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三羽烏

というわけで今週分です。短くて申し訳ありません。

 将成と一存(かずまさ)、雪風が森の中を駆ける。街道に立てられた立札からランクネンまであと少しということも理解している。ようやく自分の従騎士に会えるということ以外にも、彼は周囲への警戒を怠っていなかった。先刻一人を助けた際、二人を襲っていたのは王国と国境を接する帝国軍の服装だった。しかも通常の兵士ではなくよく訓練された特殊な作戦に従事するための部隊だと考えていい。国境線を越えて友好的でないアステル皇国に彼らが侵入している理由は自ずと限られてくる。

 おそらく帝国はこの動乱に乗じてランクネンを制圧。アステル皇国へと侵攻するための拠点にするつもりなのだろう。そうなれば必然的に街の近くで合図を待つ部隊もいるはずだ。即座に反応し、行動できるような場所に隠れ潜んでいる可能性のある場所を通るために襲撃されない可能性はゼロではない。


(ま、気付かれないために敢えて見逃す……ってこともあるんだけどな)


 どの本で読んだのかは忘れたが、そんなことを頭の片隅から引きずり出しながらそんなことを考える。そして森が開け、山の中腹から煌々と輝くランクネンの街が目に飛び込んできた。これが平時なら美しい夜景なのだろうが、生憎今は、市街地のあちこちで炎と黒煙が夜空へ立ち昇り、遠雷のような爆音なども聞こえている。あの街のどこかに、自分の従騎士はいるのだ。そう思うと将成は自分の武器に手をかけた。

 こちらを見ている視線を感じる。上手く隠しているようだが、レベル上限に達している冒険者が相手なのは彼らも想定していなかったのだろう。どうも見逃してくれるつもりはないらしい。一存も彼らの存在に気付いているらしく目配せと同時に通信を飛ばしてきた。


『将成、どうする?』


『迎え撃つ。お前の従騎士にも攻撃の準備を』


 短く通信を終えると将成はベルトに吊っていたホルスターからあるものを抜く。相手は距離をとりつついつでもこちらを殺せるような距離まで近付きつつあった。将成と一存は差も気付かれていないようなふりをしながらその時を待つ。そして、今にも彼らが襲い掛かろうとしたところで将成が振り返り、ホルスターに仕舞っていた武器を抜くと背後に広がる茂みに撃ち込んだ。こうして表面上では静けさを保っていた森の中での戦闘が幕を開けることになる。ポンッ、という間抜けな発射音だったが着弾と同時に弾丸が爆発し、接近していた兵士数人が死亡、もしくは動けなくなっていた。

 将成の手に握られているのはM320擲弾銃。所謂グレネードランチャーと呼ばれるもので、装填数は一発。ここからは射撃武器による銃撃戦ではなく、近接武器を使った戦闘になる。といっても将成のメイン武器である大剣は使えない。その理由の一つは両手武器であるために攻撃の出が遅く、対人戦では必然的に後手に回ってしまうカウンター主体の戦い方をすることになるためだ。それに今は夜。視界の利かない中で大剣を振り回すのは敵だけではなく一存や雪風にも命中する可能性があった。

 だからこそ彼はサブ武器であるナイフと拳銃を持つと、索敵スキルが表示した敵のもとへ襲いかかった。一存も雪風も同時に攻撃を開始している。

 襲い掛かられた隊員はなぜまっすぐ将成が自分のところへ来れたのか理解が追い付いていないようだった。


(武器は……遠距離用のボウガンと片手剣。後はナイフの類か)


 将成のサブ武器である拳銃が容赦なく兵士の頭蓋を撃ち抜く。血の匂いを可能な限り意識の外に置きながら彼はこちらに向けてボウガンを構えている兵士を見た。兵士が引き金を引くのが先か、将成が引き金を引くのが先か、だが、ボウガンの兵士が引き金を引く前に彼は自分の胸から生えた剣身を見た。自分の血で濡れる剣。それが彼の見た最後の光景だった。そして身体から力が抜け、地面に倒れる兵士から剣が抜かれる。

 そこで将成は兵士に剣を突き刺した人物を見た。血に塗れた剣を抜くと、男は肩にそれを担ぐ。


「久し振りだ。お前とこうして戦うのも」


「確かに最近は一緒に遊んでなかったからな」


 将成が青年と言葉を交わす。黒いダブルのロングコートに黒いズボンと底のごつい革靴。髪は日本人離れした灰色だったが、彼にはなぜか似合っていた。背中には無骨なデザインの大鉈と長大且つ大口径の銃をスリングを介して背負い、コートの上に巻かれたベルトには様々なアイテムバッグなどが装備されていた。

 彼こそが将成、士道に続いて三羽烏と呼ばれた最後の一人、涼月礼だった。将成が大学に入学してから仲良くなった友人であり、彼もまたハイレベルなMFOのプレイヤーでもあった。メイン職業は弱体化や状態異常を引き起こす攻撃を得意とする特殊職業の一つ、ナイトメアフォーサー。サブ職業は特殊部隊員と海外のサーバーでは前衛職の一つであるパイレーツを選択している。


「お久しぶりです。将成さん、一存さん」


 新たに現れたのは月光を浴びて輝く金色の髪を両サイドと後ろでお下げに結い、細いフレームの眼鏡をかけた碧眼の少女だった。長く伸びた耳が彼女が人間でないことを暗に示している。彼女の服装はダークブルーを基調とした無骨な、それでいて気品を感じさせる装備に身を包んでいた。肩には銀色の肩鎧がついたマントのような装備と、前面に金属のパーツが付いた帽子を被っている。彼女の武器は腰に巻かれた銀色のアーマーが付属している剣帯に吊り下げられた二刀一対のレイピアで白とシアンブルーを基調に金色の唐草模様で装飾が施されていた。一目見ただけで芸術品だということが分かるような一品だ。

 彼女が礼の従騎士であり、この世界に存在するエルフ族の中でも特別視されているハイエルフの一人。それがコーデリア・エーレンベルグだった。エルフ族の種族設定は比較的外部と接触を持つ種族と外部からの接触を嫌う排他的な種族が大陸各地に存在し、一大勢力を築いているダークエルフといつ終わるともしれない戦いを繰り広げているというバックグラウンドがある。その中でハイエルフと言えば里の深奥で純粋培養されている王子か姫といった扱いをされている種族でもあった。

 剣術以外にも高い魔法適性を持っているために、前衛で敵の攻撃に立ち向かう以外にも、後衛で各属性魔法や回復魔法で援護するといった戦い方もすることが出来る。そして外見からは全くと言っていいほど想像できないが、一度彼女と彼女の使える主こと礼に敵対する姿勢を見せれば彼女は容赦なく切り刻む。彼女が認めた味方と彼女やその主に弓引く敵とで対応が百八十度異なるのが彼女だった。礼自身は数日前にセントレアへ転移しており、そこでコーデリアと合流、その後はアンジェに勧誘される形でギルドに入り、将成達の支援を行うべくランクネンへ来たという。


「……話は事前にボスから聞いている。将成、これをボスから預かってきた」


 礼がサイコムを操作すると彼の右手に銀色のジュラルミンケースが出現した。このジュラルミンケースは冒険社が持つアイテムバッグ同様様々なアイテムを納めることが出来る。その容量と持ち運びの手軽さからアイテムのトレードにもよく使用されている。礼が持っているのはその中でも最も軽量で安価なもの。容量は少ないため大したものは入っていないのだろう。

 将成がケースをキャッチし、バチンバチンと留め金を外す。中に手を突っ込んで目当てのものを取り出すと、彼は一気に『それ』を引き抜いた。

 ケースが青白い粒子となって消え、将成の手にはダークグレーの柄が握られていた。全長は一メートル前後。デザインはどちらかといえばファンタジックというより近未来的な外観を持っている。柄の部分にある紅い核石が特徴的な武器だった。そしてこれが将成の主武器である『闇炉の魔剣』である。今まで使っていた大剣を装備欄から外し、サイコムの装備セット欄で『専用化』の項目に触れる。たとえ使用者であっても専用装備のセットをしないとこの武器は使えない。作業を終え、改めて将成が柄を握るとそれに呼応するかのようにダークグレーのフレームが展開する。上下に分かれたそこから純白の光刃が出現。全長が二メートルを超す。一通り振ってから感触を確かめると将成は専用の革で出来た鞘に闇炉の魔剣を収納する。確認作業を終えたタイミングで礼が二人への依頼を伝える。


「今、WSTの蒸気機関船が二隻、ヴェグニアへ向けて針路をとっている。俺たち冒険者の仕事は港と小型か中型の船の確保、後は時間稼ぎだな」


「WSTが出てきたか」


 会話でちらほら名前が出てくるWSTとはWar Ship Troopersという海を愛する者達が集まって出来たギルドの略称だ。構成員は何らかの形でリアルに海に関わる職業をしているものが多く。漁師やTVに出るような釣り人に客船の乗組員や海自に所属する自衛官といった文字通り海と係り合いのある人々が集まって出来たのがこのギルドだった。

 そして彼らのギルドが非常に有名なのは大小様々な船舶を持っているということだった。小型のボートから始まり、魔導エンジンで動くモーターボート。クルーザーやヨットに大型の輸送貨物船まで、大小用途も多種多様な船を所有していた。今回近付いているのはその中でも輸送艦に最低限自衛の武装を乗せて出港した二隻。これがヴェグニアからの脱出手段であった。ヴェグニアにいる冒険者の側もこの作戦は既に了承済みで現在は六人パーティーによる小規模な偵察部隊と実働部隊を送り込み、港の安全確保に向かっている。

 将成達の仕事はレベルが低い初心者やまだパーティーでの活動に慣れていない新人が取り残されていないかを調べる役割以外にも障害が立ちはだかった際は力ずくで突破するための戦力としての役割がある。


「さて、準備は出来た。仕事のための頭数も揃った……始めるか」


 将成の一言に一存と礼が頭を縦に振る。雪風は先刻の軍服チックな服装から丈の短い袴や薄桃色の羽織を纏った忍ばない忍者という言葉がしっくりくるような外見になっている。

 夜闇の彼方、本来ならば町の魔力照明などで輝いているはずの町は炎の勢いを増しながら燃え盛りつつあった。それは街に集う冒険者、勇者、双方の気焔が形あるものとして現実化したかのようでもあった。


 それでは、批評感想等をお待ちしております。

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