種族 ‐それはおーがとであったはなし‐Ⅱ
『オーガ』
血のように赤い身体と角、銀髪が特徴の亜人。
好戦的な性格であり、勝ち負けにこだわらず戦いに興じる……が彼らが好むのは虐殺ではなく、生きる為の戦い。
その特徴から科学技術などには疎く、簡単な計算すら出来ない。 のだが、妙に勘が働く。
角の数は生まれてから決まっており、これが優劣を象徴することはないが彼らの歴史の中では角が多い者は英雄の素質を兼ね備えているらしい。
身長は低くても2メートルを優に越し、高い者は4メートルもあるのだから『山』という例えは的確だったと思う。
そして、僕はそんなオーガ達の住処へと連れて来られたのである。
「…………」
屋外。 目の前には瓦礫と鉄パイプで造られた1階建ての家が1軒。 その他の家が藁や泥を固めた造りであることから、この家に住む者は相当な身分であることが伺える。
僕は赤鬼達に囲まれている。 手を縛られているわけではないが後ろに手を組み、正座をし、彼らと顔を合わせないように俯く。
「……人間よ、顔をあげなさい」
瓦礫の家から出てきたのは2メートルもない老人の赤鬼だった。
「はっ、はい」
「……ふむ、これが人間か。 我々とは似ても似つかぬ」
日本語を話す老人の赤鬼。 額の3本角は鈍く輝き、彼が歴戦の猛者だったのかと思わせる。
「日本語、喋れるんですか?」
「多少はな。 しかし、驚いた。 人間は全員死んだと思ったのだが……」
「…………」
彼の言葉に僕はまた俯いてしまった。 やっぱり、事実だったんだ。
「彼らは乱暴だった。 我々の提案をあっさりと蹴り、武力を行使してきた」
「それは、本当なんですか?」
「ああ。 彼らとの会議には私を含めた4種族の長老が出席したのだ」
「4種族?」
「我らは『ファンタスマゴリア』―――遥か彼方の世界から来た者。 オーガ、ウィンディネ、エルフィン、ノームからなる万物の体現者」
大きく身振り手振りを交えての説明をする長老。 彼ら独自の言語も混ざってはいるが大まかなことは理解出来た。
地球の裏側に存在するのが『ファンタスマゴリア』。 世界を遥か昔から支配(あるいは観察)してきた者。
長老のように人間と交流を交わしていた者がいることから一部の要人はその存在を認知していた。
ファンタスマゴリアは世界の名であり、種族の名でもある。 オーガならファンタスマゴリア科オーガ目、みたいな(これが正確に表現出来ているかも怪しい)。
「ファンタスマゴリアは危機に瀕していた。 数百年に一度、中心部に眠るコアが通常より高い熱を発し、世界を焼き尽くしてしまうのだ」
「それでこちらに……?」
「うむ。 コアの暴走が落ち着いた頃に我々は再びファンタスマゴリアに戻り、国を再建するのだ」
「だったら、どうしてこんなことに……」
「スノリラナゲナキゴエノナダ!」
オーガの1人が声を荒らげる。 よほど興奮しているのか一言一言発する度に足踏みをする。
「ダノケ!」
長老の一喝。 歴戦の勇の言葉なのか若いオーガはすぐに冷静さを取り戻した。
「今、彼はなんて?」
「今の時代の人間が傲慢であると。 昔に比べ、心に余裕が無くなったのだろうな」
「……そう、ですか」
やっぱり現実を突きつけられるとなんとも言えない。
「若者よ、これからどうするつもりだ?」
「どう、しましょうか……」
今、僕がいる場所がこんなに荒れ果てているのならどこに行っても多分、同じだ。
「考えがまとまらぬのであれば、この者達に人間の知識を与えてやって欲しい」
「知識、ですか?」
「もしかすると人間の技術があればコアを永久的に暴走させることも無いと思ってな」
長老の言葉に僕は頭を掻いた。
「じゃあ、とりあえずお世話になります」
「ならば宴の準備をしよう」
長老が立ち上がりオーガ達に指示を出す。 彼らはあちらこちらに散り、祭壇やテーブルを用意し始めた。 中には日本の店から持ってきたであろう汚れた椅子もある。
「あの……」
「どうした」
「……人間への悪意はあったのですか?」
思わず口から出てしまった言葉。 彼らを含めた全てを恨んでいないと言ったら嘘になるがはっきりさせたかった。
「……多少はあったのかもしれぬ。 遥か昔からの約束を裏切られたのだからな」
「…………」
「しかし、それはあくまで私個人の考え。 他の者がどう思っているかなど知らぬ」
宴が、始まった―――