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64.気づき

精霊のことを、初めて知った頃を思い出してみましょう。


まだ幼い頃。セベリア領での出来事だった。

パパさんが、精霊の申し子と呼ばれる人々のことを教えてくれた。それから、じいやが邸にやってきて、精霊術のことを教えてくれた。


私は自分の能力で周りの人々が傷つかないよう、そしてつい大袈裟になりがちな私の力を小さく収めることを覚えていった。


そのうち、私は"自分が扱える"術を使うこととした。


でも、私思ったの。


精霊術って、誰が決めたのかしら?

精霊達が、私達にそっと手を差し伸べてくれるだけ。


どれほどの威力であろうと、それは精霊達の気紛れに過ぎないかもしれない。



言葉が行動を縛ったのかしら。



本当は、願うだけでよかったのかもしれない。




***




目が覚めて、最初に見えたのは自室の天井。

白地に花柄の壁紙は、パパさんが選んで貼り替えてくれたもの。


「ん……」


周りを見ようと身じろぎをする。

なんだか、長いこと眠っていたのかしら。身体がだるくて疲れているみたい。


「目覚めたのか?!」

「フィリア、大丈夫?!」

「お父さま!お母さま!」


大きな声をあげ、駆け寄ってきたのはパパさんとママさん。

ああ、また心配をかけちゃったのかしら。ママさんはもう泣かせたくないって思っていたのにな。


「フィリア、体は大丈夫か?」


パパさんは私の髪をそっと撫でて、心配している。

私はそっと体を起こすと、部屋のなかを見渡した。

王宮内の私室は、寝室だけでも広々としていて、私が寝ていた寝台の横に、テーブルと茶器が用意されていた。

パパさんとママさんが座っていたらしい、二つの椅子。


椅子は、二つだけなのね。


「ええ、お父さま。少し、怠さがあるけれど、大丈夫みたい。私、寝ていたのかしら?」


首を傾げると、ママさんが答えてくれた。

ママさんは、顔色を確かめるように、私の頬に手をあて、額にキスをしてくれる。

「そうよ、フィリア。あなたは丸一日眠っていたの。お医者様の話では、怪我もないから、襲われたショックがあるのかもしれないと、そう言われていたのだけれど……」


「そうよ!学院を襲った賊はどうなったの?皆は?」

「落ち着いて、フィリア。私から、説明するから」

パパさんがそう言うので、私は寝台で居住まいを正した。

パパさんはテーブルの椅子を持ってきて、座り直す。


「まず、学院を襲った賊は皆捕らえられたよ。フィリア、どこまで覚えているんだい?私も、その場にいたわけではないから、伝聞だけれども」

「私は、たぶん、覚えているの。カザンが私を助けてくれて、それから、私は彼らに語りかけたから」


パパさんの真剣な表情に、私は少しずつ答えた。

彼らが、応えてくれたいくつかのことを。


私が話すことは、パパさんにとって、良いことなのか、悪いことなのか。

それが分からず恐る恐る話す私の頬を、風が撫でた。


緊張しなくていいよって、言ってくれているみたい。


いたずらな風に微笑むと、パパさんは大きく目を見張って驚いている。


「どうしたの?」

「……いいや、フィリア。精霊達がいるのかい?」

精霊術を使えないパパさんは、今の風は私が起こしたように思ったようだ。


「いいえ、お父さま。彼らはいつだって、そこに"いる"もの。今は、私を元気づけてくれたのよ」


「カザンから聞いたよ。フィリア、君は精霊と話していたって」

「話していたのかしら?そうかもしれないけど、私にもよく分からないの」


私だって、何もかも理解しているわけじゃない。

ただ、大きな"思い違い"をしていたことに、気づいたのだ。

いや、気づいたように思っている、が正しいかもしれない。


「フィリア、よく聞いて。君のおかげで、賊は全て捕らえられた。学院の生徒達も、怪我の大小はあれど、皆生き残ったらしい。ダンも、カザンも、ついでに陛下も、無事だよ」

「よかった…!本当に、よかった……」


パパさんが教えてくれたことは、ただただ嬉しかった。

あの場では必死だったもの、良い方向に転んだことが分かって、ほっと安心する。


「よく、頑張ったね。生徒達は君の姿に感動して、信奉者まで出ているらしい。陛下も、恩賞を与えなければと言っていたよ」

「そんな!なんだか、大袈裟だわ」

「フィリア。君は英雄になってしまった。伝説通りの、四大精霊を従えた姫として、この国になくてはならないものになってしまった」

「お父さま……?」


なんだか、おかしいわ。

パパさんの声音が、段々厳しいものになっている。

いつも優しく、嬉しそうに笑っているパパさんが、怒っているような、泣き出しそうな、そんな様子だわ。


「私は、自分の娘に、政治の駒になって欲しくなかった。普通の娘でいい。精霊術が使えたって、使えなくたって、自分の好きなように生きていける、それでよかったんだ」

「お父さま、私は、」

「残念だけれど、私の手で隠し通すことも、守り抜くことももうできない。まして、君は、貴族世界でいう一人前の淑女だ。親だからと、何もかも決められる訳じゃない」


パパさんは一気に言い切ると、口を噤んだ。

本当はこれ以上喋りたくないけれど、話さなければならないと、そう思っているんだろう。



「フィリア。大きくなったね」



パパさんなりの、決別の言葉を。








ご無沙汰しました。

続きは用意しておりますので、次回更新まで間は開けません!


年末に活動報告に小話更新させていただきました。

よければそちらもご覧ください。


本年もどうぞよろしくお付き合いくださいませ。



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