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60.入学式典

この日のために誂えたドレスを身にまとうと、気持ちがきりりと引き締まる。

しかも、エスコートいただくのは陛下。


不肖フィリア、本日は淑女見本となりきります。




「陛下、フィリア殿下。こちらへどうぞ」


アラン達の留学先の学院は、リーヴェル国の王立学院。歴史、文化から、経営、戦の手法まで、幅広く学べる由緒ある学院だ。

現代日本と違って、この学院は男子学生のみ入学を許されている。一般的な貴族の女子は、自宅で家庭教師を呼ぶのだという。

半引きこもり生活をしていた私でも、世間が受け入れるのはそういうことなのね、と遠い目をしてしまった。


ちなみに、町の人々は教会の牧師から文字などを学ぶそう。最近は各組合ギルドが人や物資を出し合って、特化した教科を学ぶこともできるようになったそうだ。


識字率の高さは、国の豊かさよね。


パパさんからこの国の教育制度について聞かされたときは、うんうんと頷いたものだ。


「どうした、フィリア。進まんのか?」

「あら…申し訳ありません、陛下。少し、考えごとをしておりました」


陛下に声をかけられ、私は慌てて歩き始める。といっても、優雅に、華やかに、たおやかに。カツン、カツンと響くヒールの音も、一種の音色に仕上げるのだ。


私達は今、学院の中庭に用意された大きな舞台に向かっているところだ。

学生達は皆、中庭で整列して、陛下のお越しを待っているという。


案内をしてくれているのは、この学院の生徒代表で、名前をユーリといった。金髪が多いこの国で、彼も金髪。といっても、オレンジの強みがある、濃い金髪だ。瞳は灰色。最高学年と聞いたから、私より4,5歳年上なのだろう。陛下を前にしても落ち着いた物腰、そしてドレスを着た女性の扱いに慣れていて、彼が今日の案内に選ばれたのも納得だ。


「舞台の上に、陛下とフィリア殿下の椅子をご用意しております。入学式典は、下級生歓迎と、上級生の学んだことを披露する場として、様々な演目がございますので、どうぞお楽しみください」

学院の石畳の廊下をカツンカツンと歩いていく。

生徒達が並ぶ中庭は見えている。用意された舞台は木組の二階建てで、二階部分には二人分の豪奢な椅子が用意されている。

…あそこに座るのかな、目立つな。


「舞台の設計も、我々生徒のものです。建築を学ぶ学生が考えました。お気づきの点がございましたら、お教えください」

ユーリは、舞台裏に作られた階段に案内する。陛下は頑丈に作られたその階段を確認すると、私の手を引き、エスコートしながらゆっくりと上る。


広めに作られたその階段は、ドレス上る動きを邪魔しない。


陛下と私は、舞台上に上ると、まずは生徒達に手を振った。

陛下の横で、添えるように手を振るのが私の役割……と思っていたけれど、予想以上の歓声に驚いた。


「「フィリア殿下ーっ!」」


め、名門校の生徒といっても、少し男子校のノリがあるようだ。

一部騒ぐ生徒達を、近くの監督生や教師が注意しているのが見えた。


今日のドレスは、ママさん一押し、白地に緑の刺繍の入った可愛らしいドレスだ。

ふんわりと広がったスカートは、小花や蔓の刺繍で、遠目からでもより立体的に見せるという。

胸元は昼用にしては切り込みが大きいが、レースを束ねた飾りがついていて、胸元は華やか、ウエストはすっきりとさせて、スタイルを良く見せてくれている。


髪はふんわりと纏め上げ、耳の横に少しだけ巻き毛を足らした。



せっかくの公務だから、かなり気合いを入れた格好だ。

本当は"公務"じゃなくて、物陰から見るぐらいのつもりだったけれど、"王族の出席"として扱うから共に出るように、陛下に強く言われたのだった。



(こんなに目立つと思ってなかった……!)


生徒の数は約千名近い。淑女の微笑みも、緊張で崩れてしまいそう…!


手を振り終わると、私は用意された椅子に腰掛ける。陛下は、そのまま生徒達に開式の挨拶、訓示をお話しされる。

マイクがなくても、ダンが裏方で風の精霊をつかって声を生徒達に届けている。なんちゃって拡声器だ。


その後、学院長が挨拶をして、上級生から歓迎の挨拶がある。

学院長はどこ……あ、舞台の前、中庭に椅子を置いて何人か座っている。

私もそこでよかったのに…!


学院長の合図で、上級生と新入生の列がざっと分かれる。

そこから学院の専門科目ごとに並んでいるらしく、さらにいくつかに列が分かれる。


新入生も入学前から希望する専門科目を選んでいる。相対するように列が向かい合うと、上級生から歓迎の挨拶こと、お披露目が始まった。


まずは精霊術の科目。年に十数人しか入学しない、精霊術師育成コースだ。

風の術師らしい数人が、体を宙に浮かせる。新入生から見たらはるか上、体3つ分の高さだ。その足元に彫刻のように飾りを施された土の台座がギギギと音を立てて作られる。土の術師がいるようだ、器用だなあ。そして火の術師が花火のように火花を散らせる。眩しさに目を細めると水の術師が空中の水分から、水滴を作り雨のように降らせる。生徒達の頭につく前に、台座に立つ風の術師が風を操り、水滴を空中で動かす。おお、共同作業ってやつですね!真昼間の陽光が、水滴にキラキラと艶めいて綺麗です。


「まあ!これが、式典恒例の術でございますね!綺麗ですね!」

思わず私は陛下に同意を求めてしまった。


ひとつひとつの技は高度ではないが、精度を高めて、ショーとして完成させている。


「そうだな、今年はどれも腕の良い生徒がいたようだ。毎年こうとは限らん」

陛下も、満足げに頷いてます。精霊術師は、稀ではないが数は多くない。技量も一定でないとすれば、優秀な人材は是非とも王宮で確保したいのでしょう。

……ダンは我が家に仕えてくれているんですからね!いくらサーシャの葉を用意したって、駄目ですからね!


「次だ。今日は見応えがありそうだな」


陛下の声を聞き、学院長は生徒達に次の合図を送った。


各専門科目のお披露目は、順調に進んでいった。

精霊術の派手なお披露目のあと、政治学や文学、経済学といった科目はどう発表するのか、気になったが、答えは単純だった。精霊術の生徒が演出を補助するのだ。

風の精霊術師の生徒が、それぞれ飛び回り、ある科目では旗、ある科目では大きな一枚絵を新入生、観客全員に見えるよう持って回り、科目代表の生徒の声を拡声させる。

科目の成り立ちを発表する生徒もいれば、現在の成果を発表する生徒も。


私はまるで入学説明会の気分でワクワクとそれらを聞いていた。

もし私が入学するなら……いえ、しないんですけれど、するならどの科目を学ぼうかしら。そう思わせる魅力がそれらにはあったのだ。


たすきを繋ぐように、テンポよくそれらが進んでいくのだから、各科目、特に精霊術の生徒は練習したに違いない。


「ふむ…今年は、どの科目も出来が良い。なぜだろうな?」

陛下の声は嬉しそうだ。ただ、こちらを見てニヤリと笑うのは止めてください。

何か仕出かしたかとドキドキします。


「皆さま、日頃の成果を存分に発揮いただいているのですね。まあ、もう最後かしら?」


「ああ、学院の華だな。軍部科目か」


陛下は、大きく片手をあげた。

学院長が続けて合図する。


生徒達は中庭を取り囲むよう場所を移動する。

残った生徒は、軍部科目の生徒のみ。上級生と新入生が向かい合う形は変わらない。


「あの…彼らは、一体どんな演目を?」


尋ねると、陛下は、笑みをますますと深めた。

おかしい、笑っているはずなのに、人ひとり殺めてきたような顔つきだ。


「軍部は単純だ。上級生と新入生が戦う。面白いぞ?上級生は負けナシだ」


ええっ?!

上級生VS新入生……って人数の規模が明らかに違うよ!

しかも生徒の皆さんは着々と武器と防具を装備していくし!


「武器は木製に限る。火薬の使用は禁止。行き過ぎた行為は、教師の指導が入る。模擬戦のようなものだ」


いや、あの、条件が結構大雑把だと思うんですが……


あれ?!そういえばアランとジャンはどの科目を選んだんだったっけ?!


………軍部科目ではありませんように!!

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