節を固定、ガトリング砲の弾丸が爆音と共に襲い掛かるも彼は不敵な笑みを崩すことなく回避、弾丸は地面に穴をあけるだけで済んだ。移動後に縁は石突きで地面を軽くたたく。その瞬間魔法陣が生成されたかと思うとそこから犬のようにも狼のようにも見える一メートル大の鋼の獣が姿を現した。サイコムを取り出し、軽く画面を操作すると獣の背中に二門の機関砲と弾薬類がセットになった装備が接続された。


「行け」


 縁がそう命令した瞬間に、獣は走りだす。それに続いて縁も槍を構えて吶喊した。その隣に白衣に身を包んだ女性が並ぶ。九十九だ。


「九十九、仕掛けろ」

「りょうかい。右、左?」

「右からだ。あの坊主(将成)の負担を減らせ」

「はいはい。なんだかんだで結構気にしてるねえ」


 息の合った遣り取りを終えると九十九も己の得物を取り出す。槍杖の派生形、ハルバードに杖の機能を合体させた斧槍杖だ。斧頭が柄の半ばまで到達しているという斧というよりは片刃剣と見えるような一品だ。縁が召喚した機械の獣……彼のサブ職業である人形遣いに由来するスキルだ。従騎士とは異なるベクトルの人形を作り出し、それを自在に操って戦闘をコントロールする。彼が使用するのは主に動物型の機械獣で、索敵、強襲、撹乱など様々な用途に合った機械獣を使役している。

 朱音の注意が機械獣……ラヴェッジヴォルフに向いているところで縁が右の、九十九が左の破軍剛拳にそれぞれの得物を突き立てる。縁の槍はどちらかと言えば回復向け、九十九のハルバードは召喚系のスキルを主体に構成しているが当然槍や斧槍としてのスキルもある。縁が幾つもの打突を連続して撃ち出す槍用スキル『ガトリングスラスト』を、九十九が振り下ろしから斧の柄を回転させてX字の斬撃を叩きこむ斧系スキル『ディアボリカ』をそれぞれ命中させる。装甲板が剥がれ、内部機構を盛大に損傷させると縁がラヴェッジヴォルフを下がらせる。九十九もバックステップで回避したところで朱音が反撃に出た。ミサイルポッドとはまた別の部位、今度は両腕の中央部のカバーが開いたかと思うと、そこから黒いケーブルに繋がれた濃灰色のアンカーらしきものが数十本単位で射出された。

 狙いは船から支援している冒険者……主に召喚術師(サモナー)が召喚した召喚獣に向けてだった。濃灰色の円筒形をしたアンカーが朱音へ向けて襲い掛かる召喚獣に襲いかかるとアンカーに備わっていた四本の爪が召喚獣の身体を捉えた。ケーブルは即座に切り離されるものの、人型、動物型を問わず、アンカーが命中した召喚獣はそれまでの勢いを失った。正しくは召喚者の指示を受け付けなくなったのだ。この異様な状況に召喚者側も怪訝な表情をする。アンカーを打ち込んで動きを封じるなり、電撃や何かの攻撃をするのならばともかく、アンカーを繋ぐケーブルが切れているので何かの攻撃をするという理由は消える。不気味に黙った召喚獣に対し、次の行動を起こそうかと冒険者達が動きかけた時、突如として召喚獣が反転、一斉にムニンのある方へと走り始める。その道中にいた冒険者は凶暴性を増した召喚獣の攻撃により、数十秒でHPの半分以上を失った。召喚者達が必死に制御しようとするも、召喚獣達は主である召喚者や船から援護攻撃を子なっている冒険者達へその牙を、その武器の切っ先を向けた。当然、謎の敵対行動を取り始めた召喚獣達はバッドカンパニーにも襲いかかる。召喚獣の中でも比較的人気のある猟犬型の召喚獣『グリムハウンド』の首を左手に持った散弾銃で吹き飛ばしながら礼は朱音の左腕、正しくは左腕に接続されている破軍剛拳に向けて地面を蹴った。彼の武器は右手に複合武器である銃剣、左手には銃身下部、ハンドガード部分に鋼色のブレードが接続されたショットガンを持っている。現実世界に存在するM1887をベースに様々な改造とブレードが合体した武器は礼のスタイルに適合していた。銃剣が猟犬を真っ二つに裂き、彼の後ろから迫る別の猟犬に対しては左手の散弾銃『パンプキン』が火を噴く。

 共通の友人である一存も大太刀でグリムハウンドを斬り倒しながら進む。礼は朧げながらも朱音が行った攻撃を理解しつつあった。おそらくあのアンカーは無線で相手の召喚獣の制御をジャック出来るらしい。依然戦ったことのあるレイドモンスターにも特殊な魔法で召喚獣に干渉してくる敵がいたのだが、この巨大な武装は機械の力と勇者とはいえ少女個人の力でそれを可能とするらしい。今は対モンスター相手に使用しているが、これが対人戦闘などで使用された場合、戦場は酸鼻を極めるだろうなと礼は思った。数分前まで肩を並べて戦っていた筈の同僚がいきなり剣を振りかざして襲ってくるのだ。パニックになってしまうのは想像に難くない。

そこで一度は閉じた中央部の装甲が再び開く。そこを見たとき、礼を始め一存や攻撃に参加しているバッドカンパニーの面々は驚愕を隠せなかった。何せスライドした装甲の下には先刻撃ったはずの濃灰色のアンカーが再装填されていたからだ。先程は召喚獣だったが、今度も召喚獣に向けて発射されるかどうかは分らない。それどころか冒険者へ向けて発射される可能性もゼロではなかった。

 地面が沈み込むほどの踏み込みから礼は一気に跳躍する。狙いはアンカー発射を控えている破軍剛拳。見ると一存も同様に跳躍し、腰からブラックメタリックの輝きを放つ球体を取り出した。頭頂部にあるボタンを押すと、球体に彫られた溝に青い光が灯る。次第に間隔が短くなっていく球体を発射口に投げ込んでから数秒後、青白い光とオレンジ色の炎、そして黒煙が発射口から発生した。プラズマグレネードが炸裂し、基部とアンカーをまとめて破壊したのだろう。礼もそれに続いてパンプキンを一度専用のホルスターに納めると左手で腰のベルトに吊っている円筒缶を取り出し、口でピンを抜くと発射口へ放り投げた。こちらも数秒後に爆発。熱波が離れた場所にいる彼にも伝わってくる。焼夷手榴弾がアンカー発射機を破壊してからコンマ数秒後、跳躍したアンジェがロートスネイヴェを片手剣形態から鞭形態に変形させる。剣のロックを解除し、バラけた剣身が左の破軍剛拳を蛇が得物を絞め殺すかのように巻き付くと外殻装甲をギャリギャリという耳障りな音と共に削り始めた。


「処刑執行・ズィルバーシュランゲ!!」


 彼女の叫びに呼応するように蛇のように巻き付いた刃が動き出す。パキビシ、という滅多に聞こえないような音が響いたかと思うと彼女の装備していた破軍剛拳がパーツ単位で破壊されていた。朱音自身は何か特殊な加護でもかかっているのか、腕をかすっただけで済んだが、それ以外の部分は鋭利な切り口を見せた状態で地面に転がっていた。形勢不利と悟った朱音が助けに入ったクラスメイトを放り出して撤退する。拳の一発で文字通り道を切り拓きながら進む彼女は八つある広場の一つに辿り着いた。そこには皇国軍が既に制圧し、簡易的な補給所として機能していると聞いていたからだ。確かに朱音がやってきた場所は補給所と思しき武具の納められた木箱や簡易テント、負傷者救護のテントなどが並んでいる。だが、本来であれば数十人の人間が詰め、クラスメイト数人がいそうな補給所で意識を保っている人間は誰一人としていなかった。その多くが地面に倒れ、死んではいないものの軒並み意識を刈り取られている。王国軍兵士……それも一般兵ではなく近衛軍や重装兵や彼女とおなじ勇者の職業(ロール)を持っている筈のクラスメイト達でさえ、糸の切れた操り人形のような姿で地面に転がっている。

 そこで彼女は視線を上げる。何の気なしに取った行動だが、目に映った人物を見て彼女の唇は三日月を思わせるかのように歪んだ。想い人や親友をたった二人で撃破し、戦闘不能にした二人組……黒と金色に青い発光部が特徴的な魔砲剣を担いだ黒衣の青年と白と青の露出が増えた巫女服をベースにドレスを合体させ、帯やフリルが加えられたオリエンタルな服装に身を包み、刀を差したハイエルフの女性が立っていた。既に東の空は白み掛かっている。決着の時は着実に近付きつつあった。


 今週はもしかするともう一話投稿するかもしれません。第一章は後二話ほどで完結します。その後は今後の変更点と軽く設定を投稿出来たらいいなと思っております。

 メインヒロインの種族が変わっているために、タイトルも変わる可能性があります。


 それでは皆様の感想、批評等をお待ちしております。

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