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66.会いたい

「ヴァルダー侯爵?それで、いつになったらダンに会えるの?」

「まかりなりません、殿下。特定の人物の名前は口にされませぬよう」



フィリアです。そろそろ、反抗してもいいですか?




*******


「ダンは、私の筆頭護衛よ?彼の名前ですら、言ってはいけないだなんて、理解できないわ」


私は腰に手をあて、ヴァルダー侯爵を下から睨みつけながら言い返した。

精一杯の虚勢です。ああ、無言で見下ろしてくるヴァルダー侯爵が怖い。


「不用意な発言は慎みますよう。ああ、そうだ。彼は変わらずあなたを護衛していますよ。私は無用だと言ったのですが」

「え?」


咄嗟に理解できず、私は黙ってしまった。

黙った私を見て、ヴァルダー侯爵は次の客人を呼び込むよう、侍従に言いつける。

それからの来客対応で、あっという間に一日は過ぎてしまった。





ダンは、私の側にいる?

でも、会っていないのはどういうこと?




王立学院の入学式典から、ふた月半。

私はヴァルダー侯爵に助けてもらいながら、突然変わった人々の対応を必死に流していた。

精霊姫と崇める人々から、それを利用しようとする貴族達から。


(陛下が、懸念されていたのが、まるで遠い昔のよう……)


リーヴェル国に来た当初、皇太子殿下の婚約者に指名されたとき、陛下に逆らったのは私自身だ。

大っぴらになればこうなるというのは、分かっていたんですが。


(あんな事件があってはねえ)


学院の事件以来、精霊達と私の関係が変わったのもまた事実。




私は王宮内の自室で、一日の疲れを癒していた。

強制的に習慣となった、お風呂上がりのマッサージを終え、大きな寝台でごろごろしている。

お菓子とかつまみたいところだけれど、身につきやすいことが侍女達にバレて、室内には飲み物しか用意されていない。


「おかげさまで、お肌の調子もドレスの着こなしもばっちりだけれど〜…」


誰もいない広い部屋では、ついついひとり言も大きくなっちゃう。

以前なら、側にはダンがいてくれたのに。


今日の昼の、ヴァルダー侯爵との会話を思い出す。

ダンが変わらず護衛してくれているなら、どこか近くにいるはず。


「……会いたいなあ」


ごろごろと寝台のうえを転がり、そばの小卓から箱を取り出した。

そこには"大事なもの"を入れ、保管している。


例えば、毎年、誕生日にダンから貰う手紙。

それ以外にも手紙はいっぱい入ってる。

最近のお気に入りはじいやから届いた手紙。私の体の調子を尋ねる文面や、最近じいやがハマっている事柄、そして文末にあるインクのシミ。……ふふふ、他の誰が見ても、シミにしか見えないでしょう。でも私にはわかります。これはテオくんの鱗拓。墨を塗ってぺたりと押してくれたのでしょう。ああ、気のせいか最後に会ったときよりも少し大きい?成長したテオくんに会いたいわ……


手紙をぎゅっと抱きしめて、深呼吸する。

すう、はあ


花の香り?もしかして、レイアちゃんが調合したのかしら…


ああ、もうエンジェルズに会いたい!!


このままだと禁断症状が出て、何を口走るかわからない!!



引き続き、箱のなかから色々取り出して、眺める。


ひとつは、パパさんから貰った宝刀。狼退治のために、枕元に置いておくよう言われたものよ。…どうして枕元なのかしら?


ひとつは、ママさんから貰った香り袋。今は袋だけだけれど、刺繍が綺麗だから、しまっているの。


ひとつは、懐かしいわ、ボネロ族のギルに貰った薬草。うん、まだ匂いは残っている。ダンと一緒に、上手に乾燥させたのよ。



明日のことを考えると、そろそろ寝なきゃいけない。

私が眠るまで侍女達は部屋を下がらないから。


私は、隣室で待機していた侍女に寝ると伝え、手元の灯りだけもらって下がらせた。


それを小卓の上に置いて、懐かしい思い出に耽る。内緒の夜ふかしみたいで、少し楽しい。


私の"大事なもの"入れは、実は二重底になっている。全てのものを取り出してカラクリを解いて底を外すと、ほんのわずかに物がしまえる空間があるのだ。


そこにしまっているのは、ふたつ。


シャンク族のヴィスに貰った、結晶化させた石のようなものの、アクセサリー。

彼にお守りといって貰ったコレを、リーヴェル国にきてしばらくの間は身につけていた。最近は、身につける全てのものが管理されているので、間違って捨てられてしまわないよう、ここにしまったのだ。

久しぶりに手に取り、ぎゅっと握る。


気のせいか、握ったその石が温かく、ここ最近の不安と、焦りと、色々な気持ちを溶かしてくれるようだ。



「……あとひとつ」



本当に懐かしい。久しぶりに見るような気がする。

黒い布に包まれていたそれは、きらきら輝く小さな石のカケラ。


「キラキラ石……」


幼心にそう呼んで、大事にしまった思い出の品。

灯りにかざして、黒い石がキラキラと反射する様をじっと見つめる。


「綺麗…。この輝きを、とじこめられたらなあ」


ふふ、と小さく笑った途端、変化が起きた。


「え、なにこれ、どうしたの?!」


灯りの炎が消えた瞬間、キラキラ石が赤く灯り始めた。

思わず手から取り落としたけれど、熱いわけではない。


「え?!」


落としたよ、と言わんばかりに風の精霊がふわりと拾い上げる。

体を起こして寝台の上に座り込むと、そっと差し出した手の上に、キラキラ石が乗せられた。


「火の精霊たち…まさか、石のなかに移っちゃったの?」


ダンがやっていたように、物に加護が込められるのは知っていた。

でもそれは、物そのものに精霊の力を込めたのではなく、精霊達が好む気を付与して、いざという時の加護になるというものだったはず。


「そんなことってあるんだ?いや、あったから、あるのね…」


驚くと、人間まともなことを言えないものなんですね。

キラキラ石を掲げながら、思わずぶつぶつと呟いてしまった。





コン、コン



(あ!どうしよう、起きているのが気づかれてしまったかしら?)


ノック音が聞こえて、思わず私はキラキラ石を枕の下に隠した。

手探りで、"大事なもの"を箱に詰め込む。


(ここは、寝たふりがいいのかしら?返事をしたほうがいいのかしら?)


ドキドキと、高鳴る胸をおさえて、深呼吸する。



ガチャリ、と開く音がして私は振り向いた。

開いたのは、扉ではなく、窓だった。


「………フィーリ?」


小さな声で、私を呼ぶアランの姿が、そこにあった。

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