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71.すなおじゃないの

「ダン、どうして?」

「この石を使えば、新しい戦術が生まれる。精霊術の発展したこの国でも、君の能力は飛び抜けている。道具があれば人は使い方を考える。そして、使うときを考えるんだ」


リーヴェル国は、数十年戦争をしていない国だ。

近隣諸国とも問題なく交流があり、戦争を仕掛ける相手すら思い浮かばなかった。


「誰と、戦争するの?」


「フィリア。それは僕らが考えることではない。内乱かもしれないし、他国かもしれない。それは仕掛ける人の問題だ」


「ダン。考え過ぎかもしれない」


私がそう言うと、ダンはくしゃりと顔を顰めた。泣きそう。なんで?


「フィリア。僕は君に、道具になってほしくない。僕は、……自由奔放で我が儘なフィリアでいてほしいんだ」

「我が儘じゃないもん」


頬を膨らませて抗議すると、少しだけダンは笑ってくれた。



「……フィリア、考えて。そのときが来たら、言って」

最後に、ダンは頭をポンポンと叩いた。


ダンのずるい優しさはこういうところだ。『逃げる』ことで、周りに及ぼすだろう影響については一言も触れなかった。




******



二人の様子を、三人でじいっと観察していた。


ダンに抱きついたフィリアお姉ちゃんを見送ったあと、テオは「フィーリ、うれしそう」と言った。デンカは「あの野郎、よくも僕のフィリアに」と言った。



同じものを見てるのに、思ったことが違うだなんて、面白いわ。


「男の子って、すなおじゃないのね」


フィリアママの言葉を真似して言ってみると、デンカにポカンと頭を叩かれたの。


「…いたい」

「デンカ、レイア泣かした」

「う、嘘泣きだろう!そんなに力は入れてない!…痛かったのか?」

「ちょっとだけだから、大丈夫」


私の言葉に、デンカはほっとしたようだ。


「デンカ、すなおじゃない」

……テオの言葉には、本気で殴ったみたいだけれど。



フィリアお姉ちゃんをもう一度観察してみる。

あら?ダンが木の向こうに連れていっちゃった。

これじゃ、二人の様子が見えないわ。


「………お話、ながいのね」


私は噴水のなかで、足をぱちゃぱちゃと動かす。

腰まで鱗に覆われた、長い下肢。今日はドレスシャツだけ着ているから、足をいくら濡らしても大丈夫なの。

テオみたいに、ヒレの切り込みは鋭くないけれど、私も上手に泳げるのよ?


「デンカ、見す」

「テオ!黙ってろ!」


テオの話している途中に、デンカがまたぽかんと頭を殴った。

「デンカ、テオになにするの!」

「いや、レイア、これはテオが悪くて」

「俺、なにもやってない」

「そうよ!叩いたデンカが悪いのよ、めっ!」


ぷんっ、と私はデンカに背中を向けた。

ひとを叩いちゃいけないって、フィリアママに教わらなかったのかしら。




私はデンカに背を向けたまま、木の向こうにいったフィリアお姉ちゃんとダンを待ってたの。

はやくお話終わらないかしら?

私だって、お姉ちゃんとお話したいこといっぱいあるのよ?


「ねえ、テオ。お姉ちゃんといっぱい喋ろうね」

「はなすのは、レイア。僕はみてる」

「テオ、ヌシに勝ったことは話していーい?」

「これ、持ってきた」


テオは、ふふんと鼻息荒く、私の手のひらよりずっと大きい牙を取り出した。

わあ!やっぱりテオはすごいわ!

こんなに大きなもの、私持てないもの!


「……テオ。海獣の牙なんてどうやって回収できたんだ」

「デンカ、ばか?折った」

「馬鹿はそっちだ!そんなぶっとい牙普通は折れないんだからな!」


男の子達の会話って、ときどき分からないの。

牙を挟んでテオとデンカが言い合っているわ。どうしてデンカはすごいって言えないのかしら。



私は木の向こうをじぃっと見ていたの。

しばらくすると、フィリアお姉ちゃんがこっちに向かってやってきたわ。

その少しあとから、ダンも。


「……フィリアお姉ちゃん…?」


どうしてそんな悲しそうに笑うのかしら?


テオが、ぎり、と牙を鳴らした。

「ダン、泣かした」


そっか、フィリアお姉ちゃん泣いてたのね。どうして?

ダンは、私やテオにもとっても優しい。フィリアお姉ちゃんには、特に優しい。

なんで泣かせてしまったの?


ダンが、少し俯きながら、こっちにやってくる。

ダンの、少し赤い目を見て、私は「そっか」と呟いた。


「ダンも、すなおじゃないのね」


だいすきだって、言えばいいのに。

さみしいよって、言えばいいのに。



私は、いっぱい伝えようっと!



「フィリアお姉ちゃん!あのね、レイア、いーっぱい、お話したいことがあるの。聞いてくれる?」

「も、もちろんよ、レイアちゃん!…ああ、テオくんも、どうしたのその牙!はあぁっ、ま、まさか……駄目よフィリア落ち着きなさい。落ち着いて。すぅ、はぁ。すぅ、はぁ」

「これ、ヌシの牙」

「ああっ!テオくん、すごいわ!怪我はしなかった?!」

「怪我しない、大丈夫」


「テオ!私がお話するんじゃなかったの?」

「ああ、そうねレイアちゃん!いっぱいお喋りしましょう。ま、まずはお膝のうえに…」

「フィリア!駄目だよう、ドレスが濡れちゃったら、侍女達に何があったか勘ぐられるよ?」

「で、殿下……そうですよね。時間も限られていますし」


私とテオが、お姉ちゃんにぎゅうっと抱きつくと、お姉ちゃんはようやく顔を真っ赤にして笑ってくれた。

そうよ、お姉ちゃんはこうでないと。

デンカってば、お姉ちゃんの前ではタイドが違うのよ。


「フィリア」

ダンが名前を呼ぶと、フィリアお姉ちゃんはびくっと肩を震わせた。

「……少しぐらいなら、濡れても精霊達が乾かしてくれるだろ。久しぶりだから我慢しなくていいんじゃない?」

ダンがそう言うと、フィリアお姉ちゃんはほっとしたみたい。

「そうね、ダンが言うとおり。……レイアちゃん!テオくん!さあ、遠慮せず私の膝にっ……ぐふっ」

「うん!お姉ちゃん、あのね、この間レイアね……」



フィリアお姉ちゃんの膝にあがって、私はぎゅうっと抱きついた。

レイア、フィリアお姉ちゃんに、いっぱい大好きを伝えるの!!

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