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32.亜人の存在

ダンのターン

「ふね!おっきなふね!」

「そ、そうだね。船だ、ありがとう……」


フィリア=ユーメル、子ども達に案内されたのは、見覚えのない港に停まる船でした。


えっと、どうしよう…

こんなキラキラした瞳で見つめられたら、違うとも言いにくいなあ……


遠く沖から船を眺めているのですが、浮いているのは疲れるので、近くの岩を足場にします。


「おっきなふね!レイア、よくみてるの」

「そうなんだ?港も活気があっていいよね、二人のお家はこの辺りなの?」


何の気なしに聞いただけだったけれど、二人がずうんと暗い顔をしたので私は慌てた。


「レイアとテオ、おうちないの……」

ああ!泣かないでレイアちゃん!あなたに涙は似合わないわ!

でも!!それを黙って慰める!テオくんが!格好良くて!たまらんよう!!


半魚人という感動もまだ処理しきれていないのに、さらに双子の絆まで見せられては心の中でもんどりがえってお姉さん昇天しちゃうよ!悔いはない!




お、落ち着きなさい、フィリア……

あなたには素晴らしいご両親と、素晴らしい家庭教師の先生と、素晴らしいもふもふお兄ちゃんが帰りを待っているのよ……



すう

はあ

すう

はあ



私は大きく呼吸して、この想いを鎮めた。

前世で煩悩即菩薩という言葉を知ったけれど、私の煩悩は大きすぎる気が……むしろ神様この喜びを教えてくれてありがとう。




「お家ないの?お父さまやお母さまは?」

「レイアとテオ、ずっとふたりだもん…」

聞いてみると、いつからか二人だけで海に暮らしていたらしい。舌足らずな説明だから自信ないけど、あんまりご両親のことも覚えていないようだ。


「フィリアはね、久しぶりにお家に帰ったら、えらい人に呼び出されちゃったの。お父さまとお母さまと、向かっているところだったの。だから、今は"お家"がどこかわからないわ。お父さまやお母さまがいるところが、私の帰るところなの」


突然話し始めた私を、レイアちゃんとテオくんは、きょとん、と見つめた。

言いたいこと、上手く伝えられるかな。


「あのね、もし二人がどこかにいたくなったら、よければ、フィリアのところにおいで?いつでも海で遊べばいいし、私のお父さまやお母さま、先生やダンは、とっても優しいから」


あなた達が出会った人達が、あなた達の"お家"になるんだよーーー



幼い子ども二人だけで生きる姿に、なにか伝えたくて、私は言葉を募らせた。



「じゃあ、フィリアも帰っておいでよ」




「ダン?!」

「旦那様も奥様もお師様も心配しているよ、こんな遠いところまで飛ばされちゃって、なにしてるのさ」

私の頭上に浮かぶもこもこの影、ダンが、風の精霊の力を纏って海上を飛んでいた。


突然ダンが現れたことにびっくりして、レイアちゃんとテオくんは、咄嗟に海に潜って隠れてしまったようだ。


「あ!二人とも、このも……素敵なひとが、ダンだよ。出ておいで?」

危ない危ない、ダンの前でもふもふって言うところだった。

私が声をかけると、レイアちゃんがそうっと頭を出した。テオくんはまだ警戒しているのかな、ただ海面下でレイアちゃんの手をしっかり握っているのが見える。


ダンも、高度を下げて私の目線に合わせた。


「亜人?初めて見た。警戒しなくていいよ、僕はフィリアを探しにきただけだから」

ダンが、黒い毛並の奥の瞳を輝かせたのを私は見逃さなかった。


ダンだってレイアちゃんの可愛さにめろめろなんでしょう!テオくんの格好良さにずきゅんとしちゃうんでしょう!え、違う?学術的好奇心?


「亜人は、半獣半人の姿をしているのは大人になるまでなんだ。そもそも絶対数が少ない、獣人と人間の間に子どもはできにくいから。生まれたとしても、なかなか育たない。なんとか大人に成長する頃には、獣人か人間かどちらかの形態になっている。僕も、大人の亜人には会ったことあるけれど、子どもの亜人に会ったことは初めてかな。しかも半魚半人だなんて、なかなか出会えないよ」


ダンは、そう言うと、困ったように目を瞬かせた。

「……えっと、その、顔出してくれる?僕、こんな話し方しかできないけど、フィリアの友達を困らせるようなことなんてしないよ?」

「ともだち?」

レイアちゃんは顔を出すと、くり、と首を傾げた。

「そう、友達。3人で仲良く喋っていたじゃないか。僕も混ぜてよ」

「ダン……」

きっと私が楽しくお喋りしていたのを見ていたんだろう。すぐに連れ帰ることもなく、こうして話に加わってくれることが嬉しい。


ちゃぷん、とテオくんが顔を出した。


「ふぃりと、だん、ともだち?こいびと?」


「な、なにを聞くんだ!君は!と、友達というか、その、妹みたいなものっていうか、わかるだろう!見れば!」

ダンが大声で言い返すものだから、驚いたレイアちゃんがまた海に潜ってしまった。ダン!何してるの!


「レイアちゃん、ダンはね、私の家族なの!驚かないで大丈夫だから、出ておいで?」

そしてお姉さんとお話しようよ!


レイアちゃんが、ちゃぷん、と海面から顔を出す。


「かぞく?」

「そう、家族。仲良しなんだよー」

ほら、ダン、笑ってあげて…って何目を逸らすの!私の顔が見れないとは、そんなに家族認定が嫌だったか!


思わずダンの近くまで飛んでほっぺをつねると、ダンはますます私から顔を逸らした。

ええい!往生際が悪いよ!

べ、別にもふもふ毛並の向こうでこんなふくよかほっぺがあったことに、ときめいてなんかいないんだから!

ダン、こっち向いて!

……反対側もぜひ!


「ふぃりと、だん、なかよし?」


テオくんが、探るように聞いてきた。

あれ、まさか喧嘩してるように見えちゃったのかな?


「もちろん!仲良しだよ?ねえ、ダン?」

私は仲良しアピールのため、ダンに抱きついた。


「ぼくら、ふぃりと、なかよし、なれる?」



テオくんは、私になにかを確かめるように聞いてきた。

おそらく、幼い二人は警戒せず暮らしてこられなかったのだろう。

だから、そうやって聞くのも不思議はない。



ただ、ここで二人の様子を言わせてもらうと、テオくんは、窺うような目つきで、つまり自然と上目遣いで、そして若干首を傾げたまま、聞いてきた。


その横で、テオくんに寄り添っているレイアちゃん。テオくんと繋いでいない手を口元に、目を真ん丸に見開いて私達の様子をじっと見ている。




ああ、もう、神様。




「……え⁈ちょっと、フィリア!大丈夫⁈」


かあっと熱くなった頭が、なんだか迸る鼻が、そんな私を見て叫んでるダンが。

全てガラスの向こうのように感じながら、私の意識はブラックアウトした。





ああ、神様。


フィリア=ユーメル(9歳)

第二の人生は短い生でしたが、こんな可愛い子達に見つめられ、もふもふの腕の中で死ねるだなんて。



悔いはありません。




願わくば来世もこの世界で生まれるようよろしくお願いします。








(注) 死んでません。




(注2) あえて言うなら、死因は萌死です。




(注3) 主人公が末期なので、そろそろ真面目に旅に戻ります。

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