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紅蓮の街で

 ランドバルク王国→アステル皇国

 ヴェグニア→ランクネン

 壬生小夜子→エステル・ブランバルド


 変更しました。度々変更して申し訳ありません。今後はこれで進めていきます。

 将成達五人が門を抜けたとき、既に戦端は開かれていた。フードを被り、軽鎧を身に着けた帝国軍の兵士が次々と街の中へと突入している。馬こそ使っていないものの移動強化の呪文でも使用しているのかその移動速度は侮れないほどに速い。装備もクロスボウと扱いやすい性能のロングソードを腰に差している。脱出しようとしている住人は彼らの前に為す術なく沈黙させられていった。民間人を捕縛せず、物資のみを強奪しているところを見ると目撃者がいては色々と拙い部隊なのかもしれない。諜報かあるいは特殊工作か、敵地に浸透して内部からの攪乱を行う特殊部隊的な立ち位置なのだろう。


「……想像していたとはいえ、これほどとはな」


 屋根の上を移動しつつ将成が言葉を零す。住民の表情には恐怖が張り付いたままこと切れている。


「帝国はこの街を足掛かりにするつもりなのですか?」


「ま、その辺りが妥当だろうね。それを防ぐために皇国は軍まで送り込み始めた」


 一存から渡された双眼鏡で遠くを見ると北門から青を基調とした軍服に身を包んだ兵士が次々と街へ突入していく。アステル皇国の国章が大きく描かれた軍旗を盛大に掲げ、街を行く兵士たちも数人に一人は皇国旗をこれでもかというほどに見せ付けている。


「俺達も行政区へ向かおう。話はそれからだ」


 一存が背中に背負っていた鞘から剣を抜く。将成も鞘から闇炉の魔剣を抜き放った。再構成された柄のコアより前の部分が展開し、中から白い光の刃が現れる。透き通るような純白の光刃が展開されたことを確認すると将成は一歩を踏み出した。屋根を蹴り、月光と炎の明かりに照らされながら、彼はその一歩を踏み出した。地面に降りるとそのまま市外の中央区へ向かう。持っている地図を拡大してこの街の構成はあらかた頭に叩き込んでいる。中央にある街の運営を行う行政区画……街の中枢を担う地区には冒険者連盟支部と議会庁舎があり、行政区画を中心に工業区、商業区、開発区、という風に区分けがなされている。事前情報では葬儀社と敵対している面々はここを中心に戦闘を繰り広げ、そこには将成の従騎士であるキリカ・シフォンフィールドがいる筈だった。

 武器を出したまま五人が全力で疾走する。敏捷と筋力に物を言わせた走りは現実世界のアスリートにも負けないような速度を出していた。屋根の瓦を砕き、軽快に、それでいて速度を落とすことなく彼は疾走する。


「将成!前方に装甲魔獣!!」


 一人の声に併せて彼らの前に装甲魔獣の群れが出現していた。それを従える兵士達も将成の接近に気付いたのだろう。片手剣を抜き放ち魔獣へ指示を下している。装甲魔獣……自然界に存在する魔物を特殊な薬品で思考や判断力を奪い、弱点部位に装甲、攻撃部位には攻撃能力を上げた専用の装備が装着され、指揮者の指示に従って攻撃を行うという存在だ。装甲魔獣と一括りにされているが、実際には四足歩行型の動物から甲殻類や歩行肢を複数持つ虫型の魔獣などを一括して装甲魔獣と呼ばれている。今回遭遇したのは四足歩行の犬、狼型の装甲魔獣だった。こちらでも犬もどきの魔物や狼もどきの魔物は存在するがそれでも現実世界に存在する犬や狼の体躯が大きくとも一メートル前後だったというのに対し、こちらの魔物は何を食えばそれほどまでに大きくなれるのかという体躯をしていた。

 異世界での驚きは程々に、将成たちは敵の戦術を思い出す。動きが制限される市街地とはいえ、敵の主軸となっている戦術を短くまとめるのであれば速度で相手を翻弄し、相手を不利な形勢に持ち込んでからの一方的な狩りだった。狙われた相手は狼によっていいように翻弄され、気がつけば袋小路に迷い込みそのまま魔獣の物量に押し潰されてデッドエンドになる。そんな相手への対処法は一つ。相手が自らにとって有利な形勢になる前に先手を打ち、戦闘の主導権を握って魔獣の数を減らし、その上で完膚無きまでに叩き潰す。その作戦に尽きる。

 命令が飛び、兵士の指示に従って魔獣が四肢で地面を蹴り、次々とターゲットである将成達の元へ襲い掛かる。薬かはたまた服従の呪文によっておよそ正気ではない眼を輝かせながら魔獣は将成を押し倒そうとして……頭から縦に両断された。白い光刃が閃き、別の方向から迫る魔獣ももれなく胴体と首を別離させた。これが将成の持つ剣こと『闇炉の魔剣』。濃灰色のカバーが上下に展開し、そこから白い光刃を出すことで戦闘形態に移行するという武器だった。

 一存も刀を抜くと魔獣の背後から横薙ぎの一閃、血と増加装甲を撒き散らしながら倒壊した建物へ叩きつけられた。氷雨も両腰に差した刀の二刀流で一体を相手取りながらもう一体の首を落としていた。MFOのモンスターはウィークポイントと呼ばれる部位が設定され、たとえ攻撃力の低い武器であってもうまく命中させることが出来れば数発で敵を倒すことが出来る。氷雨の持つ武器は片方がボスドロップ武器、もう片方は希少金属と様々なモンスター素材を利用して作られた刀だった。ボスドロップ武器は無骨さが目立ち、侍の中でも攻撃に特化した能力構成をした冒険者が使うような刀。対照的にプレイヤーメイドの刀は華美というほどではないものの、神刀と呼ぶに相応しい外見と雰囲気を持つ刀だった。それが銀閃だけを残して踊るように舞う。その隣ではコーデリアが両手に持ったレイピアで高速の突きを繰り出していた。細剣と呼ばれるだけあってレイピアは刺突と斬撃、両方を使うことが可能だ。中には刺突に特化した刺剣などと呼ばれる武器があるが、エルフによく似合うという割と単純な理由から礼は彼女にレイピア二刀流で闘うよう指示を出していた。と言っても彼女が使えるのは単純にレイピアだけではない。ナイフや拳銃といった火器やファンタジーものに登場するエルフのように弓を使わせても一級の腕前を誇っている。そして礼も大型の片手剣で魔獣の首を落とし、左手に保持した大口径銃で飛びかかった別の魔獣の胴体に大穴を穿っている。彼の持つ銃は機関部こそリボルバーだが、異様に銃身が長い上に銃床も両手持ちが前提のような仕様になっている。それ故に礼の纏うコートの上にまかれたベルトには専用弾丸を挟めるよう改造されており、実際に専用の銃弾が差し込まれているほか、予備の回転弾倉を所持している。前者は弾丸を使い分けるとき、後者は弾丸を変更せず連続して撃つときに使用する。

 銃弾が魔獣の頭を吹き飛ばし、片手剣で膾斬りにする。手加減などというものは一切存在せず、五人は平等に死をばら撒いていた。ものの数分で仕掛けられた魔獣は全滅し、残るは指揮をしていた男のみだった。馬に跨って逃げようとするが、それを見逃す彼らではない。馬の後ろ半分が断ち切られ、男が落馬し強かに身体を叩きつけられる。痛みに顔を顰め、何とか張って脱出しようとする彼に影が覆いかぶさった。帝国軍暗黒魔導兵団に所属する彼……イヴァニス・オースティンという名前の兵士が最後に見たのは月光を背にそれぞれの得物を持つ五つの影だった。



 光輝達を先頭とした勇者パーティーが冒険者の一団を後退させる。光輝、龍之介、朱音、志乃、晶のパーティーを中核に柔道部の宮地大輔を中心とした運動系の部活で組んだパーティーとその後方には高山裕也を中心とした不良もどきの魔法使い集団と先程ヴィルヘルムの部下を回復させた河上眞子を含む回復系や同じく女子の魔法系のパーティーがいた。この段階で総勢二十後半。そして彼らをカバーするように護衛隊であるヴィルヘルムとその部下が固めている。生半可な冒険者では防御を突き崩すのも一苦労な陣形だった。実際好機を先頭に彼らは数グループの冒険者たちを形勢不利にして後退させることに成功している。

 常森香苗は表に出していない趣味がある。表向きはクラスに所属する、取り立てて特徴のない、比較的地味な部類の少女。顔立ちはいいので時々カラオケやそういった手合いに誘われたりもするのだが、彼女はそういったことには興味がない。

 家で見せるもう一つの顔。それは彼女が腕利きのFPSプレイヤーであるということだった。画面の向こうに広がる世界の中で狙撃銃とその他こまごまとした武器を手に取って殺し殺されの世界でスコアを積み、それなりに有名なランカーとして通っていた。

 そんな彼女の職業は『銃使い』と呼ばれる職業で、使用している得物は白と黒のパーツで構成された短銃。魔力を弾丸へ変質させることによって可能になる射撃と様々な能力、効果を持つ実弾による射撃を使い分けることのできる銃を彼女は使っていた。

 彼女を始めとする召喚されたクラスメイト達は聖光教会から与えられたアイテムことモノリスと呼ばれる小型の石板にはそれぞれの職業……教会の人間は役割(ロール)と各種能力が一斉に表示されている。彼らはここ数週間、ダンジョンでの戦闘経験を積み、その中でレベルアップしたことで現実世界よりも高い身体能力を持っていた。香苗もそれは実感していることで以前ならば長距離走を体育の授業でしたときは直ぐに息切れしてしまったが、ここでは数百メートルを走っても軽く息が上がるだけで済む。大なり小なり彼らはその能力のおかげでダンジョンに出現していたさまざまな魔物を倒すことが出来るようになっていた。

特に顕著なのは光輝を筆頭とする五人……光輝、朱音、龍之介、志乃、晶の五人で、全員が護衛であり彼らの教官を務める騎士から「後は経験だけ」といわれるほどの能力を秘めていた。現在は彼らを中心に柔道部の副将である佐々岡重吾を中心としたパーティーと不良未満の滝沢祐樹を中心とした魔法使いや召喚術師といった職業(ロール)を与えられた少年がパーティーを組んでいる。女子側も大体同じで香苗の所属するパーティーは巨大なバトルアックスを持った彼女の友人である飯島洋子がリーダーを務める前衛型のパーティーだった。後は治癒術師が多いクラスでも比較的地味な部類のメンバーが集まっている女子後衛パーティー、この五つのパーティーで構成されていた。

 香苗が思考に耽っているとふと、轟音が頭上に響き渡った。そして彼女たちの目に入ってきたのは空の上に浮かぶ船……香苗たちの世界の飛行船とは違う意味合いの飛行船が低高度で飛行していくのが見えた。バルーンにヘリウムガスを入れて飛行する飛行船とは異なり、この世界での飛行船は文字通り『飛行する船』という意味合いでの飛行船だ。船体に鉄骨を貼り付け、その先に装甲板を貼り付けている。船底にも小型の艦橋があり、そこを防衛するように連装砲や対空機関砲などが設置されている。どこぞの宇宙戦艦のように艦底に武器が配置されていない……ということはないらしい。

 レベル依存のこの世界において銃火器系統の武器は余り流行っていない。魔法という遠距離攻撃手段があるのに、銃火器や弓といった遠距離武器の開発を行うのは無意味という風潮が一部においてあるらしく個人携行火器に関してはマスケット銃の構成する部位の素材が変わった程度でしかない、彼女が今持っている武器も王国がかつての戦争で侵略した王国の宝物庫に眠っていたものを奪い、自国の宝物庫で来るべき時を待っていた曰くつきの代物だと言われている。

 全方位に魔法障壁や備え付けの対空砲で重厚な弾幕を張りながら王国の紋章を掲げた船は行く。飛行船はそのサイズにもよるのだが、魔力を変換し、動力へ変える機関である魔導炉や各種艤装の問題もあって軍用の……それも攻撃能力の持つ飛行船はランドバルク王国ではそれほど配備されていない。もっと言うのであれば配備が進んでいないと言ったほうが正しい。現在保有している攻撃型飛行船の数は八隻。他国はこれの倍近い数を保有し、戦闘以外にも航空騎乗生物の母艦となっている船……現実世界でいうところの空母に近い存在の飛行船も数こそ少ないながらも存在しているという。

 そんな八隻しかない飛行船の一隻を投入しているということはランドバルク王国がいかにこの街の奪還に力を入れていることが伺える。今も下へ向けられた連装砲が火を噴き、数秒後に着弾の音と振動、煙が立ち上っているのが見えた。その振動と黒煙、そして彼方から聞こえる声はここが今まで戦っていたダンジョンとは異なり、人と人が激突する戦場だということを嫌でも実感させられる。

 光輝を先頭とした勇者チームが進み、その周囲をヴィルヘルムの教会騎士団とその他のクラスメイト達が支援や護衛。王国正規軍の兵士が更にその外周を固めるという編成で彼らは進んでいた。既に複数の冒険者パーティーと遭遇しているものの、彼らは難なく撃退し、市街の中心部である議会庁舎まであと数百メートルというところで彼らの歩みは止まる。大通りの中心では到る所で冒険者同士の戦闘が繰り広げられていた。それこそ、今まで目にしてきた戦闘が霞むほど、その戦いは熾烈であり、激烈だった。双方の戦いの意志が具現化し、それぞれの武器がそれを代弁するかのように舞い踊る。文字通りそこでは『死の舞踏』が繰り広げられていた。

 赤、青、黄色、白……火、水、風、雷、土、光、闇それぞれの属性を持つ光弾が一人の冒険者に襲いかかる。狙われたのは金色の逆立てた髪に整った顔立ち。服装はネイビーブルーのつなぎにメタリックブラックの肩当てにスケートボードで使用するような肘当てやひざ当てを着けて、アイテムバッグが固定された革ベルトと茶色のブーツを履いたお世辞にも目立つような外見をしていない青年。彼が担ぐようにして持っている得物はバスターソードだった。持ち手を守るような形状の刀身、で柄の部分には白い布が適当に巻かれ柄頭には三角形の金具と金具に付けられた細いリボンのような飾りが伸びている。剣としての役割を遺憾なく発揮しそうな外観の剣を構えると青年は黒いローブに身を包んだ男を一撃の下に斬り伏せる。続く攻撃を察知したのか彼は回避ではなく大剣の刀身でその攻撃を受け止めることを選んだ。大剣を前に出し、刀身の影に隠れるようにして構えた直後、何発もの魔法が彼のいる場所に着弾した。だが、着弾の砂煙が晴れやらぬ中、ツナギの青年は攻撃を行った魔術師たちに肉薄する。相手側も緊急事態のサブ武器として事前に持っていたダガーやナイフを抜いて応戦しようとするが、前衛を張る彼にその攻撃は遅過ぎた。結果として魔法使い達は凶悪にその力を発揮する大剣の餌食となって全滅。全員が青白い粒子となって消え去っていく。

 男が一呼吸ついて次の敵に攻撃を仕掛けようとしたとき、彼へと迫る者がいた。月光を浴びて輝く銀色と亜麻色を混ぜたような色の髪、耳の両横にはおさげを垂らし、纏う服は白い袖なしのラッフル付きブラウスにブレザーのようなデザインをした黒い革と金色のボタンが特徴的なベスト。その上に黒と金の紐で編まれたコルセットを巻き、両サイドを金色の紐で編んだ黒いフリルが彼方此方に配された濃淡二色の青で彩られたレーヨン地のロングスカート、そして黒光りする編み上げのロングブーツを履いた少女が目の前にいた。スカートやブラウス、ベストには金糸や白で装飾や模様が描かれ、首に巻いた黒いネクタイには剣とそれを支える二頭の竜が金色で刺繍されていた。一目見ただけで豪奢な服だが、それと同時に実用性も併せ持つ質実剛健さも兼ね備えた服だった。ブラウスとベストの上にはショルダーホルスターを装備している。

 そんな見た目の少女が大剣使いの男が大剣を横に構えると一気呵成に飛び込んだ。大剣の一撃必殺ともいえる攻撃をひらひらと回避し、お返しと言わんばかりに片手剣を拾い上げると、華麗に剣を操って大剣使いを一時的に後退させる。そこでもっていた片手剣を地面に突き刺し、彼女のアイスブルーの瞳が光輝達勇者を捉える。その瞬間香苗は反射的に銃の照準を目の前の少女に合わせた。全身が総毛立つような感覚。今まで遭遇してきたモンスターとは格が違うと彼女は感じていた。得物こそ持っていないものの、身体そのものが凶器並みの能力を持っていることはさっきの蹴り一つ見ても明らかだ。


「「天壁!!」」


 咄嗟に治癒師の職業を持つ長岡霞と鷺崎春香……後衛女子パーティーが魔力で構成された壁を展開する。文字通りタイムラグなどなしで透明の壁が瞬時に光輝達の前に展開すると彼らへ向けて雨のように降り注いだ魔法や弾丸の悉くを防いでいく。彼女たちの魔力と「仲間を守る」という意志の強さで強化され、効果や能力が上昇した障壁は見事に襲いかかった攻撃を防ぎ切ってなおも彼らの前で輝きを放っていた。


「よし、反撃に……」


 移ろう、と光輝が言葉を発しかけた瞬間、魔法や銃弾によって発生した爆煙や土煙を貫くようにして一条の槍が二段構えの障壁に直撃した。ガキン、という金属が激突するような音が響く。数分前に受けた数十発の魔法によってある程度強度は落ちていたものの、二段構えの障壁は槍を通しきらなかった。だがダメージがなかったわけではなく、槍が地面に転がるのと同時に障壁も儚い破砕音を立てて砕け散った。二人の術が弱かったというわけではない。むしろこの世界の住人からすれば勇者と呼ばれるに相応しい能力を持っている。意志と彼女たち二人が元から持つ資質で大きく効果が上昇している二人が唱えた二段構えの障壁を貫通とまではいかなかったものの槍一本で完全破壊にまで持っていく相手の方おかしいのだ。


「……流石に抜けませんでしたか」


 煙が晴れた先には、先刻の少女がいた。光輝が聖剣に己の力を込めて行く。それに応えるかのように聖剣が輝きを増した。龍之介も大剣の柄を握り締める。ボルテージが一気に高まっていき、後はどちらかが動きを見せれば戦闘は一斉に始まることになる。


「うぉおおおおおっ!!」


 戦闘の口火を切ったのはヴィルヘルムの部下である片手剣士だった。それに合わせるようにして外周を守っていた教会騎士団の騎士と後衛の魔法使い組が一斉に攻撃を放つ。通りで戦っている冒険者も彼らを第三勢力と認定し、意識を少し傾けながら動向を見守っている。

 片手剣士が少女に獲物である剣を振り下ろすが、彼女は右足を軸にして剣士の攻撃を回避すると背面に回り込む。後頭部に強烈な裏拳を叩き込んで剣士を昏倒させると左右から襲ってきた槍使いの攻撃を前に身体を動かすことで回避した。それと並行して槍の柄を掴むと内側へ回転させるようにして捻る。二人の槍使いの手から得物である鉄槍を奪い取ると彼女は槍の石突きで二人の喉元を付いた。貫通こそしなかったものの二人が咳き込みながら膝をつく。

 装飾の施された三メートルほどの鉄槍を奪い取ると別のところから彼女を狙っていたボウガン使いに投げつける。一本は射手の右肩に直撃し、もう一本も別の射手のボウガンを砕いて腹部を貫いていた。瞬く間に五人が無力化、その手際の鮮やかさに勇者たちやヴィルヘルムも息をのむ。


「……貴様、何者だ」


 ヴィルヘルムが絞り出すような声で目の前に現れた女性に尋ねる。自分の部下五人をまとめて無力化したのだ。聞いて当然と言えば当然なのかもしれない。


「では、自己紹介をば。私は冒険者ウォルフ様の従騎士を務めさせていただいておりますキリカ・ブランシェットと申します。以後お見知り置きを」


 丁寧に一礼すると一瞬だけ辺りに静寂が訪れる……だが、それも長くは続かなかった。当然だ。ここは戦場で、一瞬の迷いは即座に死に繋がる。どちらかが生き、どちらかが死ぬ、それが戦場なのだ。

 静寂を打ち破って攻撃を始めたのは光輝と龍之介、志乃の三人だった。既に後衛から援護の魔法を受けているために彼らはその能力をある一定まで上げている。ここまで来る間に遭遇した敵はこの加護によって先手を打つことが出来たのだが、彼女の場合はそうではなかった。キリカは誰の攻撃速度が速いのかを瞬時に察すると抜刀斬撃を放つ動きをとった志乃へ狙いを定めた。地面を蹴り、右手を突き出すとそのまま志乃の持つ刀の柄頭を抑え込んだ。彼女の居合は既にクラスの中で既に最速の部類に入っている。神速を通り越して魔速の勢いに達してしまいそうな居合を封じるにはどうすればいいのか。実際は至極簡単だったりする。刀を抜かせなければいいだけの話だ。

 だが、この彼方を抜かせなければいいというのは言うは易く行うは難しという奴で尋常ではない速度で振るわれる刀を封じるのはこちらが受け身な状態では不可能と考えていい。その場合ならばどうするか。答えは一つ、攻守逆転、キリカのほうから攻撃に打って出ればいいのだ。攻撃を待つのではなく、攻撃が仕掛けられる前に先手を打ってそれを封じる。

 かくして攻撃は成功した。抜刀斬撃を封じ込んだ瞬間に、左手による掌底打。一見すると揺れていないように見えるがキリカの打ち込んだ一撃は脳震盪とまでは行かない。だがそれでも三半規管を混乱させ、彼女の姿勢を崩すことには成功した。


「志乃ッ!!」


 キリカが地面に倒れる直前に光輝が聖剣を振りかぶり、聖剣の能力を開放する言葉を口に出した。


「天翔る光の剣よ!!光天刃!!」


 その瞬間に刃が光を纏い、投信の長さが二メートル近くまで伸びる。振り下ろされた光の刃は目の前にいる女性を一刀両断する……と思いきや、直前で止められることになった。見るとキリカが昏倒した兵士から片手剣を一本ずつ奪って両手に持っている。ぎしぎしとあまりよろしくない音を立ててはいるが、それでも光輝が振り下ろした光の刃は彼女の持つ二本の剣によって防がれていた。剣を重ね、交差させることで光輝の刃を受け止めている。だが、そうなるとクロエの側は攻撃が一切できなくなる。光輝はそれを即座に理解すると二人の戦いを見守っている面々に指示を出した。それに合せて先頭を切ったのは柔道部に所属する佐々岡重吾が仕掛けた。拳闘士(グラップラー)と呼ばれる職業(ロール)の彼は『瞬歩』と呼ばれる移動系スキルを発動させると一気にキリカと名乗りを上げた少女へ肉薄した。彼の装備は腕まで覆う籠手。元々は有名な鍛冶師が作った甲冑だったのだが、現在は籠手と脚甲の部分のみを残して消失しているという。王国の宝物庫から与えられたその二つを身につけて攻撃姿勢に入りながら重吾は考える。あの少女は今でこそ片手剣の二刀流で勇者の職業(ロール)を持つ光輝相手に剣同士による熾烈な打ち合いを行ってはいる物の彼女の本来の(、、、)得物が分からない。見た感じでは和風装備だから考えられるのは刀、槍、弓、だが目の前に立つ彼女はそういった武器を使っているようには見えなかった。そこで、キリカの視線がこちらに向くのを感じた。

 見間違いかもしれない、だがその視線を向けられた時、重吾はある感覚を覚えた。柔道の試合で県大会やインターハイにも出たことのある彼は、何度か明らかに格上との敵を相手に試合をしたことがある。その時に感じた感覚と同じどころか、それよりも明らかに危険な何かを感じ取った。結果的にその感覚を信じたことが彼の命を救った。黒光りする腕と脚を覆う人本来の腕より一回り大きな鎧。その掌が地面に触れた瞬間、青白い雷光が地面を(はし)った。

 重吾自身はぎりぎりのところで回避したものの、地面に刻まれた爪痕がその凄まじさを物語っている。立ち上る土煙と爆炎の彼方。キリカと名乗った銀髪の少女は静かに、それでいて見る者を虜にしそうな笑みを浮かべていた。


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