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異世界放浪~クラフトワークス~  作者: 紫野玲音
第三章 セドゥーナ学園・前編 学園生活と影
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95 錬金術師の目的

 

 学園の爆破事件と、闇オークションの摘発(てきはつ)は、ポルタベリッシモ全体を震え上がらせた。

 爆破事件の指名手配犯として、イヴァン・イアヴェドウズの人相書きが出来上がった。

 このイヴァンという男は、履歴書全てが出鱈目(でたらめ)で、結局は外国人であるという以外全て謎の人物だった。

 グラウベン氏たちは、かなり大変な思いをして、調査してきてくれたらしい。

 ラッチ・リーことトム・ロックは、未成年であるため手配書には載らなかった。カイトもギリギリまで追い詰めたと言うが、残念ながら外国に逃げ込まれてしまった。

 その外国というのが、国交が結べていない唯一の国、アーテー帝国だったのだ。


「ガキなのに、老獪(ろうかい)なやつだ」


とカイトが吐き捨てるように言っていた。



 闇オークションの黒幕が遂に明らかになり、フリン商会の頭取で富豪のガース・フリンが逮捕され、セドゥーナ全土で激震が走った。

 しかも、違法魔石や盗品などが、彼の自宅から多数押収されたというのだから、庶民にとっては驚きだ。

 また、ねずみ講による詐欺まがいの商売も摘発され、フリン家の名前を地に落とした。

 商社と豪邸は抵当(ていとう)に入り、まさに砂の城が崩れるが(ごと)くの有り様だ。

 しかし、ガース・フリンは、未だに裁判で勝つつもりでおり、不敵な態度を崩さないでいた。

 噂によると、外国に隠し財産がまだたんまりあるらしいのだ。本当に食えない、狸な爺さんである。


 連休の明けた学園は、壊れた校舎は元に戻ったものの、中の備品などがすっかり駄目になったので、火魔法科、草魔法科、薬学科はしばらくその後始末に明け暮れている。

 特に、薬学科は爆破規模はそれほどでもなかったが、ストックしていた薬類が多く駄目になり、すっかり肩を落としていた。

 一方最も被害が多かった火魔法科だが、授業で自分たちの放った魔法の被害が周囲に出やすいため、元々何もない学舎だった。そのため、直ぐに授業に入れるまでとなっている。

 イヴァン・イアヴェドウズの研究室の場所が、他の棟と違った場所にあったため、コの字型の内側である魔法棟が多く壊れたのだった。


 アーシアは、イヴァンの研究についての調査を続けていた。具体的な火薬や爆弾の方は、あまり詳しくないのでアレッサンドロ博士に助言を乞うことにした。

 事件の調査書をアレッサンドロと共にまとめることとなっていたので、丁度良いだろう。



「失礼します。アレッサンドロ先生、アーシアです」


「ああ、入りたまえ」


 アレッサンドロの部屋はいつも通り雑然としていたが、デスクの上は片付いて茶封筒が置かれていた。


 今日も彼はいつも通り黒っぽい服の上にくたびれた白衣を着て、黒い髪の毛は(もつ)れるように垂れている。不思議なものでこの目の前の博士はあの今回の騒動の渦中の人物とそっくりだ。

遠目で咄嗟(とっさ)に見ると見分けがつかないだろう。アーシアはそうは思わないが、寧ろ巷は怪しい雰囲気ならアレッサンドロの方が上だ、と言うだろう。


 アーシアも2部の大きな封筒を持って来ている。マドカは、久しぶりに兄弟たちのところだ。

 アレッサンドロの助手の2人も、爆破後始末に駆り出されていて、しばらくいないのだそうだ。

 今日は応接セットでなく、博士の研究デスクに案内された。補助椅子も前に置いてあって、そこに座る。

 デスクの上には茶封筒があり、そのすぐ横には、年季が入って紙の端が波打ったようになっている研究書が無造作(むぞうさ)に置いてあった。アレッサンドロ個人のもののようだ。

 二人は先に、イヴァン・イアヴェドウズの作った爆弾の調査書を仕上げた。

 アーシアの知らなかった、地方で使われて爆弾などの情報もあった。それぞれの爆弾は同じ種類はほとんどなく、似ていても微妙に違っていたので、実験も兼ねていたのだろうとの見解だった。

 地方の方は、特にモンスター誘発薬が混入しており、魔石も風魔法系のもので少ない量で絶妙に誘発剤の効果を高めるものだった。


「まあ、腕のいい錬金術師であるな。

 きっと、今までの彼をみるに、薬剤師よりも錬金術師としての才能の方がある。

 それに、この爆弾の製法は…きっと、アーテー帝国のものだ。我輩でも知らぬ技術があるからな」


 アレッサンドロは、デスクの後ろをうろうろし、考えるように腕を組んだ。


「あそこは、特に軍事錬金に力を入れているのだよ。

 そのため付属的にほかの錬金術も研究が進むのでな、あの国を態々(わざわざ)目指す者もおるのだよ」


 そんなことを言うアレッサンドロだが、アーシアは今回の件を振り返り心の中で、アレッサンドロは素晴らしい錬金術師なのだろうと思っていたのだ。なぜなら彼が、トム・ロックが態々アーテー帝国からの周到(しゅうとう)な諜報のため、長い時間を掛けて接触しようとしていた対象人物だったからだ。


「そのう、少しご相談したいことが、あるのですが」


「なんだね?我輩は、爆薬の専門だ、余りほかの分野はわからんが」


 アーシアは、持ってきた薄い方の茶封筒から、一枚紙を取り出した。

 イヴァン・イアヴェドウズの研究記の一枚の最も分からないものだった。


 〈エリクサー〉→〈常若の薬〉←〈キトリニ〉血脈石、竜核石

               ←〈アマルガム〉


 と、他の紙よりも比較的読めるが、殴り書きのような字と線が伸びているレポートだ。

 どれどれと、アレッサンドロは、眼鏡を持ち上げて紙を覗き込むと、手を顔に被せるようにして、はははと笑い出した。

 しかし、その笑いは面白がっているというより、空虚な乾いた笑いだった。


「がはは、野心高き空想家の『錬金術師の夢』、であるな。

 可笑(おか)しなものよ。いったいどんな夢想家なのだ。

 この我輩でも、こんな研究、真面目にやろうと思わん…」


「いったい何の研究なんですか?」


 アレッサンドロの様子に、驚いたアーシアは、おどおどしながら質問した。


「究極の錬金術師の夢のレシピとは、なにか知っているかね?」


「い、いいえ…」


「この図は、一つの錬金物が最終的にできることを示している」


「…では、一番の目的は…

 …この矢印によると、〈常若(とこわか)の薬〉ですか?」


「そうだ、〈常若の薬〉など、エリクサー、復活薬以上の伝説の薬だ。

 良識のある錬金術師みな、空想上のものだと、認識している。

 ーー永遠の若さ、不老不死の薬と謂われておるのだ。何とも、荒唐無稽(こうとうむけい)であろう」


「そして、この右の名前な、錬金合金と素材の名前で、それらも幻のアイテムだ。

 錬金術師の究極のレシピというわけだな。血脈石も竜核石も死の原の奥地にしかないアイテムだ。

 血と名につくだけ、赤い色をしていると言われているよ……」


(え?血脈石って、幻のアイテムなの?どうしよう、わたし持っているんだけど…)


「け、血脈石とかは…あまり手に入らないものなんですか?」


「うむ。聞いたこともないな、稀に破片が収集家のコレクションのため裏で高値(たかね)で取引されていると聞いたことがあるがな…」


「じゃあ、闇オークションの傍を爆破したのは…その、血脈石のため?」


(そうか、元々は血脈石や竜核石、爆破材料に使う魔石を探してて…黄金のキトリニがヒットしたのね…)


「うむ、そうか、そうかもしれんな」


 ガタンガタン、ダンダンダン。

 研究室のドアが、急に激しく叩かれた。直ぐにドアが開けられ、ピンク色の塊が転がるように入って来た。


「ア、アレック~~」


 化粧の顔を涙で濡らしながら、体当たりするように部屋に入って来たのは、クリュメ・フリンだった。

 ピンクに小花が散ったハンカチーフを握りしめ、腕には小さなピンクの皮のクラッチバッグを掛けている。

 頭に被っていたふわふわしたつばの広い帽子が、勢いよく入って来た衝撃で落とされると、その栗色の髪が(あら)わになった。

 クリュメは、脇目も振らずアレッサンドロに抱きつこうとしたが、彼はそっと長い手を伸ばし押し止めた。


「あ、あれっく?」そう少し驚いたようにクリュメは、呟いたが直ぐにまた元に戻った。


「アレック、私っ、の、イヴァンが、いなくなってしまったのよぅ!

 ど、どうしたらいいの?……う、うう、お父さまの捕まってしまうし、外に出ると変な人が寄ってくるから、

 ここに来るのもやっとなのよ。うう、イヴァ~ン」


 アレッサンドロに近づけないと分かると、その場でめそめそしだした。


(えっと、クリュメさんって、アレッサンドロ先生の元許嫁でなかった?なんでここに来たの?おかしくない?)


 アーシアは目をまわした。よりによって自分が酷く振った相手である、どうして彼に頼ろうと思うのか…

 アレッサンドロは、渋い顔で彼女を見ていた。じっと、立ち(すく)み複雑な表情を顔に浮かばせている。


「ク、クリュメさんは、…」





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