3.アラン=セベリア
獣人登場です。
私が、お隣の家に生まれた赤ん坊、アラン=セベリアと出会ったのは、ようやく首がすわった頃でした。
それまでにも何回か顔を合わしていたそうなんだけれど、赤ん坊の性というか、私は爆睡していたので覚えていない。
「やっと目を見ることができたぞ。奥方に似て美しい女性に育ちそうだ」
アランの父親に声をかけられて、私はママさんに抱っこされながら振り向いた。
い、イケメン……!!
目の前で私の顔を覗き込んでいらっしゃるのは、ふさふさとした尻尾が印象的な犬の獣人でした。
最近知ったのだけど、私が転生したこの地域は砂漠のなかのオアシスらしい。
両親は刺繍の多いローブやドレスといった服装だけど、家の外で見かける人々は男性はターバンを巻き、体を覆う無地のローブを身に纏っている。
ラクダみたいな生き物に、獣人が乗っていたのを見たときは何とも言えなかった。
アランの父親も、白いターバンを巻き、きっとふさふさだろう耳は見えていない。白い毛が混じるなかで、細めた目尻からは大人の色気がむんむん出ている。あ、赤ん坊を誘惑してどうするつもり…!!
獣人らしく、というか私がイメージしていた獣人らしく、立派な体躯をしており、この町の有力者らしい振る舞いをしている。
…有力者かどうか本当は知らないんだけれど、馬鹿でかい屋敷を見て確信している。そしてその屋敷に平然と入る両親も、いいところの人だと察してしまった。
「まあ、セベリア様はお上手ですこと。今日はようやっと、フィリアとアラン様を遊ばせることができますわ」
ママさんは、うふふ、と可愛らしく笑って私をふかふかのクッションに寝させた。まだ寝返りを打てない私を他の子と遊ばせるってどういうこと!
「あう、あう〜〜」
「はい、アラン様はこちらよ」
訴えもむなしく、ママさんは私をころんと転がした。
………か、かわいい~~~!!
アラン=セベリアは子犬だった。
あと素っ裸だった。
私は乙女らしく淡いピンクのワンピースを着ていたけれど、アランは素っ裸だった。
毛むくじゃらだから要らないのかもしれないけど。
黒とグレーの混じったふさふさ毛並みで、赤ん坊らしく目は大きい。でも眠たそうに目をこする様は可愛い。
手も毛むくじゃらだけど指は5本あった。
体の大きさは私と同じくらいで安心した。これならのしかかられても潰れることはなさそうだ。
「……くぅ」
鳴き声も可愛いとかどうした……!!
鼻血が出るかと思ったぞ!
アランは私と違い、もぞもぞと動けるようだった。
私が珍しいのか近寄ってきて、手を伸ばしてきた。
「あう、あう~~……」
顔をぺちぺちと叩かれ、私は声をあげたがママさん達はにこにこと見ているだけだ。
アランは毛のない私の肌に驚いているみたい。
腕やら顔やら念入りに触ってくる。
「……くあっ」
そして小さく鳴いたかと思うと、噛んだ。
「あ、あう~~~!!」
「大丈夫よ、フィリア。甘噛みなんだから、お友達の証よ」
こちらも獣人なら甘噛み返しでコミュニケーションを取れたかもしれないけれど、人間の赤ん坊の口は甘噛みに向いてないと思います!
「くう…」
アランは私の頭をがじがじ甘噛みしていたが、顔へと移動してきた。ていうか舐め始めた。
「あ、あうー!あー!」
や、やめて!このままだと!
べろっ
「おや、アラン。フィリア殿が好きなのかい?」
「まあまあ、フィリアったら、照れちゃったのかしら」
ははは、うふふ、と笑いあうママさん達。
そんなママさん達を横目に私は呆然としていた。
アランはまだべろべろと私を顔を舐め回している。
照れたとかじゃないのママさーん!!!
娘の貞操にもっと気をつけて!!
こうして、私の転生後ファーストキッスは、犬の獣人アラン=セベリアに奪われたのでした。
ありがとうございます*