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異世界放浪~クラフトワークス~  作者: 紫野玲音
第三章 セドゥーナ学園・前編 学園生活と影
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90 尋問

 

 翌日また、朝から執行部の所有する魔獣の馬車に乗って、トム・ロックの尋問(じんもん)へと向かう。

 収穫祭は、2日目で益々人出も多く、華やかだ。休日中の私服姿の学生がソワソワしながら、街行のロータリーに並んでいるのを横目に、アーシアたちは馬車に揺られた。

 今日は、昨日と同じくカルラとフリムカルドの3人だ。ああ、マドカも入れたら4人? 

 ……3人と1匹だ。


「アーシアは、乗馬ができないんだっけ?」


 カルラが困ったように聞いて来た。アーシアは、恥ずかしくなって(うつむ)きながら、首を振った。


「お、お恥ずかしいんですが。学園にいる間に、覚えようと思っているんですが……」


 乗馬のレッスンは、一般学部ならばいつでもあるのだが、魔法学部は、春と夏の長休みの間に集中講座があるだけだった。


「エゲリア森公国は、山や森が多いので、乗馬をしない人も多いんですよ」


 フリムカルドが、フォローするように口を挟んできた。今日も昨日同様スーツ姿だが、色がやや明るめだった。


「春休みか~、もっと早くできないかしらね。

 そうだ、棒術のレッスンの時に、乗馬訓練もしましょうか?」


 カルラが明るい声を出して言った。今日のカルラは、いつもの通りピカピカの銅色のくるんと胸の上あたりで巻いた髪に、緑色のスレンダーなツーピースを着ている。


「え、いいんですか?」


「もちろんよ。時間はある?」


「もしよかったら、俺も、協力しますよ。

 俺の従魔は穏やかな性質なんで、乗りやすいと思いますよ」


「あらあら」カルラは可笑しそうにくすくす笑い声を上げた。

 アーシアは、今度から貸馬を利用することができると、心の中で喜んでいた。




 午前の空気の中、警察署のエントランスには一般人も多くいた。

 窓口へ行くと、カルラたちの顔を見るなり、直ぐに担当者が飛んできた。昨日の中年刑事の方ではない。


「そういえばお陰様で、あの薬が効いたようで、容疑者もボチボチ話し出しましてね。

 あれ、よく()きますね~――解毒剤じゃなくて自白剤じゃないですよね。

 ただ、どうしても話さない内容がありましてね、毎度聞いてもダメなんですわ」


 案内の刑事が、カルラに向かって熱心な調子で話しかけてきた。

 ふんふんと笑顔のまま、カルラは相手の話を聞きながら、廊下を歩いた。


 その警官に案内されて、昨日の尋問室のそばの部屋に入る。

 そこは、狭く人が横に並べる程度しかない広さだった。小さな窓枠があり、幅の四角い縦格子が斜めになって反対側から見にくい作りになっている。

 隣の部屋から、昨日の中年刑事の声がした。


「……では、欲しい出品物を手に入れようとして、爆破事件を起こしたということで間違いないな?

 それを命令したのは?」


 カサついた弱々しい声が答える。そしてそれは、(かす)れて、砂を噛むように途切れた。

 格子の間から、椅子に座って答えている砂色の髪の青年がいた。今日の様子は馬鹿に幼く見えた。


「魔石の方は、錬金術師だ」


「お前の主人か?」


「まあ。よくわからない」


「キトリニとは、なんなんだ?オークション関係者は口を(そろ)えて装飾品だと言っていたが……」


「キトリニなんて、ないよ。あんなもの、迷信(めいしん)だ」


「しかし、君の主人は、欲したんじゃないかね?」


「……そうだな。でも、本物じゃないって、怒ってたよ」


「……その錬金術師は、何に使うと言っていたかね?」


「……さあ、夢みたいなもんかもな。何か、作ろうとはしていた」


「キトリニそのものではないということか?」


「さあ、わからないよ。キトリニそのものかもしれないし、どっちかなんて興味ないから」


「その錬金術師の名前は?」


「……グッ……」


「……闇オークションの出品内容は知ってきたのかね?」


 トムは(わず)かに頷く。「俺はいわれた通りにしただけだ…」



「では、ノシュアラト卿とは?」


「……黒幕じゃないか?」


「その本当の名前は?」


「……」


「では、話を変えよう、君は学校で親しくしている年上の女性がいるね」


「ググッ……」


「恋人という訳ではないのだろう?」


 トムは、急にキッと刑事を目をぎらぎらとさせて(にら)みつけると、激しく頭を振った。


「皆が名前を知っているんじゃないかな?なぜ、言わないんだね?」


「……」


「では、黒幕はノシュアラト卿かね?」


 トムは血走った眼を見開いて、大きく頷いた。


「では、ノシュアラト卿の正体は?」


 トムは苦し気に(かお)を歪めたかと思うと、声を震わせて叫んだ。


「そうだと言っているだろう!!」




 刑事は、ぎゅっと目を瞑ると、また相手に見合って、続けた。

 薄暗い尋問室に、鉛のような沈黙が落ちた。その沈黙を破って刑事は続ける。


「君は、ラッチ・リーでいいんだな?

 では、君の言う錬金術師は、君の傍、例えば学園に居たりするのかい?」


 トムは、ガタンと両足で床を踏み鳴らして、前に()め寄った。


「だから何だって言うんだ!本名なんか使うかよ!」


「で、錬金術師は、どこだ?君らのアジトは?」


「……」トムは苦し気に貌を(しか)めて、涙ぐんで口を噛みしめた。


 刑事は深く息を吐きだすと、手に持っていた書類を、机の上で揃えて立ちあがった。


「一旦、休憩だ」



 中年の刑事は、部屋に一人警官を残して、廊下に出て行った。

 隣の部屋にいたアーシアたちも続いて部屋を出る。


「やあ、今日もご苦労様です」


 刑事が言った。カルラとフリムカルドは鷹揚(おうよう)に頷き、アーシアはペコリとお辞儀をした。


「やあ、あの薬、助かりましたよ。

 さすがは、アルディア最高峰の学園ですね。

 ……しかし、こんなに強い精神魔法を掛けられるとは――余程の手練れでしょう。

 思い付く限りは、例のA級指名手配犯くらいしか思いつきませんよ……」


「指名手配犯?」アーシアは思わず呟いた。


「ああ、もうすごい爺さんですよ。生きていたらですがね」


「あいつは、無理でしょう……きっと、生きていたとしても、セドゥーナには入れない……」


 カルラが、珍しく渋い顔をした。刑事は持っていた書類を確認しながら若手に渡した。


「これから休憩を挟んで、エージェントさん側の時間になりますが、どうなさいますか?」


「あ、あのう、わたしもか、彼と話を少しさせてもらえますか?」


 アーシアが思い切って言った。どうしても訊ねてみたいことがあったのだ。


「「もちろん」構わないですよ」


 アーシアは、ホッとして微笑んで礼をした。胸のマドカは静かでまるで寝ているみたいだった。



 10分程経って、フリムカルドを先頭に尋問室に入っていった。

 これを、と言われて、それぞれ書類を一部ずつ渡される。先ほどの調書の写しらしい。

 トムの様子は、変わらず表面的には落ち着いて見えた。


 フリムカルドの尋問が始まったが、トムの返答は先ほどとほとんど変わりがなかった。

 ただ、疲れが溜まってきているのか、やや朦朧(もうろう)とした様子も見られた。

 そして尋問も最後になって、アーシアの番になった。トムは珍しくアーシアを黒々とした瞳で真正面から見つめた。


「ねえ、トム。――学校楽しかったんじゃない?

 錬金術、好きなんでしょう?アレッサンドロ先生の……授業だって来年受けられるのよ。

 本当は、受けたかったんじゃないの?」


 トムの目にみるみる涙が浮かんだが、苦しい表情を浮かべると、直ぐにキッとアーシアを睨んだ。


「あの、赤い魔石だけど……あれはどうして持っていたの?」


 トムは、一瞬表情をなくして唖然とした。思いもよらない質問だったのかもしれない。


「あれって、爆弾の材料だよね……どうして」


 全てを言う前に、トムは上ずったような声で、割り込んで答えた。


「赤い魔石、綺麗だろ、よく光る。それこそ、小さいけれど、遠くからも見えるんだ」


 アーシアは、ハッとなった。

 その言い方では、まるで目立ちたくて持っていたみたいじゃないか。フードに石仮面で身をいつも包んでいたのに、矛盾している。

 まるで、見つけてほしいみたいに……


「お前の方こそ、あの薬、どうしたんだよ。ただの学生じゃないのか?」


 急に小声になってトムが屈んだ体勢のままアーシアを覗き込むように見上げた。

 少し挑発的な声色だった。


「魔法を解きたかったら、もっと効くのを作ってくるけど…?」


「いいや、いらない。命が惜しいからな」


 アーシアは、口止め魔法にかかったままの方が安全だと言うようなトムの言葉に、ずんと胸が重くなった。

 こんなにまだ若いというのに、制服姿の彼が思い出されて、一抹の苦さを覚えた。








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