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27.SideS お兄ちゃんはいつだって

メリークリスマス!

クリスマスではありませんが、プレゼント話ということで、フィリア9歳のお誕生日話です。

神はこの地に地を築きたもうた


神はこの地に森を作りたもうた


神はこの地に子らを住まわせた


子らは森を育てた


風を呼んだ

水を流した

地を立てた

火を灯した


森は広がり、子らはより大きな森を求めた


やがて森は子らの手から離れた


風は過ぎる

水は留まる

地はつぶる

火は消える


子らは森を育てられなくなった


神は子らを憐れんだ


神は子らを愛していた


風を呼ぶ者

水を流す者

地を立つ者

火を灯す者


再び子らが森を育てられるよう、慈しむよう


神はこの地に愛を遺した



***



「わっかんない、訳わかんない……」

熊の獣人、ダンは、彼の師匠から与えられた課題に頭を抱えていた。


リーヴェル国創国記の基となった伝承を読んでみなさいと渡された詩が抽象的過ぎる。

同時にいくつもの解釈本を渡されたが、目を通せば通すほど、何を表したいのか分からなくなってくる。


「古い詩なんだから、ちゃんとした意味はないかもしれないし……」

ぶつぶつと不平を言いながらも、考えられる仮定を手元の紙に書き殴る。


お師様と一緒に、ユーメル家に仕えて早5年。

ヴァーレの丘という、幻の地に来てしまい、うっかり住み馴染んでしまった。

紙もなかなか手に入れられない秘境だが、彼が勉強家と知ったボネロ族の人々が、紙とインクを出来るだけ仕入れてくれるのは有難い。


「要は精霊の申し子なんでしょ、育てられなくなったのを、育てられるように遺したって……ああもう!」

ペン先が曲がったのを見て、ダンは休憩を挟むことにした。

紺のローブを引きずって、部屋の外に出ると、ふわりと風の精霊を呼んで居候先のボネロ族長の家を飛び出た。



午前中はダンは自習時間、フィリアは奥様とマナーの授業だ。

先日、ダンスの練習をするからと、相手役を命じられたときは大変だった。

ダンに比べて小柄なフィリアと高さを合わすところから、足を踏まれても笑顔でいなきゃいけない。

そしてステップを踏みながら、時々フィリアが「もふっもふっ、もふっもふっ」と口に出してリズムを取っているのを笑わずにいることが一番辛い。

もふもふ言ってるときは大抵ダンの手をもふもふ触ってくる。

フィリアは、隠しているつもりのようだが、もふもふという単語についてはしょっちゅう口ずさんでいる。

自分に対しても、もふもふ言ってるのを聞くのは何とも言えない気分になるが。



ダンは風を身に纏い、宙をふうわりふわり飛ぶ。

ボネロ族の少年達も自慢の翼を広げて、空を自由に舞っている。


「ダン!」

悪友の声が聞こえて、ダンは宙に留まった。

「ギル、今日も見回り?」

ボネロ族長の息子、ギルは、ダンと同じ歳で、同じくフィリアに振り回されている少年だ。

フィリアはギルを見ると、ばさばさ!と小声で呟いている。

ちなみにギルはそう言われていることに気づいていない。幸せな奴め。

「オウヨ!ヴァーレの平和は秩序をもってしてだからな!あと、フィリアの誕生日プレゼントも採りにな!」

……あ!

「ンだよ、ダン。お前、まさかフィリアの誕生日忘れてたのか?」

「いや、誕生日は覚えてたけど、プレゼントって発想を忘れてた……。旅立つ日と思って、その準備ばっかり……」

どうしようどうしよう、フィリアのことだから、なくてもいいだろうけど、あったらすごく喜んでくれる気がする。


「俺はとっておきのプレゼントだ!お前にも当日まで秘密だかんな!楽しみにしておけよ!」

ギルの得意そうな顔を見ると、よほど自信があるのが窺い知れる。

「僕は何を用意しよう……」

困った、ヴァーレは基本的に自給自足の村だから、小洒落たものを売っていることはない。

去年は奥様にお願いして、布を分けてもらってぬいぐるみを作った。白と黒のふかふかした布で自分と同じ白黒の毛並の熊のぬいぐるみを作ってあげたら、思いのほか、というよりこちらが引くぐらい喜ばれた。

一生大事にすると言って、枕元にずっと置いているらしい。


去年はぬいぐるみ、その前は手作りのお菓子。なんだかんだと、ヴァーレでもプレゼントを用意してきている。

今回は何にしようか……

「何がいいと思う?」

「ハッ!俺は悩みに悩んだ末やっと思いついたんだ。これ以上考えられねえな」

「いっぱい頭を使ったんだね…フィリアの為にありがとう」

「オウヨ!…ん?今馬鹿にしたか?してないよな?」

「してないしてない」

「ならいいんだ」

気のいいギルは満足げに頷くと、じゃあな!と言ってボネロ族の友人のところに飛んでいった。

さて、僕はどうしよう。


それから、ヴァーレの丘の色々なところを飛んで回った。思いつくまでのんびりと…と思ったが何も思いつかない。

谷底を流れる川べりに降りると、きらきらした石がたくさん見えた。

ヴァーレの丘は不思議なところで、ここでしか育たない植物がたくさんある。それはここの土壌と水質が関係するんだとお師様は教えてくれた。

きらきらした石を一粒摘まんで、ぼやく。

「宝石とか欲しがる年齢でもないよなあ…」

まだ9歳だ。綺麗なものは好きだろうけど。

そういえば、蜥蜴のシャンク族から貰ったネックレスは大事に身につけている。物持ちがいいことには感心するが、何もシャンク族から貰ったネックレスでなくていいと思う。

ネックレスだから黙っているが、指輪だったら外させている。いつかあの子が、恋をして結婚するまで、指輪は嵌めさせない。

妹をもつ兄の気持ちはこんなだろうか。兄代わりとしては、生半可な奴にフィリアは任せられない。

「よし、決めた」



ダンは、拾ったきらきらの石に、まじないをかけることにした。



奥様に頼んで、去年プレゼントしたぬいぐるみを寝室からこっそり取ってきてもらう。あと、奥様秘蔵の布コレクションからピンクの柔らかい布をいただく。

まじないをかけた小さな石を、ぬいぐるみの中に仕込む。自分が作ったものだから構造はよく分かっている。背中の糸をほどいて、綿のなかに石をしまい込む。

石には風の精霊術を封じている。お師様にも内緒で、自分で編み出した方法だ。…自分の毛を数本使うので、外聞がよくないと思っている。かけた願いは"フィリアに悪意を持って近づくものを排除せよ"。寝室にぬいぐるみは置いてあるというのだから、寝ているときも安心だ。

ピンクの布では、室内履きを作る。少し大きめに作っているのはわざとだ。これには、飾りとして、きらきらの石から作ったビーズをつけることにした。ビーズはお師様に頼んで加工してもらった。ぬいぐるみに仕込んだ石とは別に、"フィリアの身を守る風の膜を張って"とお願いした。風の精霊は気まぐれだから、抽象的な願いの方が効果は持続するし、発動回数も多い。転けたときにはクッションのような膜を張ってくれるかもしれないし、火の粉がかからないようそよ風が吹くだけかもしれない。


ぬいぐるみの方はフィリアには内緒にしておく。

今年は何にも言わず、"ただの室内履き"をあげよう。



大きすぎるって怒るかな?でも、フィリアが年ごろになるときに履いて欲しいからね。


大人になって、自分で何もかも選べるようになるまで、君の意志は僕が守ってあげるから。



「フィリア、お誕生日おめでとう」








お兄ちゃんはいつだって、フィリアのことをおもっているよ、

そんな誕生日プレゼントです。

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