表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/50

8 ビッコロ村の錬金術師


 カタリナ・オーツさんの仕事は忙しい。村の人がしょっちゅう訪ねてくる。体の具合がよくなってきた蘆屋あしや改めアーシアは、寝巻ねまきから用意されていた簡単な茶色っぽい服に着替えた。服は薄茶よりのベージュでかぶり式になっていた。そしてようやく自分の滞在している部屋から出て、何かお手伝いはないかと声をかけた。


 生活スペースと一体になっている工房は広いわけではないが、整頓され使いやすそうだ。物づくりを見たりやったりするのは、地球にいた時から大好きなことだった。2つの作業台と大小の鍋。壁側の作業台の上には木の枠で格子に仕切られた箱には金属の玉や棒、様々な工具などが並べられ木の椅子の前には艶のある作業盤が敷いてあった。部屋の真ん中に位置する大き目の台には何も置かれていないが、壁の棚には所狭しとガラス瓶とブリキの箱がサイズごとに一杯並べられ、天井からは、ドライフラワーや木のへらなどの道具が吊るされている。こんな部屋わくわくしてしまう。


 そわそわとオーツさんの邪魔にならないように、作業を見つめていると艶のある石板にむかってオーツさんが真剣に手を翳していた。手元があわく光り、魔法陣のようなものが一瞬現れた。



(わ!オーツさんの魔法かな?)



手と手の間には細かい粒子か光るように動いて見える。光の粒が渦巻うずまくように徐々に形を作っていく。

粒が液体のようになり固まりだした。光がなくなりオーツさんの指の中で小さくずんぐりした棒状のなにか、金属が現れた。

 オーツさんは、慣れた手つきでその金属を木の枠の入れ物に入れた。そこには同じ種類の金属の棒が入っていた。



(インゴットを作ってるの?)




「珍しいかい?」


 オーツさんが机に向かったまま言った。アーシアに気づいていたのだ。



「はい、インゴットですか?魔法?…オーツさんの…魔法なんですか?」



 興奮気味のアーシアに笑いながら、


「なあに、魔法なんかじゃないよ、錬金術さ。巷では()()()()って言われてるけど、この村の人たちには喜んでもらえてるよ。ちょっとした便利な、なんでも屋さ。今は調合用のインゴットの在庫を作ってんだけど、これから頼まれた金具ボタンを作るんだ。見ていくかい?」


 アーシアは頷いていそいそと近寄った。



「インゴット生成は、錬金術師れんきんじゅつしなら忘れちゃいけない訓練さ。普段は湿布しっぷやら腹の薬やらが多いんだけどね。あたしは、ファーマリストじゃないからさ」


「……ファーマリスト?」


薬剤師やくざいしのことさね」



 そう言うとオーツさんは今度は別の小さなインゴットを箱からつまみ一つ出して、作業盤の中心に置いて手をかざした。ぶつぶつと何かつぶやくとパッと魔法陣が現れた。


(!)


 一言も話さず集中して作業を進めているオーツ夫人のため、アーシアは邪魔にならないように声をつぐんだまま、食い入るように見つめた。金属が光りながら粒子になり液体のように姿を変えていく。細かい粒が、離れたり近づいたりねじれるように姿を変える。そして、集まりながら小さくなって、一瞬パッと光った。作業盤の上には、金具ボタンが数個転がっていた。


 蘆屋日奈子あしやひなこ改めアーシアは、飽きもせず長時間食い入るようにそれを見つめていた。



 気が付くと半刻はんとき近くたって、オーツさんは小さなボタンを全て作り上げた。小さな物を作るのにすごい集中力だった。


 「金具ボタンは丈夫なんだよ。後は指ぬきとか縫い針とか小型の工具とかね。金属のものは鍛冶屋かじやがやらないようなこまかいものを作るんだ。

 でも細工師さいくしほど上手うまくないんだけどねぇ」



 ドンドンドン、ドアをノックする音。



「はーい」



「先生、ボタンできてるかい?ちょっと早く来ちゃったんだけどさ」



 大きな男が身をかがめながら入ってきた。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ