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52.だって天使に会いたいの

「ねえ、ダン」

「なんだい、フィリア?」

「お願いがあるの」


「却下」


フィリアです。

今日も敵は手強い模様。



***


「まだ何にも言ってないわ!」

「もう聞き飽きたよ、屋敷に帰りたい・レイアとテオに会いたい、これに関連すること以外なら発言してよいよ」

「ぐっ…」

「ほら、却下だ」


アランとジャンと一緒に、パパさんのお見舞いに行ってから一週間が経ちました。

パパさんの怪我が完治するまで、城下の屋敷に帰らず、王城に留まることとなったのです。


確かに、警備体制も侭ならないまま屋敷に帰り、護衛の兵士達にレイアちゃんの乙女の柔肌を見られてしまっては困ります。

あのかくも美しき天使の肌及び鮫肌部分は、そこらの男性ではその魅力に抗えないに違いありません。

ああ!でもテオくんが、その横で牙を剥いていると考えると双子愛が二度美味し…いえ、危険が倍増です。


天使達は、私が守らねば!!


「きょ、今日は違うお願いよ、決まっているじゃない」

「ふうん、お師様に会いたいも無しね、同じことだから」

じいやめ!私の天使達と仲良く過ごしているなんて羨まし過ぎる!


「あのね、冒険しましょ?」

「は?」

「城内の冒険よ、護衛はダンだけ。お忍びでね」

「…何したいの」

「冒険って言っているじゃない」


少しでも可愛く見せようと、小首を傾げてみたりする。

見つめ合うこと数十秒、ダンが小さくため息をついた。


よし、勝った!


「城内だって、安全かわからないよ」

ダンのぼやく声は聞こえないふりをしました。




ダンのお許しをもらったところで、私はまず王城の侍女服に着替えた。

隠し持っていたそれを見て、ダンはますますため息を深くしたけれど、気にしない。

うふふ、実はこれ、似たような色のドレスを加工しただけなんです。ぱっと見ではバレないくらい似せてみたのだけれど、ダンにも分からなかったようね。


淑女のたしなみとして、刺繍糸や刺繍布は常時持っておりましてよ


ダンは普段と全く同じ格好。

リーヴェル国出身の獣人は少ないし、白黒の毛皮の獣人なんてダンだけ。

誤魔化しようがないなら、いっそ堂々としてもらうわ。


「暇にすると碌なことをしない……」

「いい、ダン?暇で退屈したフィリア殿下に言われてカザンを呼びに出ている、の設定よ。侍女は付き添い。今日もカザンは慌ただしく城内を移動しているらしいから、城内を探し回っても不自然でないわ」

「………ほんとにさあ」

「さ!ダン、時間は有限よ。出かけましょう」


私は風の精霊に、定期的に部屋のなかで物音を鳴らしてもらうようお願いする。

ほんのわずかに、ころころ、とかガサコソ、とか音が鳴れば十分なのだ。


「じゃあ、先に出てるから」

ダンは一度部屋の扉から出ていく。部屋の前の兵士達に、一言残していく。


(フィリア、寝てるから。カザン呼んでくる間、よろしくね)

(は!カザン殿は先刻王城に上がられたと聞いております。いってらっしゃいませ)


先に出たダンとは、外で合流予定だ。

私は、部屋の大窓に近寄り、そっとカーテンを開ける。

「久しぶりだけど、大丈夫そうね……」

これだけはタイミングをはかっての大勝負。窓を開けて、外に人通りがないことを確認して浮き出るのだ。


ヴァーレの丘で、あんなにギル達と練習したのだ、体が精霊達へお願いする配分を覚えていた。


「よっ…うん、なんとか」

私は地面に降り立つと茂みに身を隠す。

「これで…」

「全然良くない、スカートが茂みから出てる」



「ダン!早いわね…」

「目を離せるもんか」

ダンは急いで駆けつけたのか、肩で息をしていた。

私は立ち上がると、スカートについた葉っぱを急いで振り払う。


「で、フィリア、どこに行くの?」

「そうね、まずは城の一階、中庭、それから修練所よ」

「…なにか企んでるなら、早いうちに言いなよ」

「だから、冒険よ」

まだ城内冒険に乗り気でないダンは、私をじーっと睨んでいる。

ふふん、どんなに鋭く睨んできても、普段の黒の毛並に隠されたつぶらな瞳を思い出せば全然怖くないわ。


城内冒険をする理由はダンには内緒。

言えば反対されるのは分かってるもの。


今回の目的地はふたつ。


王城の一階は、いわゆる使用人階というもの。

当然かもしれないが、これまで一度も足を踏み入れたことがない。

料理や洗濯は基本的にこの使用人階で行われている。そして城に勤める彼らの部屋も、この階に多い。


中庭はただの中庭だ。

だけれど広大。中庭と呼ぶのか庭園と呼べばよいのかわからないけれど、『中庭』と呼ばれるその場所は、薔薇園や噴水もあれば、貴族趣味の迷路もある。時々誰かが逢瀬に使うこともあるんだと、侍女達が噂しているのも知っている。


私がこの城内で知らない場所を、お忍びで冒険する。


そして、考えるのだ。

城内で暗殺が起きることは、通常なら有り得ない。それだけ王城への侵入が容易いということか、内部者の手引きがあるのか。


既にパパさんや陛下が調査をしているかもしれないが、目を変えてみることで、見えてくることもあるだろう。


もし、警備の抜け穴があるようなら………




うふふふふふ。


あら、想像しただけで口元がにやけちゃう。

駄目ね、ダンに疑われてしまうわ。



さあ、今日、カザンは修練所にいるでしょうから、そこまでに徹底調査しましょう。


もし、警備の抜け穴があるなら………。

うふふ。


夜中にこっそりお城を抜け出して、愛の大冒険をするのよ。



そう、不肖フィリア、天使達に会いにいくのよ!








ダン(暇にすると……何考えてるんだか………城内冒険って、確かに王城をうろうろすることは少ないけど、一体なんで………本当に暇なのかな?)


ダン(あ、にやついてる……そんなに部屋は退屈だったのかな……?)




ダンくんは、まだ主人公の思惑に気づけていないご様子。

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