57.お誘いを受けました
途中で視点が変わりますので、ご注意ください。
それは、ある晴れた日のことでした。
「入学式典?」
「あ、ああ。新しく学院に入る俺たちの、式典みたいなものなんだけど。その、よかったら……」
「よかったら、フィリアも見にきてくれないかい?年に一度の式典だし、なかなか華やかだと思うよ。僕はフィリアが来てくれたら、より華やかになって嬉しいな」
青天の霹靂、突然のお誘いに、一も二もなく頷きました。
「行きたい!私もぜひ参加したいわ!」
*********
「入学式典?」
「そうなの、アラン達の学院の式典なの。お誘いをいただいたのだけれど、私も参加してよいかしら?」
城内大冒険から数週間経った頃、パパさんもようやく起き上がられるようになった。
快気祝いとアラン達が城に訪れた帰り、私は入学式典に誘われたのだ。
あまりにも嬉しくて、早速ダンに聞いてみる。
「…王立の学院だから、入学式典には陛下が訓示を述べられるよ。そんな式典で、あいつらはフィリアをどの席に来てもらうつもりで誘ったんだ」
ダンは苦虫を潰したような顔をすると、ぷいと横を向いた。
「……ダン?」
てっきり、反対すると思ったダンの反応が思っていたのと違う。
思わず首を傾げると、後ろから笑い声が聞こえた。
「くくっ…フィリア、ダンは反対できないからそんな顔なんだよ。オーヴェ殿下の許可が出ているって分かったんだろうね」
「カザン!来てたの?」
城内の私室で過ごしていた私は、喜んで客人を迎える。
パパさんも快復したし、じきに軟禁は解除される見込みだけれど、退屈ったらありはしないわ!
「やあ、フィリア。アラン達が来ていたんだろう?」
「ええ、そうなの。入学式典に誘ってもらったわ」
「私もいた学院だけれど、式典はどれも見事だったよ。ぜひ楽しんでおくれ」
「…?ええ、もちろんよ」
カザンは突然、私の前に跪くと、片手をとって甲に口づける。
流れるような動作にびっくりしていると、カザンはじっと真剣な目で私を見た。
「暇乞いだよ、フィリア。私はアラン達の入学式を見届けたら故郷に帰るから。今までありがとう。フィリアと共に過ごした時間は、かけがえのないものになった」
ぱたん、ぱたん、と静かに揺れる尻尾をみて、私はその日が来たんだなと受け止めました。
じわ、と目に浮かぶものを感じながら、それでもカザンには笑顔で見送りたいと、口角を引き上げます。
「カザン…今までありがとう。あなたの活躍を、離れていても見ているから」
「ああ、父の跡を立派に継いでみせるから。楽しみにしていて、私の可愛い、小さな姫君」
茶目っ気たっぷりに片目をつぶるカザン。
贈られた言葉に、カザンの優しさを感じられる。
ふふっ、と笑みをこぼすと、私はダンと一緒に、入学式典のことを詳しく聞き出し始めました。
どれくらいの規模?陛下の出番は?衣装は?学生による催しもあるのかしら?
そうした聞き出した内容は、前世での『入学式』のイメージを覆す、とんでもない規模でした………
*****
王城から、与えられた学院の寮に戻る道すがら、ジャンは先ほどの出来事を思い出していた。
学院に入ると、あまり時間も取れないだろうから、気の早いオーヴェ殿下の快気祝い……だったが、なかなかどうして、下心はばっちり見抜かれていた。
「あーあ、殿下はおっかないねえ」
ジャンは長い長いため息をつくと、黙り込む友人に振り返る。
「それでも、殿下は了承してくれたんだ。あとは僕たちが立派に務めを果たそう。なあ、アラン?」
式典には、僕らの見せ場だってあるし。
「ジャン……俺……」
「アラン?」
なんだか様子が変だ、とジャンはアランに向き直る。城を出てから、一言も発しないで、ずっと俯いている。
「大丈夫かアラン?まさか君、ここに来てフィリアの出席に反対だなんて」
「そう、フィーリ!フィーリ!どうしよう!ジャン!俺、入学式典を待ちきれない!」
アランはがばっと顔をあげるとジャンに詰め寄った。
「フィーリに会える!フィーリに会える!」
「お、落ち着け!さっきもフィリアに会えただろう!」
「フィーリ、俺のこと見つけてくれるかな?フィーリ、きっときらきらして、可愛いだろうなあ」
「アラン!君やたら静かだと思っていたら、フィーリ欠乏症だったのか⁈その時々発作的に興奮するの止めろよ!」
「俺、フィーリのドレス姿楽しみだ。きっと、舞踏会みたいに着飾って…どうしよう、同じく入学する奴らがフィーリに惚れてしまったら」
「フィリアに懸想する男なんて一人や二人いたって当たり前だろう」
「どうしてお前は落ち着いていられるんだ⁈心配じゃないのか⁈」
思わず襟元を引っ掴むアランに、ジャンも負けじと怒鳴り返す。
「僕はある意味アランの方が心配だよ!首を絞めるな!その馬鹿力で君がフィリアになにかしないか、そっちの方が心配だ!」
「俺はフィーリに怪我なんてさせない!」
「嘘つけ!君は第一フィリアと見ると見境なく突進して…女の子には優しく!丁寧に!だ。小さい頃のしかかられたフィリアが泣きそうだっただろう!」
「あ、赤ん坊の頃を出すなんて卑怯だぞ!」
「卑怯なもんか!思い出してみろ、あのピクニックの時だって突進するアランにフィリアは怯えて」
「なんでお前はそんなに覚えているんだ⁈」
結局二人の怒鳴り合いは寮に着いてもおさまらず、入学前から寮長に厳しく指導されてしまったのだった。
セベリア衣装を着るアランくんは、尻尾の動きが隠されていますが、実は衣装の下でばっさばっさと千切れんばかりに振られています。
耳もぴくぴく動いていますが、フィリアの前では常にそんな状態なので、フィリアは違和感を感じていません。
(元気なお耳だわ…!触って…ああ、駄目よフィリア、我慢して…ああ!)
明日も更新しますので、よろしくお願いします♪
(何本か連続更新予定です)




