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24.いい日旅立ち

「フィリア、お誕生日おめでとう」

「お父さま!ありがとう!」

「チビ!これやる!」

「チビじゃないって…ギル!これ、いいの⁈」

「私達も摘んできたんだよー。ほらほらー」


フィリア9歳のお誕生日は、ボネロ族も含めて壮大なパーティとなりました!

明日、ヴァーレの丘を出立します!





ギルのお家を開放して、パーティを開いてくれました。

ママさんがこの日の為に作ってくれたドレスを着て参加です。袖とスカートにはひだをたっぷり作った淡いピンクの綿生地に同色のレースを重ねています。上身ごろにはカリーニョピンクの厚めの生地で、スッキリとさせています。子どものドレスながら、ウエストが細く見えるようパールボタンとレースでラインが作られています。


テラスには次から次へとボネロ族の皆さんが飛んで出入りしている。

場所が足らなくなったら宙を浮いて談笑を続ける皆さん。

こ、これは夢か!天国か!極楽か!


「チビ!お前はまたヴァーレに来るんだぞ!ダンもだ。2人ともわかったか!」

ギルは、大きな袋を2つ用意して、私に押し付けてきました。

中には、ヴァーレの丘でしか育たない、そして崖を蔦って生えるため、ボネロ族しか取れない薬草が入っていました。

ダンや私も、この薬草をヴァーレの入口で燃やせばいつでも迎えに行ってやると、ギル達は言うのです。

私ひとりでは抱えきれないその袋をダンが受け取りながら言いました。

「ギル……その約束、3歩歩いて忘れないでね」

「誰が鳥頭…!いや鳥ダケド!」

「ギル!ギルは忘れても私は覚えていますわ!絶対迎えに来てくださいね!忘れて襲ったりしないでね!」

「フィリアー!てめえまで馬鹿にするのか!」

「フィリアー大丈夫だよー。ギルが忘れても私達が覚えてるからーー」

「てめえら!後で覚えろよ!」

皆でよってたかってギルをからかうと、ギルは威嚇するように翼をばさあっと広げてきます。


ああ!やはり翼の雄々しいこと!ギルってばイケメン!


私は思わずギルに抱きつきました。この素晴らしい翼とも、ふかふか羽毛のお胸ともお別れです。ギルに限らず、ボネロ族の皆さんにはだいぶふかふかしてもらいました。

寂しい……!!

「ギル…!薬草をくれてありがとう!大好き!」


ふーかふーかすーりすーり


「……!」

「っダン!睨むナ!」

べりっ、とダンが私をギルから引き剥がしました。ああ!ダンのもふもふも愛おしいよ!



(ほっほっほ、旦那様、落ち着かれませ)

(フィリアはお父さまが大好き、フィリアはお父さまが大好き……)

(オーヴェ、落ち着け、現実を受け入れろ)

(フィリアったら、小さいのにモテモテなのねえ。可愛いドレスを作った甲斐があるわ)



ヴァーレに来れてよかった。私はボネロ族の友達に囲まれて心から幸せに感じました。

そうして、ヴァーレで過ごす最後の、楽しい一日は過ぎて行ったのです。



***



翌朝、ママさんが整えた荷物と私達を、ボネロ族の皆がヴァーレの入口、つまり谷底から谷の裂け目のところまで運んでくれました。

別れを惜しむ言葉はキリがないからと、子ども達が眠る朝一番のこと。

私はギル達がくれた薬草を小さなお守り袋に入れて、ポケットに入れておきました。

胸元にはシャンク族のヴィスがくれた黒石のネックレス。少し長めの鎖に替えて、服の下に隠れるようにしています。

こうしておけば、いつでも会えるんじゃないかって思います。


「そういえばお父さま、帰りはどうやって砂漠を渡るの?」

来るときに乗ったラクダもどきは野に帰したはずです。

「うん、頼んであるから大丈夫。ほら、見てご覧」

長い長い地割れを上がりきったそこで、私は目にしました。

小柄なラクダもどきが数頭と、そこに騎乗する、ふさふさのあの方……!!


ああ、いつ見ても麗しい!アランパパーー!!!


咄嗟に鼻の辺りを手で押さえたのは秘密です。大丈夫、何も赤いのは出てない。


ボネロ族は外界との交流は望んでいません。私達をそっと地面に降ろすと、すぐに翼を翻してヴァーレの丘に帰っていきました。

ああ!翼のしばらくの見納め!




ボネロ族を見送り、アランパパ達に背を向けていた私は、迫る影に気づきませんでした。


「フィーリ!フィーリ!フィーリ!!」


懐かしい声が聞こえて、背中からぎゅうっと抱きしめられました。

苦しいぐらい、力強い腕。

相変わらず加減がわからない馬鹿力のようです。




「……アラン!苦しいってば!アラン!」

私が声を出すと、ぴたりと動きが止まりました。

戸惑う暇もなく、くるりと向きを変えられると今度は正面から抱きしめられました。

「……フィーリ!会いたかった!」


私より頭ひとつ高い背。赤ん坊の頃はまるまるしていた頬も、今では狼のような精悍な顔つきに。グレーと黒の毛並に、ぴんと立った耳が印象的。尻尾はびしばしと横に振れ、抱きしめる私の体にも勢い余って当たっています。


「アラン、私も会いたかった!元気?」

正面からアランの顔を覗き込むと、その瞳は泣いてるように潤んで見えました。

思わず、そっと手を伸ばして頬を撫でます。

ああ、つやつやの毛並にサラサラの触り心地…!アラン!素敵な獣人に育ったね!


「アラン!先に行くなと言ったのに!……フィリア、久しぶり。すごく綺麗になったから、見違えたよ」

こ、この声!というか女性に嬉しいこの一言!

「ジャン!ジャンも来てくれたの⁈」

私はアランに抱きしめられたまま、ジャンに話しかけました。

この馬鹿力、まだ離すつもりはないのか!


ジャンは真っ白な毛並をそのままに、すらりとした体躯に育っていました。白猫の獣人だけあって、しなやかな、それでいて優雅な物腰です。

「セベリア様にお願いしたんだ。フィリアに会いたくて。ずっと会いたかったんだよ」

「フィーリ!俺、強くなりたくてずっと稽古してるんだ。今度は怖い目にあわせないから!」

「僕たち、だよ。フィリア、君を守りたいんだ。まだまだ修行中だけどね」


久しぶりに会った2人は、長い空白期間を感じさせないよう、気さくに話してくれます。というか、2人は私が誘拐事件を怖がって外に出ないと思っている⁈

アランパパ!そんな風に説明していたのね!

私は、これまでのことを伝えたくて口を開きました。

「あのね、それは」



「フィリア!!!」


ゴウッ、と強い風が吹きました。私の足は簡単に浮いた。アランとジャンも風に吹かれてたたら踏んでいます。


隙をつくように、べりっとアランから引き剥がされました。

「フィリア!誰だこいつ!」

「ダン!」

風は止むことなく、ますます勢いを増しています。ラクダもどき達が立てずに座り込みました。砂嵐が過ぎるのを待つように、体勢を整えています。

「なんだ、この風!お前だって誰だ!」

「僕はフィリアの兄弟子だ!」


ダンは私を守るように背にやると、アランとジャンと向き合いました。

あれ?私、ダンにアラン達のこと話したことなかったっけ?

いやいや!それよりダン!風をしまってしまって!


私は風の精霊達に鎮まるようお願いしましたが、聞いてくれません。

むしろアランとジャンへの風当たりがますます強くなっています。

うわーん!精霊達までどうして⁈




私はにらみ合う3人をおろおろしながら見つめました。

そして気づいたのです。


あれ、オアシスのお家に帰る旅路はもしかして……

もふもふアイドル揃い踏み⁈


やったー!もふもふし放題だ!!



フィリア=ユーメル(9歳)、幸先良い一年の始まりです!!

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