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16.ぴんぽんぱんぽん

フィリアです。

迷子のお知らせをいたします。


フィリア=ユーメルちゃんのお父さま、お母さま、ただいま、お子さまが崖っぷちで迷子ですので、助けにきてください。






なぜこんなことになったのか……さかのぼること数刻前のことです。




私達はお家を出てから2週間、輿に揺られながら、砂漠を奥へ奥へと進んでおりました。

いや、ほんとは乗り心地良すぎて揺れてないんだけど気分の問題です。

これだけ脚が長い生き物だと、揺られると思うのに…どういう構造をしているんだろう。



「フィリアがもうすぐ6歳になるからね、喜ばせてあげたいと思って」

「ありがとう、お父さま!…じゃなくて、どうしてアランのお父さまは追いかけてきたの?ヴァーレの丘ってどんなところなの?」

「セベリア殿のことは忘れていいよ。よくあることだから。ヴァーレは良いところだよ、秘境というにぴったりで」



秘境⁈


パパさんは、私の質問をふんわり流しながら、ゆらりゆらりと旅を続けていました。

いやいやパパさん!6歳のお祝いといわれても誤魔化せないから!

なにより……私のハートを奪ったアランパパのこと、忘れられるわけがないんだから!あの渋低い声!長槍を構えたときの上腕筋のふくらみ!狼のような精悍な顔つき!ふさふさの尻尾!そしてふさふさの尻尾!!やっぱりふさ(略)





ごほん、やがて私達は、砂漠を抜け、岩場を行き、大きな地割れへとやってきたのです。


ここまで、砂に足がはまればじいやが助けてくれ、岩場で狭い道もじいやが通りやすく形を変え、そしてこの地へと。

もうじいやがすごいのか、平然とその道を進むパパさんがすごいのか、分からなくなりました。



「お母さま……どうして旅の荷物がそろってるの?お母さまもお出かけ先を知っていたの?」

「まあ、フィリアったら。お父さまと一緒にお出かけしたいのなら、これぐらい準備できないと駄目なのよ?さあ、ストールを巻いて。砂が口に入っちゃうわ」



……ママさんが一番すごいかもしれない。





さて、その大きな地割れに到着した私達は、輿を降りた。

「うーん、改めて見ると、なかなか深いねえ」

「ほっほ、旦那様の仰っていたとおりですのう」


パパさんとじいやは、崖を覗き込んで軽く笑い合う。

いやもう、パパさんだけでなく、じいやも行き先知っているよね⁈ねえ⁈


「ねえ、お父さま。ここから先はどう進むの?道はどこ?」

私は耐えきれなくなって質問を重ねた。だってパパさん!もうずっと秘密にして、いい加減ヴァーレの丘がどこにあるのか教えてほしいよ!


「ああ、フィリア。待たせてごめんね。ここがヴァーレの丘の入口だよ」

「丘なの?崖しか見えないわ」


ここまで進んできた道のほかは、だだっ広く広がる崖しか見えていない。

「ふふ、着いてからのお楽しみとしようか。さ、フィリア、たき火の準備をお願いできる?」


旅の道中で披露した、たき火の火種を作る程度の精霊術を、パパさんはとても気に入ってくれた。おかげでたき火当番という大役を任されている。

「え?たき火?どうして?」

「ヴァーレに行くためには、煙が必要なんだ」

パパさんの言うことは謎だらけだ。


「あとで、いっぱいおしえてもらうんだから!……おねがいおねがいおねがい………」


私はパパさんにほっぺを膨らませてみせると、ぶつぶつと"お願い"を始めた。


祈る。ひたすら祈る。

謹んで拝んでいると、ぼっ、と小さな音がして、小さな煙が立ち始めるのだ。

ダンがふうふうしたり、ママさんが絶妙に風を仰いだりして火をおこす。


パパさんは懐からなにかを取り出して、さらさらさら…と火にくべた。

焦げ臭い煙の臭いに加え、独特の臭いがする。

「あとはこれを……」

パパさんはぶつくさ言いながら、煙を払ったりし始めた。

ん?もしや狼煙では?



一歩間違えば滑り落ちるんじゃないか、という崖っぷちで作業を続けるパパさん。

ママさんとダンと私は少し崖から離れたところでその作業を見守っている。


「ねえ、ダン。お父さまは何をしてるんだと思う?」

私はダンに問いかけるが、ダンはだんまりで答えてくれない。

あ、今喋るとパパさんの作業を台無しにしてしまうかもしれないからかな。



うーん、暇。

パパさん、暇だよ私。

「お父さまー。なにかお手伝いできることはありませんか?」


私はパパさんに話しかけようと、ママさんやダンと離れて一歩ニ歩進んだ。





ぶあっ


顔に突風が吹きかかり、私は思わず目を閉じた。

ダンがなにか喋ったのか、と考えると同時に、肩に激痛が走る。



「いっ!いたい!いたい!」





「フィリア!あなた!フィリアを離しなさい!!」

「フィリア!目を開けちゃだめ!目を閉じてて!」



ママさんの悲鳴のような声と、ダンの叫び声が聞こえる。目を閉じてろって言われても、痛くて痛くてそれどころじゃ!


私は足をじたばたさせる。ぶんぶんと足を振って……ん?足が、浮いてる?




「ウルサイ!だれだ、おまえたち!ニンゲンがこんなところまでくるなんて、アヤシイぞ!!」


頭上から知らない声が聞こえてきた。


肩の痛みに顔を顰めながら、私はそっと目を開き、愕然とした。




地面が


はるか足下に。




私、


ついに空を飛んだか!!




「ええええええ?!」


「フィリア!落ち着いて!僕の声を聞いて!」

わあ、ダンはどこから見ても素敵なもふもふボディだなあ。

さっきから風がびゅうびゅう顔に当たってるんですが、ダンが叫んでるからですね!



私は、おそるおそる、頭上へと目線を上げた。



まず目に映ったのは、肩に食い込む鋭い爪。


頭上の影は、鳶色。

私の身長の数倍はある、大きな大きな翼。



「………え!」


叫んだ私と目が合った。

あ、嘴もある。


嘴が小さく開くと、こんな音が聞こえた。



「ヴァーレになにしにきた!ニンゲン!答えないと、チビを落とすぞ!」







「………か」



鷹の獣人だよ色が薄いよヒナじゃないの翼も爪も嘴もあるよ服なんか着てるよ




「格好良いよーーーーーーーーーー!!!!!!」






フィリア=ユーメル(もうすぐ6歳)


魂の叫び声は、砂嵐を巻き起こしてしまいました。






べ、別に、ばさばさくんは、ダンくんとフィリアで軽そうな方を選んだわけじゃないですよ!



(アランくんとジャンくんの閑話を挟むか迷っています)

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