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反撃と合流

 作者本人が納得できるキャラクターの名前を考えるのは難しいですね……

 海の上を二隻の船が行く。スクリュー方式ではなく、浅い川でも航行しやすいように外輪式の動力を使っている船には簡易の防衛火器の設置作業が進められていた。鉄鎚で物を打つ音や工具の音が随所から響く中、船は着実にアステル皇国の領海内に突入していた。艦橋に旗を掲げたこの輸送船は、船を愛する冒険者達によって作られたギルド、Water Ship Troopersが保有する中でも最大規模の輸送量を持つ船だった。飛行船などの技術が存在しているとはいえ、この世界の船はまだ帆船が主流で魔導炉を搭載した『精霊船』と呼ばれる新概念の船は陸上資源に乏しい海洋国家や海軍の軍備に力を入れている国家でしかお目に掛かれない存在だった。

 WSTが保有する大型輸送艦『ムニン』と『フギン』……北欧神話に登場する番いの烏の名前を冠されたこの船は現在ランクネンに向けて全力航行中だった。取り敢えず生まれた五大ギルド連絡会の指示によって現在アステル皇国から冒険者たちの国外退避作戦が始まっている。そしてその中でも最大規模、街一つを巻き込んだ動乱の渦中にある街、ランクネンへ向けて二隻の船は向かっている最中だった。目的は冒険者……葬儀社に所属しない冒険者たちの救出。その目的のために他の民間人を救出しないという若干非情な判断が下されていた。

 二隻には街に取り残されている冒険者が所属しているギルドの構成員が数パーティー単位で乗り込んでいた。だが、一隻だけでも五百人近い人間を収容できるために然程気にする数でもない。だが、その中で異彩を放つ集団がいた。舳先の一角にいるのはプラチナブロンドと澄み渡る空のような瞳に黒と紫のスタイリッシュなバトルドレスシリーズという華美さと性能を両立させた装備で身を固め、腕や足には黒銀製の装飾が施された甲冑を着けた女性がいる。頭には小さな王冠が傾いた状態で乗っていた。斜めに巻かれたベルトには右手用にレイピア、左手ように鍔のない直刀。そして船に立てかけているのは近未来チックなデザインの大剣だった。

 彼女が将成を始めとした三羽烏が在籍することになったギルド『バッドカンパニー』のギルドリーダーであるアンジェだ。職業はエリュシオン。将成と同様に近接武器を使って前線に斬りこみ、魔法で支援や付与効果を武器に与えるという戦法を得意としている。


「ふむ、そろそろランクネンだねえ……(ゆかり)さんの方は準備できてる?」


 そんなアンジェの隣にいるのは黒いカッターシャツとスラックスに山吹色の緩めたネクタイ。上に羽織るのは目の覚めるような純白の外套、細いフレームの眼鏡をかけた白髪交じりの黒髪が目立つ中年だった。脂ぎった容姿ではなく、その姿はどこか洗練されている。美中年という言葉がそのまま当てはまりそうな男だった。


「勿論だ。あの三人とその従騎士が戦っているなら、そこは俺の戦場でもあるのさ。あの三人……従騎士を含めて六人の合流を以てバッドカンパニーはようやく活動を開始することが出来るってもんだ」


 美中年……キャラクターネーム長船縁はそういうと面白そうに笑った。ドリフターズの中では唯一の生産職をサブ職業に持っている冒険者で、普段はチームの鍛冶職人として、戦闘時には自分の作ったアイテムや武器で戦うことの多い人物だった。メインの職業は侍だが、サブ職業に人形遣いとガーディアンを選択していることに加え、使用する武器を変えることで前衛と後衛を兼ねることの出来る珍しい能力構成の人物でもあった。

 二人が他愛ない話を続けること数分、俄かに甲板が騒がしくなった。先程までそれぞれのギルドで集まって会話をしていた冒険者たちがあちこちを行き交っている。断片的に聞こえてくる言葉を拾うと、どうやらランクネンが見えてきたらしい。二人も甲板を移動し、徐に双眼鏡を取り出す。確かにランクネンの街が浮かび上がっている。だがその光は温かな照明などではなく、戦闘による火炎や爆炎によって齎されたものだった。二隻が減速を開始するとともに船首の向きを変えてバックするようにして進み始める。後部の大型貨物搬入用ハッチを開いて接岸するためだ。それに先んじる形で複数のパーティーが船を下ろし、埠頭の危険を排除するべく制圧に向かっていく。そこで二人のいる場所に新たな人影がやってきた。どこか日本人離れした風貌に肉感的な唇が特徴的な女性が現れた。頭に生えた獣耳と並んで大きな特徴になっている右目には眼帯をしているが、実際に目が見えないというわけではなく、特殊な目……ゲーム内では『魔眼』と呼ばれる特殊な目を持っているためにそれをセーブする意味合いで着けているだけに過ぎない。解放時には常にMPを消費する魔眼はこまめなMP管理が必須の能力でもあった。


「サイファー……じゃなかった九十九も来たか。……クロムは……セントレアで従騎士と一緒に情報収集だったな。そういえば少佐はどうしてる?」


「今は下層で準備中ね。そろそろ来ると思う……」


 サイファーと呼ばれかけた女性の名前は九十九姫乃。メイン職業は召喚術師で、白衣のようにも見えるファー付きの外套を纏い、手にはギターと斧が合体したかのような武器を握っている。そんな彼女が言い終える直前に彼らが集まる場所に一人の男がやってきた。紺色のロングコートに黒いタクティカルベスト。ファンタジーのような装具ではなく、現代の兵士達が着るような近代個人装具、銃火器のマガジンポーチに加え、防弾・防刃ベストにガンベルトなどを巻いている。

 MFO日本サーバーの中で、ナイフを使う職業の冒険者はそれこそ星の数ほどいる。スカウトの職業を組み合わせればRPGでお馴染みの職業『盗賊』の出来上がりだ。革製のマントやレザーアーマーに身を包み、宝箱を開錠し、相手の懐から小銭をくすねる。

 だが、彼……バッドカンパニー随一のナイフ使いであるカッツ・バルゲルはそんな在り来たりな盗賊とは真逆の、現実世界に存在してもおかしくないような出で立ちを好んでいた。神代の戦争で使用された迷彩服や近代装具……この世界では当たり前の金属製の防具よりはまともだが、銃の予備弾倉や開錠ツールや簡易医療キットなどを装備出来るようにした結果、冒険者が使用する一般的な鎧より遙かに防御力が劣るものとなった。

 銃火器の扱いに長けている彼だが、彼のメイン職業はアサシン。腰のシースに吊った日本のナイフが彼の愛用する得物で、右手と左手に持つものでそれぞれデザインが異なっている。


「皆さんお集まりのようですね。今作戦の指揮を執る方々からは我々は接岸後に街に残っている冒険者の支援にあたって欲しいそうです」


「それに関しては私もある程度聞いているが……連中はどこまで進んでいるんだ?」


 アンジェの問いにバルゲルはサイコムを取り出して画面を見ること数秒、彼女の問いに答えた。


「最初の脱出部隊があと数百メートルでこちらに到着するそうです。ただ議会庁舎の方へ向けて飛行船が向かっているみたいなので、そちらの対策もお願いしたいと言っていたそうです」


AA(アンチエアー)の類は?」


「そちらは壊滅状態のようですね。個人で携行可能なものは全部葬儀社側に持っていかれたらしいですね。イベント用の設置型対空機銃とロケット弾のタレットはまだいくつか生き残りがあるそうです」


 丁寧な口調でバルゲルが街の状況を伝える。ゲーム時代それなりの規模を誇る街や砦に大量のモンスターが襲撃するというイベントがMFOでは設定されていた。ゴブリンやオーク、コボルト、リザードマンといったある程度の社会を形成する魔物はともかくとして、魔大陸から侵攻してくる魔族の中には背中に翼を持ち、空を飛んでくる種族……ゲーム内の設定では翼手族と呼ばれる存在やドラゴンを始めとした空を飛ぶ魔物に対しては城壁だけでは食いとめられない。特に翼手族のようなある程度の知能を持つ魔物は敵陣に突っ込むことはせず、その後ろにいる民間人を襲撃することが多かった。だからこそ襲撃の多い街や砦には城壁の内側のそれなりに高さがある建物に古代の魔法兵器……として扱われている対空機銃や対空ロケット弾発射器が街のあちこちに設置されている。

 ランクネンもその例外ではなく、議会庁舎の美しい形が崩れることを嫌って建物を囲む壁の四方、東西南北の塔をカバーするように機銃が四つ、その周囲にある六階建ての建物の屋上に機銃と対空ロケット弾発射器が四つずつ設置されていた。少佐が示すサイコムの中で十二基ある対空迎撃装置の内、稼動するものは青い表示、稼動しないものは赤い表示になっていた。議会庁舎を囲む機銃は四門とも破壊され、街の外にある迎撃装置も機銃が一つ赤色の表示になっていた。ロケット弾発射器はすべて無事だが、今後はどうなるかわからない。そして脱出の支援を妨げそうな物の筆頭があの飛行船だった。これにより翼をもつ召喚獣が召喚し辛い状況にある。空から逃げ遅れた冒険者を救出し、港に停まっている船へ連れて行こうにも頭を押さえられている現在、そのプランは計画から外さなければならなかった。


「なら、私達の行動は決まったも同然だな。船落としと洒落込もう」


「三羽烏の捜索はどうするんだ?」


 サイファーの問いにエヴァンジェリンは少しだけ考え込むしぐさを見せると即座に答えを出す。それは上陸後それぞれ手分けして彼らと合流し、連絡を取り合いつつ船を落とし、その後に合流して街を脱出するというプランだった。


「あとは船内に大型爆弾垂直発射機があるそうです」


「……九十九は縁さんと一緒にそれの移動を頼む。私と少佐は三羽烏の捜索に出るとしよう」


 こうして方針が決まると、四人はそれぞれ戦闘のために準備を整える。それが終わるころ、船がランクネンの港に接岸した。ゆっくりとした足取りで救出部隊が荷物を下ろしていく中、目にも止まらぬ速さで地面を蹴り、駆け抜けていく一団があった。だが、多くの冒険者はそれに気付かず作業を進めていく。


――バッドカンパニー出陣。



 将成が先頭に乱入してから数分後、足蹴にされた少年……兵士達の会話から光輝と呼ばれていた少年がふらふらとした足取りで立ち上がる。だが、足取りや姿勢こそ将成の攻撃でまだ覚束無いものの、瞳に宿る意思は変わらずに、鋭い視線が将成を貫いた。だが彼は変わることなく闇炉の魔剣を構えるだけだった。


「キリカ、脱出準備だ」


 色々と話したそうな視線を向けるキリカに向けて将成は簡潔に指示を伝える。彼自身も色々と言いたかったが、ここではそれを言えるような雰囲気ではない。体勢を立て直しつつある光輝を含め、他のクラスメイトや皇国の兵士達が包囲網を狭めつつある。そして包囲網を狭める中で、髪を逆立てて大剣を担いだ少年が将成とキリカに挑発的な口調で話しかけてきた。


「おいおい、いきなり現れて言うのもあれだがよ。お前ら、ここから逃げられると思ってんのか?」


 光輝が聖剣を構え、彼に想いを寄せる少女たちが殺気立つのが分かる。確かにこの数相手に正面突破はほぼ不可能に近いだろう。特殊な能力を持つ勇者を始め、経験はともかく武装に関しては一級品の業物を与えられている彼らに加え、教会騎士団やアステル皇国軍の正規軍が集結しているこの状況下で正面から敵陣を突破するのは不可能に近い。だが、この短時間で感じたことを言葉にするのならこの勇者達はどうも将成達を始めとした冒険者を格下に見ているような気がしている。事実、能力的な面で見れば確かに固有の能力や種族特性などで身体能力は冒険者と勇者にはばらつきがある。レベルもそうで、一ケタ台の冒険者ならば、勇者相手に戦いになるのかすら怪しい状況だ。恐らく彼らはそういった低レベル、初期装備に近い冒険者を倒してある程度の対人戦の経験を積んだのだろうと将成は考える。それならば勇者達が冒険者を侮るような言動をするのにも納得がいく。

 だが、彼らは知らない、実際の個々のステータス的な考えで比べるのならバランスよく……言い換えるのならば成長値が個人個人でばらばらの勇者達とは異なり、冒険者の方は自分で伸ばす能力を選び、そこに能力値やスキルポイント等を割り振って己が目指す理想のキャラクターを作り上げていくために特定の能力が突き抜けていたりすることが多い。総合的に見て、安定した能力なのが勇者たちなのだとすれば、意外性で構成されているのが冒険者という存在でもあった。そうこうしている内にさっきの蹴り飛ばされたダメージから立ち直ったのか、光輝が髪の毛を逆立てた少年の隣に立つ。どうやら二人は長年の友人らしく、阿吽の呼吸で動けるような構えを取る。勇者チックな少年の攻撃に合せて逆立てた少年も動くのだろう。勇者の少年の攻撃が当たれば直ぐに追撃が入り、例え将成が回避しようとも少年の大剣が将成を捉え、攻撃の起点にされる。


「そりゃあ、なにも無策でここへ突っ込む愚か者はいないだろうさ」


 将成がそこで左手をアイテムバッグに突っ込むと強化スチール製の円筒缶を二つ取り出し、歯で安全ピンを抜いてからアンダースローで投擲する。攻撃の合図だと思った少年が一歩を踏み出そうとするが、そこで投げられた物の正体に気付く生徒が数人現れたがもう遅い。ゲーム中ではシステム上一つしか掴んで投げることが出来なかったが、ここでは二つまとめて投げることが出来ることに将成は気づく。ゲームと似ているようでこういった点はゲームとは異なるのだなと内心で思いながら彼は背を向け、全力で距離を取った。

 数秒後、ランクネンの街中で火炎とは別物の爆光が撒き散らされ、炎に包まれた街を一瞬だけ白い閃光が染め上げる。


 特殊音響閃光手榴弾(フラッシュバン)


 爆裂時には凄まじい音と閃光、圧縮衝撃波を撒き散らし、相手の視覚と聴覚を奪う代物で室内であれば聴覚障害を引き起こすほどの音と太陽光並の光を撒き散らし、精密機器を破壊する衝撃波を発することが出来る化学投擲弾は剣と魔法の異世界であっても遺憾なくその効果を発揮した。初めて経験する見慣れない兵器にアステル皇国の兵士は勿論のことだが、現実世界で軽く知識として知っている勇者達もこの攻撃には耐えられなかったらしく、全員が未だにスタン状態から回復していない。ほぼ零距離で食らった大剣持ちの少年に至っては完全に視覚と聴覚を奪われたらしく、何とも言えない表情で固まっていた。


「キリカ、全力疾走!!逃げるぞッ!!」


 外周部の少年少女がスタン状態から回復し、定まらない思考のギアが回転するよりも前に、将成はキリカの手を引いて、広場から脱出を図る。瓦礫と化した建物の柱や壁を足場に跳躍し、一気に屋根の上へ駆けのぼる。ついでに行き掛けの駄賃と言わんばかりに将成はホルスターからM1911A1を抜くと屋根の上で銃や弓を構えていた兵士に鉛弾をプレゼントしていく。遠距離武器持ちを先に仕留めるのは戦闘において当り前のテクニックだった。大規模戦闘ではタンクが前衛や中衛の気を憎悪値が上昇するスキルで引きつけている間に機動力のあるアタッカーが後ろで回復や魔法による支援、遠距離武器を持つ敵を仕留めるように、今回も弓や銃を持った兵士を先に倒すことで遠距離からの援護射撃を出来ないようにしている。それに加えて完全に殺さないことで相手側に負傷者救出の手間を取らせた。目の前に救える命があるというのなら救わざるを得ないような場所に銃弾を撃ち込んでいる。相手が日本人で誰かの生命を救いたいと望むのなら恐らくは追撃よりも負傷者救出を優先するはずだ。

 嘗て見たアニメで「プロゆえに行動が予測しやすい」という技術の応用だ。青い理想を抱く年頃の彼らならば負傷者を助けるという予想を利用して逃げる時間を稼ぐ。手を引きながら、将成は自分が彼らの年齢のときには何をしていたかを思い出して少しだけ惨めな気分になった。彼が今の彼に至る始まりでもあった事件のことが断片的に脳裏をかすめようとしたとき、手を引いて走っているキリカが将成に声をかけてきた。


「あの、ウォルフ様……?」


「ん、俺のことは今後『将成』でいいぞ」


 発音が少し難しいか、と思ったが、取りあえずは彼女の好きに呼ばせるようにする。意外と知られていないのがこの名前の機能だ。一回しか選択できないもののリアルネームかキャラクターネームのどちらかが選択できるようになっている。将成を始め、三羽烏の面々は全員がリアルネーム、それ以外は見てきた限り、キャラクターネームの方を選択している者が多いような気がした。といってリアルネームの一部をキャラネームに使っているプレイヤーもいるので、実際はどうかわからないと言ったほうが正しかった。リアルネームの方もある程度設定できるために下の名前のみを残すものも多い。


「は、はい。ショウセイ様。……あの、助けてくれてありがとうございました」


「……間に合ってよかった。取り敢えず議会庁舎の方へ……」


 将成がキリカの手を引きながら今後の行動を話し合おうとしたとき、ホルダーに入れているサイコムがふるえる。発信者はエヴァンジェリン。前回同様、即座に耳にインカムをつけると将成は通話ボタンに触れた。


『将成、いまどこだ?』


「今どこかの屋根の上を走ってます!」


『そうか、議会庁舎はどの方角に見える?』

 

 リーダーである彼女の問いに将成は首を動かして周囲を確認するとインカムの向こうにいるリーダーへ向けて伝える。


「北東の方角です!!」


『なら、そのままそっちへ向けて走り続けろ。もうすぐそっちに迎えを遣す!!』


 あちらも忙しいのか、すぐに通信は切れた。将成は一度地面に降りると再び走り出した。既に街の建物で戦闘の影響で崩れていない建物は存在しない状態だった。燃えている建物も既に半分を超えているだろう。まるで昼のような明るさだが、見上げると夜空には月があり、明るくて見えないが目を凝らせば星も瞬いている。

 そして道を走り続けること数分、そろそろ息が切れてきたと思ったとき、二人の目の前に一つの影が現れた。紺色のコートにタクティカルベストなどの近代的な装具、頭には兜の代わりに視界が確保された白に近い灰色のガスマスクを装着し、腰には二本のシースを吊っている男が現れた。


「やあ、ウォルフくんにエステルちゃん。今さっきボスから連絡をもらってね。一番近い自分が迎えにきたってわけだよ」


「少佐がここにいるってことは……」


「ああ、九十九さんに縁さん。ボスも来ているよ」


 その言葉に将成は安心する自分に気づいた。ここまで転戦と連戦が続いていたということもそうだが、それ以上に嘗て共に戦い、その苦難と喜びを分かち合った戦友の存在は彼の中で今も尚輝きを失ってはいなかった。


「さて、ボスからの仕事を伝えるよ。俺達はこれからあの飛行船を落としに行く。使用火器は残存する砲台類と個人の資質、後はレイドイベント用の独自兵装だけだそうだ」


 詰まる所将成達のボスであるエヴァンジェリンが何を言いたいのかと言えば、『総員一層奮励努力せよ』ということだった。使えるのは対空砲とロケット弾発射器、後は冒険者本人の能力。これだけで空飛ぶ船を最低でも行動不能にしてこの街を離れさせるよう仕向けなければならない。中々に無茶苦茶な内容だと将成は思う。それは目の前にいるバルゲル少佐も同様の思いらしく、どうするかを考えあぐねていた。


「……将成。っと、少佐もこっちに合流してたんですね」


 そこに一存と彼の従騎士である氷雨が合流する。動きやすいよう袖を落とし、膝上丈の袴が特徴的な黒を基調とした忍び装束忍の上に白と桜の模様に蒔絵が描かれた陣羽織という、忍ぶ気が全くといっていいほど感じられない二刀流の侍のような出で立ちをした忍者……それが彼女だった。トレードマーク首に巻いたピンク色のマフラーがアクセントになっている。

 そんな彼女も今は刀ではなく、身の丈ほどはありそうな巨大極まりない十字手裏剣……十字の中央部に十字の持ち手がある巨大投擲武器を持っていた。一存も愛用武器である漆黒の大太刀を肩に担いでいる。どちらもいつでも戦うための準備が整っているように見えた。


「準備が整ったのはいいんです……が、敵です」


 一存が示した先には皇国軍の鎧……それも軽装型ではなく、速さと身軽さを捨てて防御力に特化した重装型の騎士が歩いているところだった。聞く者にとっては死の足音にも聞こえる金属製甲冑をガシャガシャと鳴らしながらアステル皇国重装騎士が迫る。大型の馬上突撃槍(ランス)こそ持っていないがそれでも軽装兵が使用する槍よりも重厚で穂先が巨大なそれをいつでも突けるよう構えながら彼らは将成を始めとした彼らが定める敵……冒険者へと襲い掛かる。


「こっちの機動力を生かして嬲り殺し……って選択肢も有りだとは思うんですがね、今回は時間もないんでこうさせてもらいますよ」


 バルゲルがポーチから手のひらに収まるサイズの物体を取り出す。ストップウォッチを思わせるような外見だが、時間を表示する部分はなく、上部にスイッチが複数並んでいるだけのそれ単体で見れば何の役に立つかわからないような物体だった。だがバルゲルは上部にあるボタンを押しこむ。次の瞬間こちらに向けて接近していた重武装の騎士達は揃って爆発に飲み込まれた。紅蓮を通り越して白い炎が炸裂し、熱波が将成達の顔を叩く。そこで将成と一存は何が起きたかを理解した。

 地面に埋設していた爆弾を起爆させたのだ。しかも重装兵を一瞬で葬り去れるような威力が激烈なもの……赤ではなく白い炎から考えるにテルミット反応を応用したナパーム弾を地中に仕掛けていたのだろう。尤も爆発させた当のバルゲルはガスマスクのおかげで何ともないような状態だった。炎爆発の中心にいた騎士はというと、直視すれば当面はまともに飯が喉を通らなくなるとバルゲルに忠告されたため、四人は視線を向けることなく目的地へ向けて走り始めた。


 そろそろストックが尽き掛けつつあるのですが、もう少しこのままでいってみようと思います。どうしても無理そうな場合は活動報告で報告させていただきます。

 それでは、皆様の感想、批評等をお待ちしております。

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