94 爆せる日常と影の研究記録
爆音の元へと急ぐと、学校に残っていた生徒たちと職員が騒ぎ、惑っていた。
行ってみると、爆心地は、火魔法科と草魔法科の間くらいで、建物は見事に崩壊し、中庭まで崩れていた。
中庭は元々あまり植物もない運動場に近い場所のはずだが、境に植えられていた木が異様に伸びて、その建物の崩れた場所を覆うようになっていた。
中庭の反対側には、残っていた学生や教員が避難して集まっており、そのすぐ前には、セドリック・グリーン先生が力なく座り込んでいる。
執行部の男性たちは、崩壊した建物へとまっすぐ進んだ。
「ナオミ!」
カルラが叫ぶと、セドリック先生のすぐ横で介抱していたのがナオミ先生だった。
ナオミもそこにいる皆と同様、顔と着ているもが煤に汚れている。
「カルラ!」
「なにがあったの?怪我人は?」
ナオミは息を乱しながらも、気丈に説明を始めた。
「私たちは、セドリック先生の草魔法に助けられて、無事だったの。
多分一番、爆破場所に近かったのも…私たちよ。
今日は、連休の中日でほとんど学生も教師もいなかったのが幸いね…
この子たちは私の生徒で、ちょうど研究を一緒にしていたの。そこのハーブ園に行く近道が…
庭木の手入れをセドリック先生がしていて…偶然、助けてくれたの」
つまりはセドリックがいなかったら、犠牲になっていたということだ。
カルラたちは、青ざめた。研究棟にも教師が偶然ほぼおらず、学舎は偶然にも誰もいなかったようだ。
ステファンが、近寄って来て、中の被害状況を伝えたが、ナオミとほぼ同じ内容だった。
カルラがステファンに近づいて小声で聞いた。
「イヴァン・イアヴェドウズは?
瑞樹が、追っていたんだけど…急に爆風に巻き込まれたのが見えて…
瑞樹自身も、危なくてギリギリだったから…」
「イアヴェドウズのものらしい私物は見つかりましたが、本人は不明です。
血痕も少し残っていましたが…
彼が犯人じゃないんですか?」
カルラは困ったように顔を顰めた。
「それが…わからないのよ。ちょうど見えなくてね。
やったとしても、あんな逃げられないようなタイミングでやるかしら」
イヴァンは、自分の部屋を朦朧としながら自分の部屋を出ると、今度移らなくてはならない研究棟のある方へ向かったそうなのだ。
そこは草魔法科に最も近い場所で、彼が爆発現場に一番近かったと言えた。
瑞樹は、爆風に飛ばされ、防御魔法を掛けながら中庭へ逃れたので、彼がどこにいるか分からなくなってしまったのだった。
「瑞樹さんは、どうしているんですか?」
「ええ、無事そうだけど…怪我をしてるかもしれないわ」
そう言って瑞樹を呼ぶと、近くの木陰から大きな鳥が飛んで出てきた。
カルラは瑞樹を、抱き上げると、瑞樹はかなり消耗しているのが分かった。
「君たちは、一度、詰め所の方に戻っていてくれませんか?
あとは、私たちがやります。」
ステファンに促されて、アーシアとカルラは詰め所に戻ることになった。
ナオミたちは、錬金学部棟に一時避難することになった。
薬学科は、爆破現場にほど近く、建物も半壊していた。回復薬のある部屋もだった。
なので、錬金科が避難所に選ばれた。そこにはポーションもあったので、丁度良かったのだ。
雑然とした広い詰め所部屋で、瑞樹が一人掛けソファで羽を休めている。カルラは瑞樹の傍らで心配そうについていた。
アーシアは、空間収納から回復ポーションを出してカルラに渡した。
「ありがとう」
マドカも心配そうに瑞樹の近くで座っていた。ポーションは、直ぐに効いたようで、瑞樹の羽の毛艶がみるみるうちに蘇っていった。
「そういえば、アーシア、さっき、ここに来た時、何か書類を持っていなかった?」
「ああ、それがですね…」
マドカが昨日、イヴァン・イアヴェドウズの部屋に入って持ってきた書類だと説明すると、
「それは、凄いじゃない。内容はどんなことが書いてあったの?」
「いえ、まだ全部見れてないんです。調合の材料やレシピなど研究記録のようなんですが」
「なら、今時間があるから見ちゃっててもいいわよ」
アーシアはそういわれて、書類を手に取って、眺め始めた。
やはり、かなり稀少な回復薬でも作るかのような材料の名前と、それには関係のなさそうな鉱物、血脈石の名前もあった。
魔石の種類と、かなりレアな合金の名前など、支離滅裂な印象だ。
また、ほとんど何も書いていない一枚には、
〈エリクサー〉→〈常若の薬〉←〈キトリニ〉血脈石、竜核石、
←〈アマルガム〉
(キトリニがあった…やっぱり探していたんだわ。じゃあ、合金の一種とみていい?
それに、【エリクサー】?【常若の薬】はエリクサーの上位種ってことかしら?【エリクサー】なら作ったことがあるわ。でも、材料に鉱物なんて使わない…
スキルウィンドウを見たら、またわかることがあるかもしれない…)
次のページを捲ろうとすると紙同士がくっついていたため、書いた文字が消えないように、上手に気を使って剥がした。
「こ、これは………」
鉱物名の横に小さく『火力調整:0.3単位』という数値が付いている…何度か修正があり、かなり具体的だ。
──爆弾のレシピの研究だった。魔石の破片のサイズや配合分量も書いてあった。
ビンゴだった。彼、イヴァン・イアヴェドウズが一連の爆破事件の爆弾の製造者だ。
「カルラさん!!爆破事件の爆弾を製造したのは、イヴァン・イアヴェドウズです」
カルラはばっと立ちあがって、アーシアから、書類を受け取った。
「すみません、昨日のうちに確認していれば…」
「いいのよ、これで確実に指名手配犯になったわ」
爆破事件によって崩壊した建物は、岩魔術師総出で修繕して、連休明けには普通に使えるようになるとのことだった。
やはり魔法はすごいなと、それを聞いてアーシアは、直ぐに思った。
被害者は出ておらず、本当に運が良かったと皆口々に言った。
アレッサンドロ博士による、トム・ロックから押収した爆弾の解析が終わり、それは時限式で時間になると爆発するタイプであることが判明した。
錬金の方法は、セドゥーナ学園などが使うメジャーな方法ではなく、魔石を砕いたものを素材の一つに用いるものだった。
アーシアの手元にある証拠のレシピを、見せると、「ああ、この通りだ」と、アレッサンドロ博士も言っていたので、間違いないだろう。
今回の学園の爆破事件に関しては、アレッサンドロも、十中八九イヴァン・イアヴェドウズの仕業だと言っていた。
この時限爆弾を、自身の部屋にセットし、そして外に出たのであればできる犯行だ。実際、現場検証でも爆弾のあったとされる場所はイアヴェドウズの部屋周辺だった。
「証拠隠滅もかねてね…それにしても自分も死ぬかもしれないのに、
乱暴なことをするわね」
また、闇オークションの書類の中から、ガース・フリンに繋がる証拠も出てきた。あとは、令状を取るだけだった。
今朝、カルラから魔石探知機を貸してほしいと頼まれて渡しておいたところ、ガースの家にはあるはずのない物が根こそぎ発見できたため、それも証拠になったそうだ。
「ふふ、これが表に出たら、大騒ぎになるわね」
カルラの読みの通り、ガース・フリンの自宅を探知機で使うと、隠し部屋から違法魔石が沢山出てきたとのことだった。
「これでもう、逃げられないわ」
と、カルラは美しい唇を弧を描くように開いて、小声でにんまり笑っていた。
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明日は二話更新です




