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28.初めての船旅

フィリアです。

初めての船旅は、船酔いに悩まされています。




「フィリア、大丈夫?」

ダンが、私の背中をさすってくれますが、首を横に振るのも辛いです。

水が入ったコップを持ったまま、私はダンの胸にもたれかかりました。横になると船の揺れがよりダイレクトに伝わってくる気がします。とにかく楽な姿勢を求めて、ダンに寄りかかりました。

ああ……もふもふの感触が、ローブ越しに伝わってくる……

前世で大きなテディベアに憧れていたのは私です……いえ別にダンがまさかそんな。



あの日、本国帰還を命ぜられた私達は、すぐさま馬車に乗って、そのままオアシスから最も近いシビアの港へと連れてこられました。

オアシスでパパさんが行っていた特使の仕事は、別の人が引き継ぐということで、家と使用人の皆さんはそのまま。じいやとダンは、私達についてきてくれたのです。

本当は、使者である赤髪のおじさまは私達家族以外に人が増えることを嫌がったのですが、じいやの顔を見て態度を変えました。

そういえばじいや、リーヴェル国では有名な術師なんだっけ。


私達家族とじいや、ダンを船に乗せ、赤髪のおじさまは私達をリーヴェル国へと案内し始めたのです。


それにしても、木造の船で遠海に出るとこんなに揺れるだなんて思っていませんでした。

リーヴェル国の持ち物であるというこの船は、大きな帆が3つもある立派な帆船。下層には漕ぎ手が入る階もあるようですが、今回は水の精霊の申し子である、リーヴェル国のお抱えの術師がいて、順調な航海だそうです。

うん、航海が始まって早々に寝込んだ私はまだその方に会っていません。


パパさんもママさんもじいやも、何だか色々あるようで、赤髪のおじさまとずっとお話しています。

個室をもらい、備え付けのベッドで休む私の面倒は、今ダンが見てくれています。


「ダン……早く地面に行きたい……」

「航海はあと1週間、そこから馬車で2週間で王城に着くかな。今回は術師がいるおかげで、すごく楽な航海になっているから。特に、フィリアが倒れたと聞いてから、ほとんど寝ずに術師が働いてくれているから」

思い切りもたれかかる私を抱えて、ダンはやれやれとため息をつきます。

「がんばる……」

「うん、我慢。向こうに着いたらお菓子買ってあげる」

「フィリアはもうレディになるのに……」

「フィリアはフィリアでしょ」


船酔いになって早々、私は風の精霊の力を借りて浮遊してやり過ごそうとしました。でも、リーヴェル国の人の前では、できるだけ精霊術を使わないで欲しいとパパさんに言われて、控えることにしたのです。


「ダンはリーヴェル国の出身なんだっけ…?」

「本当のところはわからないけど、リーヴェル国内でお師様に拾ってもらってからずっとお師様といて、リーヴェル国で育ってきたよ」

「じゃあ、王都にも詳しいの?案内して欲しいな」

「僕はそんなに詳しくないと思うけど……うん、一緒に王都を見て回りたいね」


ダンは私の肩をぽんぽんと叩きながら、別のことを考えているよう。どこか遠くを見ています。


「ダン、アランから借りた絵本を読むわ」

「また?読んだら酔っちゃうよ」

「いいの」

ダンは、棚から一冊の絵本を出すと私に渡してくれました。

この船に乗ってから何度も読んだ絵本は、話の内容も絵の順番も覚えてしまいました。



リーヴェル国では有名な伝承だそうで、色遣いも鮮やかに作られています。



一頁目は綺麗な森に住む人々の絵

二頁目は森が荒れ困っている人々の絵

そこから地割れや火事や水害や台風の絵が続きます

五頁目は人々の前に現れた女性の絵

地割れを直し、火事を消し、水害を止め、台風はそよ風に

八頁目は人々が女性に感謝している絵

九頁目に女性が人々に囲まれている絵


文字はありません。

文字がなくても皆知っている伝承だそう。


女性は足まで届く長い金髪の持ち主。瞳は青く、リーヴェル国ではよくある容姿だそうです。



初めてこの絵本を読んだ私は、ダンに質問をぶつけました。


ダンは「僕だって全てを知っているわけじゃない」と知っていることを教えてくれました。

それから、ダンは何も言わないし、私も聞きません。


でも、パパさんが何を心配しているのか、私もわかった気がします。


フィリア=ユーメル、両親から受け継いだはちみつ色の金髪に、ママさんから受け継いだ深海のような青い瞳。

精霊達()に愛されし申し子。


リーヴェル国では、私はどんなふうにみなされるのでしょうか。


私は、ダンにもたれかかるのをやめ、身を起こしました。

「どうしたの?」

「あのね、ダン」



ドォンッ



そのとき、大きな音を立て船が揺れました。

「なに!どうしたの!」

部屋の外に向かって叫んだのはダン。私を慌てて後ろ手に押しやります。

「海賊が襲ってきました!我々3名護衛にあたります!」

扉の向こうから聞こえてきた乗組員の返事を聞いて、ダンは顔を顰めます。

「リーヴェル国の印章が入った船を襲うなんて……」

「ねえ、ダン!お父さまは?お母さまは?」

「お師様がいらっしゃるから、大丈夫だと」

「じいやは地の精霊の申し子よ!海の上で何ができるの!」

「フィリア!」


私はベッドから飛び出し、部屋を出ようと扉を開けました。


「姫様!部屋にお戻りください!」

叫ぶ彼らの背中越しに見えたのは、打ち合う剣戟と、そして


「お母さま!」

ママさんが船室から甲板へと引き連れられる姿でした。

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