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37.精霊に愛されし姫君

か、かっこいいよカザン兄様……!!



フィリアです、事件です。



軍 服 で す … !



いや、軍服かどうか、隊服?騎士服?詳しいことはわからないけれど、白シャツに黒ジャケット、黒のズボンでぴしっと固めたその格好は垂涎ものです。

大丈夫、まだ垂らしてません。


ジャケットの胸には勲章やらポケットやら飾りが色々あって、肩のモールは銀糸です。

少し煌びやかに見えるこの格好は、有事の際に着るというより、こうした王城で着用するものでしょうか。


アランパパのターバンにローブという格好も色気満載だったけれど、カザンさんの格好も滲み出る色気が…いやその優しげな眦から滲み出る色気が……



「……フィリア、フィリア、口空いてる」


ぼおっと見つめる私に、ダンが小声で注意する。

い、いけない!別世界に旅立つところだった!



私は慌てて表情を取り繕うと、にっこりと笑って、淑女らしく一礼した。


「はじめまして、カザン様。フィリア=ユーメルと申します」


顔をあげると、にっこりと笑ってくれたカザンさんと目があう。

よし、取り繕った……!!


「久しぶりだね、カザン。元気だった?」

「ご無沙汰しております、オーヴェ殿下。ええ、リーヴェル国の皆さんには大変良くしてもらっております」


どうやらパパさんとは顔見知りだったらしい。

ママさんやじいやとも親しげに挨拶を交している。


うーん、パパさん、他国の獣人の皆さんに顔が広いなあ。

羨ましい、今度昔話を聞かせてもらわないと。



1つ空いていた席にカザンさんを案内すると、ママさん手作りのお菓子に喜んでくれた。


私達は、まずはお互いの近況を聞き合った。

カザンさんは、リーヴェル国に15歳の頃から留学していたらしく、学校を卒業した今は、陛下の取り計らいで王都駐在軍に所属しているらしい。

文人としても軍人としても優秀らしく、陛下に臣下にならないかとスカウトされているそうだ。


え?私の近況?

そうですね。マイエンジェルズに会えなくて切ない夜を一日過ごしました。ああ!レイアちゃんテオくん!二人の鱗に触らせて欲しいっ!



「……噂には聞いていましたが、フィリア嬢はまさに"精霊に愛されし姫君"そっくりですね」


ふと、カザンさんは、私の持つ絵本と私を見比べて呟いた。



「"精霊に愛されし"……?」


「カザン、フィリアにはこれから話すところなんだ。よければ、君から絵本の内容を教えてあげてくれないか」

「私でよければ。フィリア嬢、その絵本はアランのもので間違いないかな?」


カザンさんの問いかけに、私はこくんと頷いた。


「懐かしい、一番素朴な絵本を探したんだ。その伝承は有名で、女の子向けには姫君はより可愛らしく描かれたり、様々だから」

「そう、なんですか……」


道理で文字がないものというか。

わざわざコレを選んで贈ったんだろう。


「伝承は、昔からリーヴェル国に伝えられているものなんだ」

そう言うと、カザンさんは唄うように、伝承を諳んじ始めた。



昔々、人々は豊かな恵みを授かり、美しい森で暮らしていました。

ところがある日、住んでいた森が荒れてしまったのです。地が割れ、火事が起こり、洪水や風害が起きてしまいます。

作物も枯れ、住む場所も失い、困った人々の前に、美しい女性が現れました。

金髪に青い瞳を持ったその女性は、精霊達に愛されし姫君でした。

精霊の力を借り、荒れた土地をすっかり元の穏やかな森に戻したのです。

大地は元に戻り、森は根を下ろします。火事は止み、洪水や風害も収まり、豊かな森が帰ってきました。

人々は姫君に感謝し、女王として、森に迎え入れたのです。



美しい声で唱じられる伝承を聞きながら、私はひやりとするものを感じました。

絵本を読んだときから、薄々察してはいたのです。



「………精霊の申し子は少なくない。ただ、精霊達(・・・)に愛されし申し子は、伝承でしか聞いたことがなかったんだ」

黙っている私を見て、ダンは言いました。

船旅で何度も一緒に絵本を読んだダンには、私が勘付いていたことがわかったのでしょう。



「フィリア嬢、あなたのことはまだ多くに知られていない。陛下や、オーヴェ殿下が情報をある程度封じていますから。それでも、噂が出回るのは早いのです」


カザンさんは、唄を止めると、私をまっすぐに見つめました。



「"救世主"である"姫君"が、この世に再来したと、人々は期待するでしょう。より豊かな国に、自分達を導いてくれると」



「……フィリアを、企みを持つ一部の人間が利用しようとするのは間違いない。だから、陛下は身内に取り込もうとしたんだろうが」


カザンさんの言葉にパパさんが続ける。

気に食わない、と。




「あら、あなたはフィリアと結婚するのは、誰であっても気に食わないんじゃないの?」

不機嫌な顔をするパパさんに、ママさんはそう言って笑った。


「それは大変だ。アランは殿下と戦わないといけないのか」

目をぱちくりさせる、カザンさん。

いやいや!何を言ってるんですか!


「フィリア嬢。私はアランとずっと手紙のやりとりをしているのだけれど、可愛い女の子の話がよく出てくるんだ。

"ふぃーりのためにけんをけいこする!"

"フィーリが帰ってくる!迎えに行かなきゃ!"

とかね」

「なにそれ、手紙に書いただけでアランがどうして旦那様と戦うことになるのさ」


いたずらっぽく笑うカザンさんの言葉を、ダンがばっさり切り捨てる。


ダ、ダン!

どうしたの!

愛らしいもふもふボディから、ドス低い声が出ているよ!


「フィリアは、お父さまと結婚するって、言ってたもん……」


パパさんも!寝ぼけたこと言わないで!

私そんなこと言ってないと思うよ⁈


「そうじゃのう、フィリア様には、いつも側で見守ってくれる、頼りになるちょっと年上の男性がお似合いではないかのう」

じいやまで!

……じいやは"ちょっと年上"どころじゃないよ!

え、ダン、なんでそんな哀れんだ目で見るのさ!



齢9歳にして、家族に自分の結婚話をされるのは複雑な心境だ。


「お、お母さま!皆さんを止めてください…」

「そうねえ、お母さまはね、ジャンくんのような、優しい男の子もいいと思うわよ?」




お 母 さ ま … ! !







レイアちゃんとテオくんは、現在港の辺りに隠れています。



カザン兄様は、治安維持隊の一員として現在勤めています。




べ、別にダンの画策で、フィリアが捕まらないよう、レイアちゃんとテオくんに港辺りに隠れてもらっているわけではありません。(鼻から情熱問題)

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