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9.憧れのあの




「モウシゴ、無事か?」




そう言って振り向いたその人は、藍色のターバンでグルグルに顔を覆っていました。

しかし、私の目は誤魔化せません。金の瞳は縦に細長く、肌は深緑色。鼻梁はなく、ぎょろりとした目以外はぺたんとしているその輪郭。



ああ…!神様!

人を勝手に転生させて恨んでない訳ではないけど、私のツボを押さえていることには感謝しよう!

まさか蜥蜴(トカゲ)の獣人に会えるなんて!!



「おい」

「あ……だ、だーじょぶ!」

私はぽかんと口を開けたままだったことに気づきました。

もうさっきから急展開過ぎて、頭がついていきません。

ってかモウシゴって何?


「てめえ!どこから来やがった!」

驚いているのは男達も同じようです。ボヤ騒ぎ?の後の、闖入者ですから。

「……子どもを攫うなど馬鹿なことをする」

蜥蜴の彼はそう呟くと、すらりと剣を抜きました。

マントや体をゆったり覆う衣服でわかりにくいけど、それほど線は太くなさそうです。むしろ、しなやかな線は少年のものではないでしょうか。


「ふぃーり!だーじょぶ!だーじょぶだよ!」

アラン!ご、ごめ、つい見とれてた!

泣き止んだ私を見て、アランはぎゅうっと私を抱きしめる。ただ、いつもと違って、自分の腕で守るようにだった。

「あらん……」

怖かったのは、一緒だろうに。




蜥蜴の彼が来てから、あっという間に決着(ケリ)がついた。

男達の武器を奪い、足を斬りつけ、動けないよう叩き落す。

難しいだろうそれらを彼はあっという間にやり遂げた。


「……もう大丈夫だ。親のもとに帰るといい」

蜥蜴の彼は、私達のお腹にくくられたロープをほどいてくれる。アランが私を放さないので、やりにくそうだったけど、そのままほどいてくれた。

「あ、ありやと!えっと、ふぃーりなの!あらんなの!」

そのまま去ってしまいそうな彼を引き止めたくて、私は名乗った。ほ、他に話題がなくて!

「…どういたしまして。ヴィスだ。シャンク族のヴィス。」

「びす!ありがとー!」

アランもヴィスにお礼を言う。

ヴィスは私とアランを見て、そっと笑ったようだった。ぎょろりとした目が幾度か瞬きする。



「さあ、行こうか。そろそろセベリア一族が来る頃だ」

え?アランのお家?


誘拐犯の男達をヴィスはロープでざっとくくりつけ、馬車から私達を降ろしてくれた。

おおう、砂漠ど真ん中だよ…こんなところでひとり降ろされたら干からびて死んじゃうところだったよ……


「おとーさま!おかーさま!」

アランがぴく、と鼻を動かして叫んだ。え、どこどこ。

少しして砂煙が見えた。あとラクダもどきの影が。

私の目には粒つぶでしか見えないけれど、アランは分かっているようだ。両手を振って、飛び跳ねながら呼んでいる。


「アラン!フィリア様!」

アランママだーー!!ラクダもどきを駆る姿、勇ましすぎる格好良すぎるーー!!!

「おかーさま!!」

アランはアランママに向かって走っていった。人間と違って、幼児体型でも走るスピードは速い。

アランママもラクダもどきから飛び降りるとアランを抱きしめた。アランはわんわん泣き始める。

ごめん、アラン……私を守ろうと、いっぱい我慢してくれたんだね。


止まった涙がまた出そうになって、慌てて俯いた私を、後ろから、誰かがふわりと抱き上げた。

「フィリア殿、怪我はないか。」

あ、アランパパーー!!!

魅惑の低音ボイスに振り向いた私は、涙が止まるどころか鼻血が出そうになった。


いつもの白いラフな服ではなく、黒のターバンに黒の衣。長槍のような武器を片手で持ち、空いた左手で私を抱き上げてくれた。

ターバンで顔のほとんどを隠しているが、いつもより鋭い眼光に、アランパパのなにかを垣間見た気がする。


「さあ、ご両親のところに帰ろうか。すまないが、家で待ってもらうよう、私が頼んだのだ」

私はこくこくと頷いた。パパさん達がいなくて寂しいけれど、こんな砂漠にラクダもどきを駆ってくる姿も想像つかない。


「貴殿には礼を言わねば。…まさかシャンク族が助けてくれたとは、驚いた」

アランパパはヴィスに声をかけた。

本当に驚いているのか、警戒しているような口ぶりだ。


「…私達は世俗に関わらないが、精霊は別だ。その子が、精霊の申し子だったから、助けたまで」

「フィリア殿が…精霊の申し子?」

「そうだ、セベリアの長。それだけだ」

モウシゴって、精霊の申し子だったのか……っていやいや、何ですかそれ。すごく気になりますが!


「…子どもらを誘拐した男達は馬車のなかだ。後は任せた」

ヴィスはそう言うと、馬車の近くに待たせていたらしい、黒いラクダもどきに跨った。





「フィーリ、またな」


金の瞳を瞬かせて、にこりと笑ったようだった。





砂漠の向こうに去っていく彼を、私はアランパパの腕のなかで見送った。


蜥蜴の獣人、シャンク族のヴィス……罪深い男です。

私のハートを奪って、去っていくなんて。




もふもふくんならぬ、つるつるくんの登場でした……!



アランパパが黒の衣に着替えたのは、戦闘になった場合、汚れが目立たないようにするため。

パパの早着替えはセベリア家の名物のひとつです。


なお、主人公のハートの数は無限大です。

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