表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/72

59.Side S.海の王者

サイドストーリーです。

久々のエンジェルズ。

大海原をかけて巡るのは楽しい。

水面がキラキラと太陽の光に反射し、潮風が波を運んでくる。


波には魚も乗ってくるから、お腹が空いたら食べればいい。

たまに、ぎょっとする色や形の魚もいる。綺麗な魚や、海底で見つける光る貝は、レイアやフィーリに渡すと喜んでくれる。


僕は海が好きだ。

陸よりも自由に動けるし、ここには僕を変な目で見てくる奴もいない。


レイアは陸も海も好きだ。

僕と一緒に海に出ることもあるけれど、僕と違って早く泳ぐことができない。昔から泳ぐのは僕の方が得意。波ではぐれないよう、手を繋いで泳ぐのは今も変わらない習慣。

陸では、上手く喋れない僕の代わりに、レイアが喋ってくれる。


(見つけた………)


今日、僕はひとりで海を泳いでいた。

フィーリの家から、地下の道を通って海に出られる。

ジイとレイアは留守番だ。


家から遠く遠く泳いできた。この辺りに、強い奴がいると聞いてきたから。


僕の視界の先には、大きな魚がいた。僕と同じ、鮫の仲間だろう。僕の何倍も大きな体で、岩にぶつからないよう器用に泳いでいる。呼吸をするように開く口からは、鋭い歯が何本も見える。腹の下には、小さな魚が何匹かひっついている。


まず、僕は岩陰に身を隠した。奴は、ゆらりゆらりと、体を揺らして泳いでいる。まだ僕に気づいていない。

このまま後ろから襲ってもよいけれど、それじゃあ、面白くないな。


奴の鋭い目つきを見て、僕は真っ正面から戦うことにした。

僕と、奴。どちらが速くて、鋭いだろうか。


岩肌のない、広々としたところまで奴を追うと、僕は奴の視界に入るよう、ひと泳ぎした。

突然現れた僕に、奴は警戒心を持ったらしい。僕と向かい合うようにぐるぐると泳ぎ始め、口から鋭い無数の歯を覗かせる。


僕は、両手に持った特製の短刀を構える。構えるといっても、手を下ろし、腰のあたりで外向きに刃を向けるのだ。素早く泳ぐときの形を意識する。第一撃はこの歯。そして二撃、三撃と短刀で攻撃を加えるのが僕の最近の戦い方だ。


奴を倒せば、一帯の海は、僕のものだ。


(フィーリに、褒めてもらおう)


僕は奴に向かって突進した。




*****




それからしばらくして、僕はレイアの待つ家に帰った。

海に出ると数日帰らないことが多い。ずっと海にいてもいいけれど、フィーリがくれた"家"は宝物なんだ。



レイアに、お土産の綺麗な貝を渡そうと家の中を歩き回る。海では駿足を誇る二本の尾びれも、陸ではゆっくりとしか歩けない。

居間のソファで、うたた寝をするレイアを見つけた。読みかけの本を膝に、背もたれに体を預けて寝てしまっている。


僕がいない間に、随分と読み進めたようだ。

一緒に習い始めたけれど、レイアは僕よりもずっとよく単語を知っている。


僕は、黙って、レイアの横の大きな虫を蹴り飛ばした。

「げほっ!何なの。僕が気持ちよく眠っていたのに、こんな無礼を一体誰が」

「…無礼は、お前」

「テオ!帰ってきたのか!!」

「うるさい」


レイアの肩…では高さが届かず、胸を借りて寝ていた大きな虫。確か、デンカ?


「ん…大きな声、一体どうしたの…あ!テオだ!おかえりなさい!」

「ただいま、レイア。これ」

「わあ!シジュの貝ね、嬉しい!」


白くて、内側がきらきらしているシジュ貝。まだ閉じたままだけれど、貝をあけると粒が入っていることもあるんだ。


「あのね、フィーリお姉ちゃんは最近オシロにいるの。デンカがね、教えてくれたの」

「そう、デンカ、帰りなよ」

「テオは僕を何だと思っているの。客人として扱いなよ」


だって、デンカは女の子に近づけちゃ駄目だって、ダンが言ってた。

「オマケはどこ」

「僕の部下をオマケ呼ばわりするな」

「はいはい〜オマケはここにいますよ〜」

「お前は呼ばれて出てくるな」


デンカのオマケは、隣部屋からひょこひょこ歩いてきた。いつも笑っていて目尻が垂れてる人間だ。殿下の綺麗な金髪と違って、少しくすんだ茶金の髪。

カザンみたいに大きな体が羨ましい。


「ふぉっふぉっふぉ。テオ、おかえり」

「ジイヤ、ただいま」

「殿下はレイアが退屈だろうと、城を抜け出して来られたのだ」

「デンカよりもフィーリは?」


オマケと一緒に、ジイヤも杖をついてやってきた。

白い髭をふっさふっさと揺らして笑う。僕はジイヤが大好きだ。


僕の質問には、デンカが答えた。

「フィリアは城だよ。警備が厳しくて、ここには来れない」

「でもね、デンカは来たのよ!すごい!」

「ま、まあ僕は、部下が優秀だからね」

「そうですよ〜主の安全より、主の命令を優先しますからね〜」

「そこは嘘でもどちらも守るよう言うように」

「嘘でいいんですか〜」

オマケはあはは、と笑ってデンカの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

その後、僕の目線に気づいて、僕の頭もぐしゃぐしゃと撫でる。

「うわっ、海水でべとべとしますね〜。お湯を使ってさっぱりしましょうか〜特製保湿剤もありますよ〜」


オマケは僕の体をひょいと持ち上げると、風呂場に向かって歩いていった。

「だめ、おろせ、離せ」

せっかく海水で濡れているのに、お湯だなんてとんでもない。鱗が傷む。肌がひりひりする。

「お風呂は気持ちよいですよ〜フィリア殿下も最近お風呂にハマっているとか〜」

「フィーリ?」

「最近のフィリア殿下について教えましょうか〜?」


オマケは僕を風呂場のなかに立たせると、にんまりと目を細めて笑った。

「身綺麗にして、そこにある服を着たら教えてあげましょう。皇太子殿下を蹴り飛ばした罰です。あ、その服はフィリア殿下お手製ですから、破かないように」


先ほどと違って一息に言い切るオマケの目は、全く笑ってない。


(オマケ…クエない奴!)


「なんですか、その目はっ…げほっ」

僕はオマケを蹴り飛ばして、風呂場の扉を思いっきり閉めた。

そして、フィーリのために仕方なく、僕はお湯を貯めた湯船に飛び込ぶのだった。






「すごい!すごい!見て、これを塗るとすべすべなの、カサカサしないの」

「うん……」

「テオ!動かないで!じょうずに塗れない!」

「そうだ、テオ!塗るなら自分で塗れ!」

「はいはい〜殿下もカッカしないで〜」

「ふぉっふぉっふぉ。元気なことはいいことじゃ。おや、テオ、その服はよく似合っておるのう」

「うん……」



特製保湿剤を手に、テオの鱗肌へのお手入れに余念がないレイア。

テオは早くフィリアのお手製服を着てみたくて、もぞもぞしてます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ