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20.贅沢な身の上

手当てを受けようとしていたシャンク族の集落は、鷹の獣人ボネロ族の襲撃を受けました。


目の前で繰り広げられようとする、シャンク族とボネロ族の抗争。


え、これは、なんて夢のコラボレーション!!

じゃなくて!えっと、つまり、ど、どちらにも傷ついて欲しくないんです!!





「我々の客人を攫ったことはわかっている。返してもらおう!」


大きな翼を持つボネロ族の一人が口上を上げる。一番立派な胸当てをつけているので、偉いひとかもしれません。

入口にいたシャンク族の一人は、剣を構えながら言い返した。


「客人だと?!お前達が余所から人を迎え入れるものか!言いがかりはよしてもらおう!」

シャンク族は、私のことを隠して守るつもりらしい。

え、でも客人って私のことかな?!砂嵐に巻き込んでしまった鷹の獣人は、何しに来たとか言ってたよ!


「金髪の人間の少女がこちらに居るはずだ。精霊に加護されし少女。我々を訪れているのであり、我々は出迎えるものである!」

わ、私のことだー!!

どうしよう、今はまだ互いの口上の探り合いのよう。

ただその間にもシャンク族の人たちは、その手に長剣を握りしめていく。

ああ、ターバンに深く顔を隠すと、その鋭い金の瞳だけが見えて、勇ましく格好良いですね!



睨み合いが続く。互いに相手の様子を探っている。

臨戦態勢のなか、私はどうすべきか悩んだ。

シャンク族の人たちは親切にしてくれたし、ただヴァーレの丘を目指していたのも事実。

ただボネロ族の対応が客人になっているのは、どうしてーーーーー





「フィリア!いるのかい?!お父さんだよ!」


静寂を破ったのは、大好きなパパさんの声だった。


「お父さま?!お父さまーーー!!!」

私は毛布をはねのけると、起き上がろうとして、失敗した。

い、痛い!


「ああ!フィリア!怪我は?!」

空飛ぶボネロ族の脚を掴んで上ってきたらしいパパさん。

横穴の入口に辿り着くと、並み居るシャンク族を気にもせず、奥へずかずかと入ってきた。

絨毯とクッションの上で寝転ぶ私を見つけると、駆け寄りぎゅうっと抱きしめてくれる。


「お父さま!あのね、シャンク族のみなさまは、助けてくれたの!」

お父さまに会えた喜びでいっぱいだけれど、これは伝えておかないといけない!

「ああ、そうなのかい?それはなんて御礼を申し上げたらよいのか…」

パパさんは私を抱えると、近くにいたおじいさんに頭を下げた。

うん、パパさん、長老を見抜くとはいい目をしている。


「……お嬢さん、この人がお父上かい?」

おじいさんは、パパさんに返答する前に私に尋ねた。大きく頷くと、ようやく言葉を返す。

「我々は、精霊を奉る一族。お嬢さんのような、精霊達(・・・)に愛されし方を出迎えることができ、大変喜ばしく思っております」


パパさんは、おじいさんの言葉を聞いて、泣き笑いのようにくしゃりと顔をしかめた。


「シャンク族の方に、娘が助けていただいたのは二度目になります。いつか、このご恩を返させていただきます」




「フィーリは、鷹の獣人に攫われたのではないか?その肩の傷、奴等の鉤爪の跡だろう」

「ヴィス!」

ヴィスは、パパさんの側に来ると、私の手を握って引っ張った。

いくら父親といえど、簡単には引き渡さないというように。


「君が、5年前にもフィリアを助けてくれたシャンク族の少年だね。直接お礼を言えなくて、ずっと心苦しく思っていたんだ。ありがとう、娘を助けてくれて」

「礼なんかいい。フィーリだから助けたまで。フィーリを、ヴァーレに連れていくつもりか?」

ヴィスはぶっきらぼうに返して、私の手を離さない。


パパさんは、ヴィスに向き合った。


「確かに、フィリアの肩はボネロ族の少年によるものだ。ただ、行き違いがあったとしか言えない。今、ボネロ族は我々を客人として出迎えてくれている。私も事情があってヴァーレの丘を訪ねてきたのだ。フィリアを気にかけてくれているのだろうが、信じて欲しい」

「ボネロ族は信用できない」


ヴィスははっきりと言い切った。

一体、シャンク族とボネロ族の間に過去何があったのか、まだ武器を構えたままの彼らを見ていると、深い溝があるように感じる。



「ただ、フィーリのことは信じる。フィーリ、君がしたいことをすればいい。私は、なにがあっても君を守るから」

ヴィスは握りしめた私の手をそっと口元に寄せた。誓いの証、というのか、そっと指先に口付ける。



ああ!

チロリと見えた赤い舌先!蜥蜴特有の細い舌先!

もうなんでヴィスが私をここまで大事にしてくれるか、わかるようでわからないんだけれど、嬉しいよ!!



「わ、私は…お父さまと、一緒にいるわ」

シャンク族と言っても、ボネロ族と言ってもいけない気がした。

私の答えは"お父さま"。


ヴィスは、私の手を離した。

金の鋭い瞳で、パパさんをじっと見つめる。


「ヴァーレの入口まで、我々も同行する。そこから先は、あなたの選択だ」



ヴィスは、ターバンをほどいた。

なんということ!初めて見る頭部はツルツルとした綺麗な鱗に覆われており、少しツノのようにでこぼこの特徴がある。

か、格好良いよーー!!!!


「フィーリ、これを君に渡そう。なにかあれば、私が駆けつける。それを使って呼んでくれ」

「これは……石?」

ヴィスがターバンから取り出したのは、黒色の石。よく見たら、緑が幾重にも重なって暗く見えるのだろうか。

つるりとした石は、首からかけられるよう華奢な鎖がかけられている。


「精霊が眠る石だ。君なら、石に願えば使えるはず。それと私は繋がっている。そこから私に伝えられる」

つまり、私からヴィスへの伝達が可能ということか。

私は、痛みに震える腕で、石を首にかけた。

使うかどうかはさておき、お守りにしよう。


「ありがとう、ヴィス。あなたにまた会えて、本当に嬉しかったわ。また、ここにもお邪魔させてもらえる?」


「歓迎しよう、フィーリ。君は精霊に愛されし申し子。我々はいつでも君を迎え入れる」





そして、私はヴァーレの丘へと向かった。





フィリアの居場所はじいやとダンで探しましたが、自力で岩壁を登る暇がもったいないのでボネロ族の脚を掴んで登ってきたパパさんです。

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