49.外出禁止
お久しぶりになってしまいました。
「しばらく、外出禁止」
フィリアです。
ダンが怖いです、助けてください。
*****
あの襲撃のあと、私達は王城の私室で一夜を過ごすことになった。
陛下の誕生日に、まさかの事態。
被害にあった兵士も多く、舞踏会は中断、陛下を始め事態収拾にあたったという。
「ねえ、ダン。もう一週間も部屋から出てないんだけれど…」
「なに?聞こえなかったよ」
「ごめんなさい何でもありません」
城下に屋敷も持っているけれど、王族だけあって王城にも充分に私室を持っている。
狙われたのは私とあって、一週間も護衛に囲まれながら過ごしていたのだけれど、そろそろ
(レイアちゃんとテオくん…!エンジェル成分が…足りない…!)
出会ってからこんなに離れていたことはないのに!
ああ、2人とも元気かしら、じいやがいるから大丈夫だとは思うけれど、会いたい気持ちは抑えられないわ!
扉の前には兵士が4人。室内ではダンが私と一緒にいてくれている。
「フィリアは自覚がなってない。狙われたのは君だよ?旦那様の怪我も当たりどころがよかったものの、もし、アイツが少しでも遅れていれば…」
「アランがいなければ、危なかったでしょうね」
「…そう、そうなんだよ、フィリア。僕もカザンも間に合ってなかった。君の護衛なのに。偶然追ってきたアランがいたから、助かっただけなんだ」
ダンはぎゅうっと両手を握り込んだ。
目を伏せて床をじっと見つめている。白黒の毛皮が目の表情を読ませにくくしているけれど、私にはきちんと見えた。
「……ダン、心配かけて、ごめんなさい」
「…本当だよ、心配かけさせないでよ」
私は椅子から立ち上がると、向かいに座るダンにぎゅっと抱きついた。
相変わらずもふもふした体は、私にもぬくもりと安らぎを返してくれる。
いつだって側にいてくれたダンにとって、出会ってから初めて、自分の知らないところで私が襲われたんだ。
目を離したことを、側から離れたことを悔いているんだろう。
「…しばらく、僕はフィリアの護衛に専念することになった。カザンは故郷に帰る準備があって、側にいることは難しいから」
「うん、分かった。ありがとう、ダン」
もふもふした首筋に、顔を埋めるのが好きだった。
ダンの身長が伸びて、座ったときじゃないともうできない。
本当はごわごわした毛質を、お手入れでもふもふ柔らかくしてくれているのも知っている。
「でもね、ダン。もう、守られてばかりじゃ駄目ね」
「フィリア……」
「王城での過ごし方ばかり気に取られていて、護身はダンとカザンに頼ってばかりだったわ。それでもいいとも思っていたの。優先順位をつけただけだって。でもね、ダン」
私はひと息ついた。
「私ーーー
「フィリア!フィリア大丈夫か!」
「殿下!」
突然扉がバン!と開けられ、大きな声で叫びながら王太子殿下がずかずかと入ってきた。
通常ならノックして知らせる侍女も、扉の前で堅固に守っていた兵士も、王太子殿下の鶴の一声で跳ね除けてきたのだろう。
扉の向こうで項垂れる彼らの姿が見える。
「…!なんとふらちな!ええい、ダン!離れろ!離れろ!」
え、ふらちって何のことーー
突然乱入してきた殿下にびっくりしていると、すぐ耳元でダンが思いっきり舌打ちしたのが聞こえた。
あ!ダンに抱きついたままだったのね、いけないいけない、つい毛触りを堪能してしまったわ。
「これは、殿下。前触れもなしにどうされましたか」
ダンは私の両腕を外すと、すくっと立ち上がり、突っかかる殿下の前に歩み出た。
距離も開けずに立つと、まるで王太子殿下を見下ろしているかのよう。気のせいか、背中からずももももももふもふ、とオーラを出している。
「フィ、フィリアが襲われたと聞いて…」
「ええ、一週間前に」
「先ほど侍従武官から聞いたんだ」
「警備を固めているところですから。すぐお知らせしてこのように殿下が勝手な行動を取らないようにしたのでしょう」
「勝手な行動とはなんだ!ダンこそ、護衛のくせに、先ほどまで」
「先ほどまで?何か?何か殿下はご覧になられたのですか?」
「……っ」
「フィリア!ダンが!僕はフィリアを心配してきたのに!」
殿下はくるりと向きを変えると、私に向かって両手を広げて飛び込んできた。
思わずかかんで、抱きとめてしまう。
「まあ、殿下。ご心配くださり、ありがとうございます。でも、ダンの申し上げたとおり、危険ですからご注意くださいませ」
猫っ毛の金髪がちょこちょこと鼻をくすぐる。
うるうるとした瞳で上目遣いする王太子殿下は、ご自身の愛らしさをご存知なのかどうか…もし街中をふらふらと出歩いてしまったらあっという間に人攫いにあいますね!
私だってエンジェルズがいなければちょっとお菓子を用意してげふんごふん。
そうだわレイアちゃんに美味しいお菓子を買って帰らなくては。
ああ、やっぱり早くお家に帰ってレイアちゃんとテオくんをこの手で抱きしめたい…!
エンジェルズを胸に抱きしめる自分を想像するだけで、力が湧いてくるよう。
ほら、ぐっとこの腕に力が入るわ。
「フィ、フィリア……」
「あら、殿下、どうされました?」
金髪が胸のあたりでちょこちょこと動いている。
「殿下、顔が赤いですわ。熱でも?」
「熱なんか!熱は、ない!」
「まあ、それはよかった」
にっこり微笑むと、殿下はふらふらと後ろによろめき、離れていった。
「フィ、フィリア…。僕は心配したんだ。怪我していないかなって」
「おかげさまで、私に怪我はありませんわ」
「そ、そう。それなら、まあ。うん。また、来るよ…」
「殿下?」
殿下は、なにやらもごもごと呟くと、踵を返して走っていかれた。
お供の武官たちも慌てて後を追いかけていく。
「一体、何だったのかしら…」
嵐のように来ては去る殿下を見やって、思わず呟いてしまった。
「うん。理解していないなら、それでいいよ。あのガ…殿下は僕が後でシ…きちんと注意するから」
「そう?」
ちらり、と横目でダンを見ると、ローブの裾が風にそよそよとあおがれているようだった。
……ダン、なにか怒っているのかしら?
触らぬ神に祟りなし
私は侍女にサーシャのサラダを大盛りで持ってくるよう、お願いすることにしました。
<問題です>
もふもふは文中に何回出てきたでしょう?
正解は……(続きはwebで)




