13.良い子でばかりもいられない
本日2回目の投稿です。
ご注意ください。
フィリア=ユーメル(5歳)、今日はアレを試してみたいと思います。
異世界転生して5年、誘拐事件や不思議能力判明がありつつも、金髪美男美女のパパさん・ママさんのもとで楽しく暮らすことができています。
前世では絶対着ないような、綺麗なワンピースやふわふわのドレスを着て、美味しいご飯にふかふかのベッド。
なんて恵まれた環境!
極め付けはもふもふの獣人という目の保養があることです。
最近、兄弟子のダンをこっそり見てるのがマイブームです。
熊の獣人というダンは、他の獣人に比べてまるまるボディです。
遠くから見た姿はパンダが紺色のローブを着て二足歩行をしているそのもの。
例えばじいやに頼まれて本を運んでいる姿。分厚い辞書のような本を数冊抱えて、えっちらおっちら運んでいる姿。前が見えないのか時々立ち止まっては本から顔をひょこっと横に出す仕草。疲れると、適当なところにぽてん、と座ってぼおっとしている姿。
か、かわいい………!!!
可愛いよダン!!
ええい私のハートも鼻血も叩き売りだよこのやろう!
成長すると手足がすくすく伸びるらしいから、ころころと丸くて可愛いのは今のうちだけだね!
ああ可愛いよう……!!
いかん、興奮し過ぎました。
そんな感じで異世界生活に順応してきた私は、憧れだったアレを試すことにしました。
精霊の申し子、と言われたときにまず思ったこと。
そう、空を飛びたい!!
身ひとつで大空へ!あいきゃんふらい!
まずは服です。
手持ちの服は全てスカートなので、洗濯場からこっそりダンのズボンを借りてきました。
腹囲は……うん、まあぶかぶかだよね。
これをいつものワンピースの下に履きます。
空を飛びたいと思ったとき、風の精霊に"お願い"したら出来るんじゃないかと思ったのです。
私の体が浮くぐらいの強風で煽ってもらえば出来るんじゃないかなって。
でもスカートがめくり上がったら恥ずかしいもので。
これでも乙女ですから。
あとは場所です。
周りに何もないところだと、万が一落っこちたとき掴まるものがないし、ごちゃごちゃあり過ぎると、引っかかったりぶつかったりして怪我をしそうだ。
屋敷のなかをうろちょろした結果、私は裏庭の一角、高い塀のそばで試すことにしました。
……さて、改めて実験するとなると、怖いものがあるな。
女は度胸!乙女は純情!
さあ、フィリア今こそ!
「……おねがいおねがいおねがい………」
私はぶつぶつ唱えながら風の精霊に祈った。
集中力がないから、一心に祈るのって難しいよう。
ふあっ
足元にそよ風が吹いた。
と思ったらどんどん風が強くなってきた。
足元限定の台風みたいだ。ああ、やっぱりスカートがめくり上がってる!
ぶおっ
と音が聞こえた。
「ひやあああああああ!!!!」
風の勢いが増した途端、私の体は軽々と宙を舞った。
ぽおん、と人形を投げたときのように。
頭が下に、足が天に、ぐるぐる回りながら吹き上がっていく。
塀に掴まるどころじゃない、塀よりはるか上に上に体が吹き上がる。
うっ……目が回って……
「フィリア!!!!」
遠のく意識のなかで、自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。
あ、風が弱まっていく…
フィリア=ユーメル(5歳)、生きていますように……
思わず願ってしまいながら、私は地上へと落下していった。
もふっ、と抱きとめられた気がするから、天国に行けたのかもしれない。
最後まで馬鹿なことを考えて、私は意識を手放した。
熊の獣人、ダンくん(10歳)
ユーメル邸のご飯が美味しすぎるため、ただ今ダイエットに励んでいるそうです。




